欅共和国の罠 ― 捕らわれた男たちの記録 ―

















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序章編 松田里奈と森田ひかるに捕まった男
1.無邪気な女たち
 彼の名は五郎。
 裏の世界では世紀の怪盗、現代のルパンとして名を馳せている。
 今回、彼に舞い込んだ依頼は『欅共和国』の中で要塞と化している『欅ハウス』に潜入し、統治者『ヒラテ』の素性が分かる機密書類を入手すること。
 手に入れたあかつきには、それを高値で売り込んでしこたま儲けようと、五郎は、早速、その『欅ハウス』とやらに潜入した。
 最初は難なく事が進んでいた。
 雲行きが怪しくなったのは隠し階段を見つけ、その先の地下室に入ってからだ。
 暗い通路を歩いている時に、急に意識が薄れ、目眩がした。
 ほんのり異臭がする。
 閉じかけの瞼を見開き、目を凝らすと、天井のダクトからスモークが吐き出されていた。
(催眠ガスだ…!)
 と気づいた時には既に、五郎の身体は冷たい床に這いつくばっていた。
 その後の記憶は曖昧だが、うっすら覚えているのは、誰かに身体を起こされ、どこかへ連行されたこと…。


「うぅ…」
 五郎は目を覚ました。…が、動けない。
 視界に映ったのは見覚えのない部屋。
 ほどなくして、自分が今、その部屋の真ん中で手足に枷をつけられ、「X」の字に拘束されていることに気がついた。
 それに、いつのまにか服を脱がされてパンツ一丁なことも…。
「こ、ここは…!?」
「…気がついた?」
 声をかけられ、ハッとしてそちらに目をやると、小柄な女が二人、立っていた。
 一瞬、子供かと思ったが、整った顔立ちは妙齢の女性そのものだ。
「…お前ら、これはいったい何のマネだ?」
 その質問に、女の片割れ、松田里奈は苦笑し、
「それはこっちのセリフ。夜中にコソコソ忍び込んできたのはアンタの方でしょ?ここは、この欅共和国の官邸…そこに忍び込むなんて大それたことをするヤツ、簡単には帰さないよ?」
 と言えば、さらに、もう一人、さらに小柄な森田ひかるも続けて、
「取り逃がせば我が国を転覆の危機に陥れたかもしれない重要参考人。二度と悪さ出来ないようにしてあげるから覚悟してよね」
 と言った。
「チッ…!」
 必死に手足の枷を揺するが、外れる気配はない。
「ふふっ…暴れてる…」
 何が面白いのか、森田がクスクスと笑う。
 松田は、ゆっくりと五郎の背後に回って、
「その枷は特殊金属で作られた特製の拘束具。この鍵がないと絶対に外れないわ」
 と、鍵を、五郎の耳元でちらつかせる。
「外してほしい?」
 と聞いておいて、間髪いれず、
「そりゃあ外してほしいわよね。こんな格好してるんだから早く隠したいでしょ?アハハ!」
 と笑うのが憎たらしい。
「くそっ…!」
 相手が若い女ということで余計にパンツ一丁の恥じらいが徐々に込み上げる。
「さぁ、泥棒さんには罰として、お仕置きをしてあげないとね。たっぷり楽しませてもらおうかしら!」
 まず二人が手にしたのは羽根だった。
 それを五郎の肌に這わせる二人。
「…くっ…!」
 小さく声を上げる五郎。
 こんなもので痛みなどある筈がない。
 ただ、拘束されて剥き出しの腋や脇腹、へそに当てられると、やはりくすぐったい。
 それが延々と続くので、思わず、
「いつまで続ける気だ!つまらないことはやめろ!このチビども!」
 と、声を荒げる五郎。
「あ〜、チビって言ったぁ!はい、お仕置き〜!」
 森田が、暴言の仕返しとばかりに羽根を腋に這わせる。
 五郎の怒声など、まるで堪えていない。
 それどころか、むしろ楽しんでいるような屈託のない笑顔に、この女のS気質が垣間見えた気がした。
「何でこんなことをするか分かる?」
 ふいに松田が聞いてきた。
 真意が計れずに黙っていると、松田は、五郎の耳元に口を寄せ、
