乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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<スピンオフ>現役JK捜査官 ━風紀委員あやめ━
第二話 暴走族に加担する生徒を連れ戻せ!


 乃木高校、月曜日の放課後。
 今日もひそかに、毎週定例の風紀委員会議が開かれていた。
 いつも通り、前週、学校に届いた苦情を羅列したプリントがメンバーの手元に配られる。
 見た瞬間、
「おっ、久々に少ないじゃん♪」
 と、いつもより項目が少ないことを喜ぶレイだが、かといってゼロではない。
 そして、数としては少ないものの、その内容が極めて悪質というケースもある。
 残念ながら今週もそうだった。
 上から順に、
「駅前のドラッグストアからの苦情、内容は万引き…続いて、学校近くの民家からの苦情、内容は生徒の路上喫煙…続いて…」
 と読み上げていく北川。
 そして、次の欄、
「2丁目の国道沿いのコンビニからの苦情…○月○日の深夜、暴走族が店の前で長時間にわたって集会を開き、大声での談笑、喫煙、バイクの空フカシなどを繰り返し…」
 と北川が読み上げている途中で、
「暴走族って、今の時代、まだいるんだ…」
「ね。時代遅れだと思わないのかな?」
 と、コソコソ言い合っては苦笑いの柚菜と松尾。
 北川は気にせず言葉を続け、
「あまりに長時間ずっと居座るので見かねて注意しに出てきた店員に、族の一人が催涙スプレーを噴霧するなど、騒ぎに発展。店員いわく、このスプレーをかけてきた族が高校生ぐらいの年齢に見えたことから、さては乃木高校の生徒たちではないのかという調査依頼。ちなみにスプレーを浴びたその店員は目の痛みを訴えるも軽傷、大事には至らず…」
「━━━」
 一様に苦虫を噛み潰したような顔になる面々。
 しばらく沈黙があった後、
「ま、まさか…そんなことは…ね…」
「そ、そうだよ…ウチの生徒が暴走族なんて…そんな…ないない…」
 と、引きつったような作り笑いを浮かべるレイと沙耶香に対し、黒見が、
「ちなみに…そのコンビニの店長から、実際の模様が収められた店頭の監視カメラの映像が届いてます。それがこちら…」
 と、添付されていたDVDをテーブルに出す。
 どうやら、実際に見て確認しろ、ということらしい。
「はぁ〜…やだなー、見たくないよー…」
 と肩をすくめるレイ。
 もし、そこに映っているのが乃木高校の生徒だったら…という嫌な予感がメンバーたちを包むが、かといって届いたものを見ないワケにもいかず、気が滅入るメンバーたちを尻目に、黙々とDVDをプレーヤーにセットし、再生する黒見。
 そして、モニターに映し出された映像は、報告書にあった記述そのまま。
 深夜、改造バイクで乗りつけ、店の入口の前にもかかわらず扇状に並べて談笑する暴走族たち。
 店内で買い物をする様子はない。
 客でもないということで、数分後、見かねて店から出てきた店員が歩み寄り、注意したのを皮切りに口論になったかと思うと、おもむろに族の一人が店員の顔めがけてスプレーを吹きかけ、それを浴びた店員がうずくまって苦悶している隙にバイクを駆って蜘蛛の子を散らしたように一斉に逃げ出していく。
 そして、その一部始終の映像を見た風紀委員たちの顔が一斉に曇ったのは、やはり危惧した通り、その少年が乃木高校の生徒だったことだ。
 面が割れているので問題の生徒の名前はすぐに分かった。
 尾形…この中では松尾と矢久保が同じクラスだという。
 ただ単に暴走族たちの談笑の場に居合わせただけならまだしも、これは明らかな一味の逃走への加担であり、店員に対する傷害行為でもある。
 しかも、再度、映像を巻き戻して見直すと、騒動の直前、煙草まで吸っているではないか。
 当校の生徒が深夜に街に出歩き、暴走族の輪に加わっているなんて言語道断。
 学校の品格をかけても、風紀委員として絶対に見過ごすワケにはいかない。
 ただちに更生が必要だ。
 早速、
「この尾形くんって、どういう生徒?」
 と、同じクラスの松尾と矢久保に問うレイだが、聞かれた二人は揃って困惑の色を浮かべて、
「ねぇ…尾形くんって、こんなことするタイプだっけ…?」
「いや、私には寡黙な男子ってイメージしかなかったんだけど…」
 と顔を見合わせる。
 学校内では、とりわけ不良でもない筈の生徒。
 そんな彼が、深夜徘徊、喫煙、さらには暴走族と交友しているという意外なプライベートが発覚した。
(何かワケがありそうね…)
 家庭環境が複雑なのか、それとも鬱屈とした学校生活に対する反動か。
 こうして非行に走る理由は人それぞれ何らかの原因があるにしても、だからといって学校の評判を下げるような行為は見過ごせない。
「…よし、今週はこれを解決しよう。みんなッ!手分けして調べるよ!」
 とリーダーシップを発揮するあやめ。
 乃木高の風紀委員、精鋭たちの情報収集が始まった。

