乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































小説トップ
<スピンオフ>現役JK捜査官 ━風紀委員あやめ━
プロローグ


 都内某所にある男女共学の『乃木高校』、通称・乃木高。
 古くからある宅地の真ん中にそびえ立つマンモス校で、進学率も上々、なおかつスポーツでも大きな大会の常連と、文武両道の手本のような、地元でも由緒ある名門として名が通っている。
 そして近年、都市計画の一環で当校の北側一帯が再開発重点地域に指定され、その一角の街並みが以前と見違えるように一変した。
 まず、そのエリアにあった乃木高の最寄駅、K電鉄の『乃木高校前』駅。
 これも元々は昭和中期に造られた古くて趣のある駅舎だったが、駅のすぐ傍を幹線道路が走っていることからラッシュ時間帯の「開かずの踏切問題」が浮上し、その解消のため、線路、駅舎ともに高架化された。
 それに合わせて旧駅舎の跡地に建てられた商業複合施設とデッキで直結し、さらにそのビルが若者をターゲットにしたテナント中心で構成されたため、一躍、昔ながらの学生街から若者の拠点へと様変わり。
 数年前まで普通電車しか停まらなかった駅が今では区間快速、快速、通勤快速など全ての種別が停まる主要駅になった他、より若者が集う街にしたいという区長や区議会の意向によって、先日、とうとう駅名も、素朴な『乃木高校前』から『乃木ニュータウン』へと改名された。
 ゆくゆくは都心直通の地下鉄の延伸開業、高速バスや空港アクセスの発着や、高層マンション計画など、さらなる発展の未来予想図も現実味が帯びてきて地域の活性化としては喜ばしい一方、その玄関口となる駅周辺が完全なる若者向けの街へと極端な特化をしたせいで治安の悪化が懸念されることを昔からの地元住民に再三にわたって指摘された。
 現に、近隣の乃木高に通う生徒の夜遊びや万引きによる補導が著しく増加している。
 あの文武両道を地で行く名門校の生徒が、である。
 数年前まで、下校時、ろくに寄り道するところもなく、部活に励むか足早に帰宅するかの二択だったところに、ドリンクバーがあるファミレス、ファーストフード店、カフェ…大規模な書店にカラオケ、ゲームセンター、挙げ句の果てにはロフト、ドンキホーテと、思春期を刺激する誘惑が大挙となって現れれば、当然、寄り道しないで帰る方が難しいという生徒たちの気持ちも分かるが、それと風紀の乱れはまた別。
 そして、そんな校内の風紀の乱れに対し、教員以上に憤りを感じている一人の女子生徒がいた…!

