欅共和国の罠 ― 捕らわれた男たちの記録 ―















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戦争勃発編 長濱ねるに捕まった男
1.緊張会議
 官邸「欅ハウス」の中で開かれた緊急会議。
 会を取り仕切る守屋茜は、冒頭、
「虹花がやられた」
 と険しい表情で切り出し、続けて、
「それに関連してかは分からないけど、理佐も、今、行方不明…」
 と付け足した。


 今朝、ハウスの敷地内にて、ここ数日ずっと行方不明だった石森虹花が、全裸で、十字架に架けられて気絶しているのが発見された。
 昨夜の見廻りの時には姿はなく、十字架の杭も立てられていなかったことから、何者かが夜中のうちに忍び込んで十字架を立て、そこに虹花を縛って放置したのだ。
 磔にされた虹花の首には、

<調教済み>

 と書かれたプラカードが掛けられ、それを示すように、股間の毛が綺麗に剃られ、無毛になった土手に“まるで何かの烙印のような”サソリの刺青が刻まれていた。
 すぐにハウス内の医務室に運ばれた虹花。
 幸い、命に別状はなかったものの、何やら妙なクスリを飲まされたらしく、道端の捨て犬を拾い上げてからの記憶が、すっぽりと抜けていた。
 そして何より、目が覚めた時、虹花は、これまでの歩みを否定するかのように、隙があれば指を股間に這わせて自慰行為を始め、同性の仲間にも責めを請うほどの淫乱なドM女へと成り下がっていた。
 この女尊男卑の国を統治するには男の上に立つS性が絶対条件。
 ドM化した虹花は、もう、国の統治に携わることは実質不可能だった。
(誰が虹花をこんな目に…!)
 憤る古参のメンバーたち。
 明らかに何者かの仕業だ。
 この事態を受け、すぐに国を統治する全メンバーが召集されたが、そんな中、一人、連絡のつかないメンバーがいた。
 中核の一人、渡邉理佐である。
(まさか虹花に続いて、理佐も…!?)
 とメンバーに、さらなる緊張が走った。


 重苦しい会議の途中、理佐の部屋を訪ねた井上梨名と藤吉夏鈴が戻ってきた。が、二人は揃って首を振り、
「ダメです。何度、電話しても繋がらないし、部屋にもいません」
「昨日の夜、どこかに出かけたようですが、行き先も、何の用だったかも分かりません」
 と報告した。
 これで行方不明は確定。
 虹花に続いて何者かに拉致された可能性が極めて高いという見方となった。
「おそらく敵は、まず虹花を拉致し、それをエサに理佐を脅迫したんじゃないかな?」
「それで理佐を誘い出し、まんまと捕らえることに成功したかわりに用済みになった虹花を解放したってこと?」
「だって、それ以外に考えられる?」
「…確かに」
 という話し合う小林由依と齋藤冬優花。
 何者かが徒党を組み、この女尊男卑の国のパワーバランスを壊そうとしている。
「とにかく私たちは、そんな反抗勢力に絶対に屈してはならない!」
 と、守屋は、最年長の渡辺梨加から最年少の山崎天まで統治メンバーを見渡し、改めて決意を述べる。
 そこへ現れる菅井友香。
 こちらも緊迫した顔で、
「二人を襲った不貞の輩どもを、即刻、捕らえ、粛清しろ。…ヒラテ様からの伝言よ」
 と伝えた。
 統治神ヒラテの命令は絶対だ。
 まず、敵の輪郭、クーデターを企てた首謀者の洗い出し、目的に特徴まで、とにかく全てを調べる必要がある。
 早速、この国の持てる力を駆使して、調査が行われ、その結果、共和国の南端、R街区から、最近、ならず者の男が数人、相次いで姿を消していることが分かった。
 このR街区は、彼女たちの奴隷として仕えることも出来なかった落ちこぼれが行き着くスラム街で、それゆえ、統治メンバーに私的な怨みを持つ者も多い。
 そんな男たちがメンバーへの復讐を企てて手を結び、虹花や理佐を襲ったというのか?
「それはちょっと無理がありませんか?」
 と、報告を受け、そう言ったのは松田里奈。
「あそこの男たちは、たとえ野心があったとしても、それを行動に移す力のないクズばかりですよ」
 と一蹴する松田に対し、尾関梨香が、
「それを扇動する別の人間が現れたとは考えられないかな?」
「扇動する人間…?」
「そうじゃないと、今、言った通り、あそこにいるゴロツキだけで、こんな大それた事は出来ないよ」
 と尾関が結論づけるように言う。
 となれば、当然、その扇動した人物は何者かということになる。
「ずっと、この国にいた人間じゃないと思う。この国の中で、以前からそういう思想の人間がいたとしたら、もう私たちの耳に入ってる筈…」
「じゃあ、密入国者…?」
「G街区の人間なんて頭の弱いバカばかり。口の上手い人間なら焚き付けて意のままに操ることも簡単だと思う」
 と話を進めていく上村莉奈と原田葵。
 早速、ここ最近、危険思想の密入国者がG街区のスラムに出入りした形跡がないか、それを確かめることとなった。
 だが、スラムの人間たちは保守的で口が堅い。
 統治メンバーとして面が割れているなら尚更だ。
 そこで菅井は、その任務を、変装のプロ、長濱ねるに託すことにした。
 変装してスラムに潜入し、その身体とテクニックで男を骨抜きにして口を割らせる作戦だ。
「頼んだよ、ねる」
「任せて」
 と意気込んで出ていくねる。
 強き女たちの反撃が始まる…!

 ……

 国の南端、G街区へ向かったねる。
 事前に施した特殊メイクで顔を変えて、スラムを歩く。
 ほっつき歩いてるような雑魚に用はない。
 それより、ねるが目をつけたのはスラムにある大衆酒場。
 ここを頻繁に出入りするような人間は、きっと、スラム界隈の近況にも詳しい筈だと踏んだ。
 早速、一人でふらっと飲みに来た女を装い、入店すると、目をつけた男のテーブルへ行き、酔ったフリをして色仕掛けで誘う。
 そのとろんとした上目遣いと甘い囁きでころっと引っかかる男は、酒も入って上機嫌のまま、のるの肩を抱いてホテルへ。
 部屋に入り、くつろぐ二人。
「始める前に、もう少し飲みましょうよ」
 ねるが注いだワインを疑うことなく飲み干した男は、10分もしないうちに正体をなくし、ベッドに沈んだ。
 ここまでは予定通り。
「さて…と」
 特殊メイクを落とし、欲求不満の独り者から統治メンバーの一人へと戻ったねるは、
「情報を聞き出すついでに、私も久々に、少し楽しませてもらおっかな」
 と独り言を言ってニヤリと笑う。
 お膳立ては充分、ようやく任務開始だ。

鰹のたたき(塩) ( 2020/08/04(火) 11:06 )