2.裏切りには制裁を
「ほら、こっち来なよ」
「い、痛いっ…!離してっ…!」
掴まれた手首をグイッと引っ張られ、空き部屋に連れ込まれた夏鈴。
この部屋は、普段、ならず者の拷問、もとい、メンバーの性欲処理の際に使われている部屋。
よって、ベッドがあったり、淫具があったり…壁にも磔にするための手枷が備えつけられている。
その壁を目指し、藤吉の身体を引きずっていく森田と井上。
そのまま壁に押さえつけると、素早く頭上の手枷で藤吉の細い手首を繋ぎ留めた。
まず右、そして左も。
「ちょ、ちょっとぉっ…!」
身動きがとれなくなって声を上げる藤吉に向けられる二人の失望の眼差し。
「はぁ…夏鈴、がっかりだよ。ウチらはずっと仲間と思ってたのにさ」
「そうそう。ウチら見捨てて逃げるとかホンマないわぁ…」
「…ご、ごめん。でも…!」
(怖かってん…!許してっ…!)
そして、あわよくば、
(お願いっ…見逃して…)
と眼で訴える藤吉。
だが、さすがに、そんな虫の良い話はないだろう。
いや、それどころか、事態は妙な方向へと進んでいく…。
「そんな弱気やからアカンねんって。気持ちで既に負けてるもん」
と言い出す井上。
「ウチらは『負けへん!』って気持ちでおるから、全然、怖くないで?そーゆー気持ちが足らんのちゃう?」
「そうそう。だから怖いんだよ」
と森田も同調し、
「仕方ないなぁ。その弱っちいメンタル、私たちが鍛えてあげるよ」
と、井上と目を見合わせ、なぜかニヤリと笑った…。
数分後。
バタバタと地団駄を踏む音が部屋から聞こえ始めた。
同時にクスクスとした笑みも。
それを一喝するように、
「ちょ、ちょっとぉっ…!何なん!二人ともぉっ…!」
と抗議の声を上げる夏鈴。
壁に磔にされた細長い身体を、仲間二人の小さな手の平が這い回る。
森田はニヤニヤ笑いながら、
「ふふっ、可愛い♪」
「か、可愛いとかちゃうやろぉっ…!ふ、ふざけんといてぇ…!」
むず痒そうに首を左右に振る夏鈴に対し、
「えー?何もふざけてへんでぇ?」
と井上。
「今後いつ襲われても大丈夫なように、シミュレーションしとかなアカンやん?」
「シ、シミュレーション…!?」
「そう。万が一、敵に捕まってしまった時のシミュレーション♪」
「だから、反応したら相手の思う壷だよー?」
と、敵に成り変わり、くすぐるように指を這わす森田。
続いて井上も。
たまらず、
「んっ、くっ…!もぉっ!い、いいかげんにしてよっ!お、怒るで、ホンマぁ…!」
と声を大きくする夏鈴。
だが、そんな夏鈴に対し、二人は、
「へぇー?今の夏鈴に怒る権利なんかあるの?」
「だったらウチらも、夏鈴が脱走しようとしてたこと、報告せなアカンなぁ…?」
(…!)
表情が固まる夏鈴。
井上は、その固まった顔を覗き込んで、
「誰に報告しよかなぁ?やっぱり、まずは守屋さんかなぁ…?」
「バ、バカっ!井上ッ…!」
とっさに叱りつけるような声を上げ、その後、みるみる青ざめていく夏鈴。
森田も意地悪な笑みを浮かべ、
「守屋さん、今日もすごくピリピリしてたもんねぇ…バレたらタダじゃ済まなそう」
「いいの?夏鈴。どうなっても知らないよー?」
「━━━」
想像しただけで背筋に冷たいものが走る。
規律に厳しく、別名「鬼軍曹」とも呼ばれている副リーダー、守屋茜。
そんな性格の人だから、おそらく、仲間を見捨てるだとか裏切りだとか、そういうことは絶対に許さないだろう。
よって、もし彼女にこのことが知れたら…。
(こ、殺される…!)