 ……

 それから二日後の水曜日。
 この日も尾形は、日中はずっと寡黙な生徒を演じたまま学校を終え、静かに帰宅した。
 帰ったといっても別に「ただいま」を言うこともなく、そっと玄関を開け、父親の気配がないのを確かめると、そのまま一目散に二階の自分の部屋へ閉じこもる。



 さっと通り抜けた玄関だけでも既に酒臭い。
(また朝から飲んでやがったな、あのクソ親父め…)
 いないということは、さしずめ駅前のパチンコでも行ってるに違いない。
 チラッと壁掛けの時計に目をやる俺。
 途中で切り上げて帰ってくるような性格ではない。
 パチンコ屋の閉店時間から逆算すると、こうして安息の気持ちで家にいれるのもせいぜい23時が限度。
 あてもなくベッドに寝転がり、ぼーっと見つめる部屋の天井。
 こうして一人で家にいると、虚しさに押し潰されて無性に悲しくなる。
(いつからだろうな…何もかもが楽しくなくなったのは…)
 元々は、父、母、俺、そして妹の四人で暮らす仲睦まじい一家だった。
 そんな一家を引き裂いたのは、この現代の不況の波…。
 親父がリストラに遭い、仕事もせずに家でヤケ酒を煽るようになったのが全ての発端…転落の序章…歯車の狂い始め…。
 酒に溺れた親父は、その溜めたストレスを次第に俺たち家族に対してぶつけるようになり、嫌気が差した母親は、どこからか工面した当面の生活費という手切れ金を夕食代わりに食卓に残し、歳の離れた妹だけを連れて夜逃げ同然で家を飛び出した。
 その時、俺も一緒に連れて行ってくれなかったことは、今でも恨みに思っている。
 当時は、なぜ母が妹だけを連れ、俺のことを見捨てて行ったのかが不可解だったが、それも、ほどなくして親父が、うっかり、俺はあの母親の子ではなく前妻との間に生まれた子で、俺がまだ物心つく前の再婚だったと口を滑らせたことで全てが繋がった。
(血も繋がってない俺の面倒まで見る義理はない、ってことか…)
 生みの親ではなかったとしても育ての母であったことに変わりはない。
 そこに少しは情が動いてほしかったところだが、そうもならないぐらい、とにかく一刻も早く離れたかったようだ。
 こうして見捨てられた俺はアル中の親父と二人で暮らさざるを得なくなった。
 頼る親戚すらいない。
 みんな、厄介者と化した親父を避け、次々に縁を切って離れていった。

(じゃあ、元気で…)

 と感情ゼロの無表情で小さく告げ、目の前で、次々に暗闇の中へと消えていく育ての母、可愛がってきたつもりの妹、そして親戚たち…。

(ま、待ってくれよッ…!俺も…俺も一緒にそっちへ連れてってくれよッ…!)

 と、慌てて追いかけようと駆け出した瞬間、不意に足場が崩れ、そのまま自分だけが奈落の底へ…というところで、

(…!)

 …目が覚めた。
 身体を起こすと、いつの間にか窓の外は真っ暗。
(…いかん、いかん。すっかり寝てしまった…)
 思い出してもひもじくなるだけの夢などすぐに忘れ、再度、壁のボロ時計を見ると、時刻はまもなく23時。
(まずい…寝すぎた…!)
 学生服のまま、慌てて外出の支度を始める俺。
 モタモタしてると、あの酒乱が帰ってくる。
 どうせ帰宅早々、また酔いに任せて怒鳴られ、理由もなく殴られるだけだから、それなら触らぬ神にはなんとかかんとかで外へ避難している方が遥かに得策。
(俺が深夜徘徊をするのは、いわば自己防衛なんだ…!)
 そして薄暗い部屋の中、チカチカ光っているケータイに気付き、確認すると、寝ている間にメールが届いていた。

