山崎怜奈の素顔 -プロローグ-
都内、某スタジオ。
ついさっきまでここで、メーカー『immortality』のビデオ撮影が行われていた。
撮影は無事に終了し、
「よし、撤収!」
と助監督の声で後片付けを始めるADたち。
その前を、
「お疲れ様でしたぁ…♪お疲れ様でーす…♪」
と腰を低くして癒やしの笑顔を振りまきながら横切り、楽屋へと帰っていく専属女優の山崎怜奈。
そんな彼女の遠ざかる背中を見ながら、新人ADの一人が、
「…はぁ…」
と深い溜め息。
それに気付いた先輩ADが、
「ん?何だ?どうしたんだよ、溜め息なんかついて」
「いや、あの女優さん…マジで可愛いな、と思って」
「あぁ、怜奈さんのこと?まぁ、確かに可愛いわな」
と同調するように頷き、ニヤリと笑って、
「…何だ。さては、お前…ガチ恋…?」
「い、いや…べ、別にそういうワケじゃないッスけど…!」
と言いつつ、図星というように顔が真っ赤にする新人AD。
それを見て、最初はニヤニヤ笑っていた先輩だが、ふと真顔に戻って、
「まぁ、別にお前が怜奈さんをどういう目で見ようが勝手だけど、少なくとも現場ではあまりそういう感じは出さない方がいいな」
「え?何でですか?」
「…お前、知らないの?」
先輩は、新人の肩を抱くと声をひそめて、
「お前には気の毒だけど…怜奈さん、片桐社長の“コレ”だから…」
立てて示された小指。
それが果たして、恋人という意味か、愛人という意味か、はたまたセフレという意味かは、その先輩ADにとっても定かではない。