3.悪魔の打診
若月は大広間のソファーに座らされた。
依然、若月は険しい目で鮫島を睨みつける。
その視線を分かっていながらも、鮫島は、飄々と、
「捜査官を辞めたらしいな?」
「…ええ。唯一、アンタを捕まえることが出来なかったのが心残りだけど」
「そうか。それはすまなかったな」
「そんな思ってもないことはどうでもいい。それより、四人は…?」
「地下にいる。心配しなくても無事だ」
「いや、この目で見るまでは信用できない」
と、若月は頑なに言った。
鮫島は、ふうっと溜め息をつくと、傍にいる下っ端たちに、
「連れてこい」
と言った。
数分して、四人の男が、一人ずつ、人質を連れて戻ってきた。
鮫島の言う通り、全員、無事だった。が、一様に目が虚ろでぐったりとして、それぞれが男に腰を抱えられている。
どうやら逃亡防止のため、幻覚剤か何かを注射されているらしい。
若月はちらちらと様子を窺っていると、鮫島が、その男たちに向かって、
「それ以上、近づくな。それより前はコイツの間合いだ。飛びかかって一網打尽にされるかもしれんからな」
と言った。
(くっ…!)
敵ながら、相変わらず冷静なヤツだ。
「さて…」
鮫島は急に改まって、
「どうだ、若月。ゲームをやらんか?」
「ゲーム…?」
「これから、ある賭けを行い、お前が勝てば人質を解放してやる。うまくいけば四人いっぺんに取り返すことが出来る。…どうだ?魅力的だろう?」
「もし私が負けたら…?」
と若月が聞くと、鮫島は笑って、
「弱気だな。やる前から負けることを想定しているのか?」
「べ、別にそうじゃないけど…」
「お前が負けた時は決まっている」
鮫島は、ぐっと身を乗り出し、若月の顔を下から覗き込むようにして、
「お前の身体を好きにさせてもらう。それだけだ」
(やはり…!)
この男の考えることだから、どうせ、そんなことだろうとは分かっていた。
だが、若月は迷った。
罠のニオイがする。
リスクは高い。が、ヤツの言う通り、うまくいけば人質四人を解放してやれるかもしれない。
(人質さえいなくなれば、あとは、玲香たちが総攻撃をかけて、コイツを叩き潰してくれる筈…)
若月は少し考えてから、
「本当に、私が勝てば四人を解放してくれるんでしょうね?」
「もちろんだ。いくら俺が悪人でも、自分から持ちかけたゲームのルールを反故にするようなことはしない」
「…分かった」
決して信用したワケではない。が、どっちみち、やるしかなかったし、条件も飲まざるをえない状況だった。
「そうか。それじゃあ、早速、準備をしよう」
鮫島は嬉しそうに言った。
若月は不快感に眉を寄せた。
目の前に、下っ端の男たちが四人、一糸纏わぬ姿で仁王立ちして並んでいる。
そして、その光景をニヤニヤしながら見つめる鮫島。
「ルールは簡単だ。その四人の男たちに、一人ずつ、奉仕をして、イカせることが出来ればお前の勝ちだ」
「な、何ですって…?」
「制限時間は一人につき5分。一人イカせれば、その都度、人質を一人、解放してやる」
「その都度?」
「そうだ。仮に四人目で失敗しても三人は解放される。こっちからしたら出血大サービスだぞ?」
「……」
「お前が想像を絶するヘタクソならともかく、二十歳を過ぎた女だ。別に、初めて男に尽くすワケでもないだろうしな」
「……」
「どうなんだ?男のものを舐めたことはあるのか?ん?」
「やるならさっさと始めてちょうだい!」
下衆な質問に嫌気がさして、若月はスタートを促した。
「ククク…それじゃあ、スタートだ。ちゃんと四発抜けるように頑張れよ」
鮫島は、そう言うと、右手に持ったストップウォッチを押した。