<今日の集会は△△神社の裏の公園。来る時に煙草を買ってこい。銘柄はマイルドセブン>

 と、最近、仲間に入れてもらった暴走族からの業務連絡メール。
(煙草ぐらいなら安いもんだ…これで今晩、この嫌な現実を少しでも忘れさせてくれるなら…)
 と、ケータイをしまい、一階に下りて茶箪笥の引き出しを開ける。
 中には封筒…その中身は、逃げた母親の残していった手切れ金。
 スッと封筒を持ち上げた瞬間、
(チッ…クソ親父め…またここから持っていきやがったな…)
 どうせ使い道は酒かパチンコ…日に日に薄くなる封筒の手触りに舌打ちせずにはいられない。
(ヤバいな…来月には尽きそうだ。このままじゃ、いよいよ生活すら危うい…)
 と、さすがの俺でも危機感を感じるが、当の親父はそんなことよりも酒とパチンコだから、もはや野垂れ死に秒読み…絶望しかない。
 俺は、そんな現実からどうにか目を背けたくて、封筒の残額は見ないまま、手探りで掴んだお札を一枚だけを抜き取り、それをポケットにしまって引き出しを戻した。
 そして制服のシャツの上からパーカーだけ羽織って家を飛び出した俺は、近所のボロアパートの隅に停めておいた原付きバイクにキーを差し込む。
 移動用というテイで貸し与えられたアクセルをフカすとやたらとうるさく、取り外されたナンバープレートのところがチカチカ光る改造スクーター。
(ダセぇよな。こんなの乗ってるヤツ…)
 と思いながらも、それに跨がり、爆音を立てながら俺は、いろんなものから逃げ出すように閑静な住宅街を走り去った。

 ……

 裏路地を縫うように走ること数分。
 集会ポイントのすぐ近く、シャッターの下りた商店の前の煙草の自販機にベタ付けでバイクを停め、降りる尾形。



 年齢確認をされるのでコンビニなどでは買えず、自販機から仕入れるしかないからだ。
 キョロキョロと周りを確認し、街灯の明かりだけであることを確認し、パシリ用に持たされているタスポを取り出す尾形。
 だが、それを読み取り機のところにかざそうとしたところで、

「…ダメだよ。買っちゃ」

(…!?)
 ぎょっとして声のした方に目をやると、自販機の陰から、自分と同様、乃木高の制服にパーカーを羽織った女子がスッと現れた。
「2組の尾形くんだよね?高校生がこんな夜遅くに、まだ作れる筈がないタスポを持って煙草の自販機の前にいるのは、どういうつもり?」
 腕組みをして問いかけるその女、風紀委員の筒井あやめ…!
(チッ…)
 厄介な女に見つかったと思いつつ、
「…お、親父におつかいで頼まれたんだよ…」
「へぇー?おつかいでわざわざこんな隣町まで来るんだ…?尾形くん家のすぐ近くにもこれと全く同じ品揃えの自販機がある筈だけど?そこだと歩いて一分足りずで済むのにね」
 月並みの言い逃れなど全て論破して潰せるよう、この二日間でちゃんと調べてある。
 尾形も慌てて、
「そ、そんなの別に俺の勝手だろ…!俺がどこで親父の煙草を買おうと、それをお前にとやかく言われる筋合いねぇから…!」
「ふーん…まぁ、それはそうだけど…」
 あやめは次に、尾形が乗ってきたスクーターに目を移し、
「来た時、ヘルメット被ってなかったよね?それにこのバイク、ナンバープレートも無いし、明らかな違法改造…これでもし無免許だったらさすがにシャレになってないよ?尾形くん」
「━━━」
 あやめは、押し黙る尾形にさらに追い打ちをかけるように、
「学校宛にもキミに関する苦情が届いてる」
「く、苦情…?誰からだよ…」
「二丁目のコンビニ。注意しに出てきた店員に催涙スプレーを吹きかけた覚え、あるでしょ?」
「━━━」
「最近のキミがしてること、さすがにちょっと目に余るよ?」
「━━━」
 後ろめたさで目を逸らして俯く尾形と、俯いてもなお彼を睨みつけるあやめ。
 そしてあやめが、そんな尾形に対して次にとった行動は…?



「諭す」 → 「NEXT」で「第二話 Aルート」へ


「まず尾形の持ち物を調べる」 → 「INDEX」に戻って「第二話 Bルート」へ


(※)
惰性で「NEXT」を押すと必然的にAルートに進みますので、Bルートだと思った方は
焦らずに落ち着いて、一度「INDEX」に戻ってからお進みください。

鰹のたたき(塩) ( 2022/11/21(月) 01:31 )