ブルッ…と一回、身体を震わせた夏鈴は、
「ま、待って…!」
「…なに?」
「お、お願い…守屋さんにだけは…ひ、秘密に…して…」
ぼそぼそと懇願する夏鈴に、目を見合わせてニヤリと笑う二人。
「ふふっ、そうだよねー。やっぱり守屋さんはヤバいよねー」
「内緒にしてあげてもいいけど〜…」
ふぅ〜っ…と背伸びをして夏鈴の耳元に息を吹きかけた森田。
「だったら、まずは、このシミュレーションをクリアしないとねぇ」
「クリアせな、どっちみち守屋さんに特訓させられるで?」
「…うぅっ…」
反論の余地がなく、唇を噛みながら二人が仕掛けるシミュレーションとやらに付き合うしかない夏鈴。
それをいいことに仮想の敵と化した二人の手つきが活性化し、耳に首筋、脇腹に太ももまで、好き勝手にいじくり回す。
「んっ…んっ…」
身体を揺する夏鈴に対し、正面を陣取った森田が、
「ダメだよ、夏鈴。そんな反応したら、敵がますます調子に乗るよ?」
「そ、そんなこと言ったって…!んっ、こ、こしょばいっ…!」
「へぇ。どこがこしょばい?ここ?それとも…ここ?」
「やぁっ…!」
それまで居着いた脇腹を離れ、おもむろに腋へと移動した森田の指。
万歳をするように吊られた腕は腋を締めることもできず、シャツの上から森田の細い指が夏鈴の腋を好き放題にくすぐる。
たまらず、
「ひ、ひかる…待って!んっ!くぅっ…!」
と声を上げるも、S心に火がついた森田はやめてくれない。
それどころか、
「井上〜。おっぱいが空いてるよ」
と声をかけ、加勢を促す。
それに聞きつけ、そっとシャツ越しの膨らみに手の平を添える井上。
その手を、むにゅっ、むにゅっ…と弾力を確かめるように動かす、なんともいやらしい触り方。
そして急に低い声で、
「おらっ、どうなんだ、お前ぇ〜」
「キャハハ!なに?その声〜。ウケるんだけど!」
爆笑する森田に、
「何か、こんなん言いたがるやん?男って」
と返し、引き続き、低い声で、
「おい、お嬢ちゃん。黙ってないで何とか言ってみろ〜」
と男のマネをする。
それがツボに入り、笑いが止まらない森田。
そんな楽しげな二人とは対照的に、口を真一文字に縛って、ただ耐える夏鈴。
森田の執拗な腋の下くすぐりも相当きついが、夏鈴が本当に困るのは井上の胸揉みの方。
ねっとりとした触り方が、気持ち悪い反面、妙な気持ちにさせる。
「はぁ…はぁ…」
少しずつ息が荒くなる夏鈴。
それに気付いた森田が、
「あれ〜?夏鈴、もしかして…感じてる?」
「ち、違うっ…!そんなワケないやろっ!」
と否定するも、こういう時の森田はしつこい。
「えー?絶対、感じてるよ。息、荒くなってるもん」
「か、感じてないからっ…!」
「ふーん。しらばっくれるワケね?それじゃ、井上!試しにちょっと強く揉んでみてよ」
「オッケー」
と、鷲掴みのような触り方にパターンを変える井上。
「あんっ…んっ!い、井上っ…!や、やめてぇや!んんっ…!」
「ほらー!めっちゃ感じてるじゃん!『あんっ…』とか言ってるし!」
と、ぐいぐい追い込んでくる森田。
手を伸ばして耳たぶを弄りながら、
「ダメだよ、夏鈴。そんな感じやすい身体じゃ、捕まったらイチコロだよ?」
と、もっともらしいことを言う森田と、なおも胸を揉みしだきながら、
「鍛えたらなアカンなぁ?このおっぱい…」
と不敵な笑みで呟く井上。
夏鈴の受難は続く…。
(つづく)