「くすぐりって、性感を高める効果があるんだって…そろそろいい具合だと思うけど、試してみよっか?」
「た、試す…だと?」
 背後から手を伸ばす松田の操る羽根が、胸板を這い、乳輪をなぞる。
「うっ…!」
 ふいの刺激に、つい声を出してしまった五郎。
 その反応に満足そうな笑みを浮かべ、
「それじゃあ、そろそろ本腰を入れようかな。じゃ〜ん!」
 と言って、もう一本、羽根を取り出した。
 それを両手に装備し、左右の乳輪をダブルで責めてくる松田。
「くっ…や、やめろ…!」
 むず痒さに思わず声を押し殺す五郎。
 さらに足元では森田が内腿に羽根を這わせてくる。
 時折、ビクンと反応する五郎に、森田は笑いを隠せないようだ。
 明らかにバカにしたように笑みを浮かべながら羽根を動かす森田はパンツの淵をなぞるように、股の間を往復させる。
 じわじわと額に脂汗が浮かぶ五郎。 
 口を真一文字に縛って声だけは抑えていたが、どうしても制御できない部分がある。
「あれぇ?ここ、どうしたのかなぁ?」
 松田がニヤニヤしながら左右の羽根で乳首をかすめ、
「さっきまでは、こんなに尖ってなかったけど…。もしかして…感じてる?」
「そ、そんなワケないだろ!」
 狼狽し、思わず声を張り上げる五郎。
「でも、勃ってるよ?」
「き、気のせいだ…!」
 苦しい言い訳で逃げる五郎だったが、松田はあっさりと、
「気のせいかぁ…じゃあ、もうちょっと続けてみよっと」
「くっ…やめろ…」
「何で?だって気のせいなんでしょ?」
 意地悪な笑顔を浮かべる松田は、
「ちゃんと自分で勃起したことを認めるまでやるからね」
 と言って、なおも乳首嬲りを続ける。
 一方、森田も、内腿だけでは飽き足らず、とうとうパンツの上まで責めのテリトリーを広げてくる。
「ねぇねぇ、泥棒さん。こういうのはどう?」
 と無邪気な顔で問うわりに布越しに蟻の戸渡りを的確に狙ってくる小悪魔。
 玉の裏と肛門の間を行き来する羽根が刺激を生む。
 そのくすぐったさとじれったさで、徐々に落ち着きを失くしていく五郎。
「あれー?何だ、これー?」
 棒読みのような口調で声を上げた森田が目をやったところ…そこには、早く表に出たがる男のイチモツの膨らみと、先端の染み。
「ここもやってみよっと」
 独り言のように言って、次はその膨らみに羽根を這わせる。
「んっ…くぅぅ…」
 もどかしい刺激が竿をなぞり、先端を撫でる。
 無邪気なふりをして、パンツに浮き上がる裏筋や亀頭をしっかり丹念に責める森田。
「やっば…!どんどんパンパンになってくる!…えっ!?先っぽ、チョー濡れてんだけどっ!!」
 経過を嬉しそうにいちいち声にする小悪魔っぷりが、五郎の羞恥心を煽る。
「ほら、まりな!見て、これ!」
「うわぁ…!濡らしすぎでしょ、それ…染み出てきてるじゃん!」
「コイツ、もしかしてドMかな?」
「や、やめろよ…お前ら…!」
 虫の音のような精一杯の抵抗は、二人の小馬鹿にした笑い声であっさりとかき消された。
 こんな羽ごときで性感帯を刺激され、まんまと翻弄される五郎。
「ほら、もっとシャキッとしなさいよ。シャキっと」
 防戦一方で嬲り甲斐のない五郎に文句を言う松田。
 なおも乳首嬲りを続けながら、
「こんなのでヒィヒィ言ってたら後が大変よ?」
 と言ったのが冗談に聞こえない。
「よーし…そろそろ、アレ、使っちゃおっか?」
 ふいに森田が羽根を操る手を止め、五郎の前から離れていく。
(…?)
 股間への攻撃が中断され、ひと時の安息。
 しかし、部屋の隅の棚から何かを持って戻ってきた森田を見て、五郎は不安を感じた。
 森田が持っていたもの…それは遠隔ローター、いわわる「とびっこ」と呼ばれるものだ。
 それに手に、使う前からニヤニヤしている森田。
「さぁ、次はこれで遊んであげるね!」
 無邪気なドS…五郎は、だんだん、この女のことが怖くなってきていた。

鰹のたたき(塩) ( 2020/04/12(日) 01:20 )