 ……

 夕暮れに差し掛かると同時に賑わいが増す『乃木ニュータウン』駅。
 東西の自由通路を行き交う若者の中には、乃木高の制服を着崩して歩いている者も多い。



 その手に持っているのが参考書なら感心するが、残念ながら目につくのはスタバのカップ、クレープ、タピオカドリンクなどなど。
 周囲を気にせず大声で会話しながら広がって歩く集団もいれば、男と手を繋いでカラオケに消えていく女子生徒も。
 校則上は、当然、下校途中、制服姿での買い食いや寄り道は禁止、不純異性交遊などもっての他だが、既にここまで無法地帯と化した状況で見回りに出て一人ずつ声をかける教師などいない。
 せいぜい「暗くなる前には帰ること。それから、くれぐれも問題になるようなことはしないように」と、生徒の自主性に委ねる程度の認識だろう。
 そんな野放し状態だから、当然、軽々と一線を越える生徒が後を絶えない。
 駅ビル内のとある書店。
 真面目に参考書を買って帰る生徒もいる中、どう見ても勤勉とは思えない男子生徒が三人、コミックコーナーへ足を進める。
 途端に、きょろきょろと周囲を見回す三人。
 そして次の瞬間、仲間の二人が壁を作るように身を寄せ合い、残る一人を隠した。
 ごそごそと怪しく動く男子生徒の塊。
 やがて、その結束を解くと、お目当ての本が見当たらないフリをして一目散に店から出ていく三人。
 三人がいた場所からはワンピース、鬼滅の刃、呪術廻戦、キングダムなどの人気コミックが、それぞれ一冊ずつなくなっていた。
 そのまま三人はビルを出て、足早に改札を抜けてホームへ。
 いつものように停車位置から外れて人がいないホーム端のベンチを確保すると、しめしめとスクールバッグの中から盗んできたコミックを取り出し、ニヤニヤする生徒たち。
「さーて、どれから読もうかな」
「俺、ワンピース」
「あっ、俺も」
「え、俺もワンピースがいいんだけど」
「じゃあ、じゃんけんだ」
 となって、
「よーし…じゃんけん、ほいっ!あいこでしょ…!あいこでしょ…!」
 と、よほど気が合う悪友たちなのか、あいこが続く。
 そして、
「よっしゃー!俺が一番!」
 とグーで一人勝ちして喜ぶ男子だが、ふと背後に嫌な気配を感じ、それと同時に、前にいる仲間二人が、
「げっ…!」
「やべっ…!」
 と顔色を変えた。
 振り返ると、そこには、同じ乃木高の制服を着た女子…例の“噂のアイツ”が腕組みをしながらムッとした眼で睨んでいた。
「…見てたわよ、アンタたち」
 とその女生徒は口を開き、
「あの慣れた手口…初犯じゃないよねぇ?これまでも何回かやってるんでしょ?」
 と核心をついてくる。
「━━━」
 後ろめたさから何も言えない三人組を見かねて、
「…今すぐ返してきなさい。素直に私の言うこと聞いたら、明日、職員室への呼び出しぐらいで済むかもね」
 と言うその女の態度に、ついカッとした一人が、
「な、何だとぉ?テメェ、風紀委員だか何だか知らねぇが、いつもいい気になりやがって…!」
 と悪態をつくのを残りの二人が、
「おい、やめとけって」
「三組のブクロみてぇになりてぇのか?」
 と慌てて止める。
 三組の不良生徒・ブクロ。
 なまじっか女子からモテることを利用し、不良仲間たちと『同じクラスの女子とバレずに何股まで出来るか?』とゲスい遊びを企んで、片っ端から女子に手を出していた途方もないこの生徒は、先日、何者かにボコボコにされ、それも目下、制裁を下したのは風紀委員の彼女ではないかと言われている。
 どうやら見た目おっとりしているわりに護身術などの心得があるため、ナメてかかると痛い目を見るらしい。
 現に不良でありながら見事にボコボコにされたブクロが良い例だ。
「アイツ、全治一ヶ月の大怪我なんだぞ?」
「自分に負い目があるから何されようが泣き寝入りするしかないんだ」
 と、自分たちの万引きもこのケースと置き換え、必死になだめる。
 それを聞いて、逆ギレしかけた男子も冷静になって、
「わ、分かったよ…返してくるよ…」
 と態度を改め、トボトボと改札の方へ戻っていった。
(ふぅ…まったく…)
 と、依然としてなくならない風紀の乱れに溜め息をつくその風紀委員の女子生徒。


 彼女の名は筒井あやめ。
 現在、乃木高の二年生。
 生まれ持った正義感で校内の風紀を正し、悪質な事案に対しては容赦しない。
 そして彼女には、もう一つの顔がある。
 不良の男子生徒を一人でボコボコにできるほどの強さの理由…現役高校生でありながら、実は性犯罪撲滅組織『乃木坂46』の一員でもあるのだ。

(風紀の乱れ…性犯罪…そんなものは私が絶対に許さない!)

 風紀委員と女捜査官…二つの顔を合わせ持つ正義感溢れるスーパー女子高生、筒井あやめ。



 ここでは、彼女が“風紀委員”として乃木高の中で奔走する様子を記すこととする。

 
(つづく)

■筆者メッセージ
以前、読者さんから頂いたアイデアを作者恒例の見切り発車で唐突に始めちゃうあやめちゃん主役のスピンオフで、ひとまず触り程度に肉付け出来たところまで書いてみました。
まだ“ひとまず”の域なので細かいところをもう少し練り、ある程度やっていける算段がついたら(不定期ですが)執筆を開始していきたいと思います。

今後はクラスメイト的な役回りで他の四期生(+新四期生)も出していくつもりですが、主人公のあやめちゃん以外のメンバーは普通に出すと本編とぐしゃぐしゃになるので、こちらでは初登場時のみ、ぼやかした名前(例:遠藤さくら→進藤さくら 賀喜遥香→賀喜遥加 など)で出して“本編の仲間とは別人”というテイにしつつ、それ以後は普通に「さくら」とか「賀喜」と表記して、四期生総出の学園モノみたいな雰囲気も出していけたらと思います。

PS. アイデアくれた読者さん。もし思ってたのと違う感じだったらごめんなさい。
鰹のたたき(塩) ( 2022/01/03(月) 01:48 )