乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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第四部 第九章・金川紗耶&掛橋沙耶香の場合
掛橋沙耶香サイド―3.仕切り直しの代償
「くっ…んっ!はぁっ!や、やめっ…んひぃっ♪」
 小さな身体の上にドカッと腰を下ろされ、無防備な脇腹をくすぐられて悶絶する沙耶香。
 はねのけようにも俯せの背中の上に座られてはやりようがなく、抜け出そうにものしかかる男の体重で身動きがとれない。
「く、くそっ…んあぁっ♪さ、触るなぁっ!ふにゃぁっ♪」
 凄む声と嬌声を交互繰り返し、まるでリングの海を泳ぐようにバタバタと脚を打つのが精一杯の抵抗だ。
「おらおら、どうしたぁ?」
「もうおしまいかぁ?だらしねぇなぁ!」
 とリングサイドからニヤニヤしながら浴びせられる野次。
 そいつらにキッとした眼を向け、
(お、お前らも全員ぶっ飛ばしてやる…!ボコボコにしてやるから覚えてろっ…!)
 と視線を送るも、
「へへへ。よそ見する余裕なんてあるのか?おい」
 と、脇腹を這う指をさらに激しくされ、再び悶える沙耶香。
「ひ、ひぃっ♪」
「さぁ〜て、そろそろ…♪」
 男は嬉しそうに呟くと、ふいに沙耶香の細い手首を掴み、捻って後ろに持ち上げて固めた。
「痛っ…!がぁっ…!」
 肩の関節を固められて苦悶する沙耶香だが、男の狙いは関節を痛めつけることではない。
「へへへ。ほ〜ら、これで腋の下が丸出しだ。ここもたっぷりとくすぐってやるぜ」
「や、やめろっ!やめろぉっ!んひゃぁぁっ♪」

 こちょこちょ…♪こちょこちょ…♪


 汗ばんだ腋の下に指を這わされ、まるで電気ショックでも食らったかのようにのたうち回る沙耶香。
 その暴れっぷりは、背中に乗る成人男性を跳ね飛ばすほどだ。
 その揺れを、
「おっと…危ねぇなぁ…♪暴れんじゃねぇよ、てめぇ」
 とロデオのように乗りこなし、
「やめてほしけりゃ、跳ね返してみろ!」
 と、さらにくすぐる。
「ふひぃっ♪ひゃぁぁっ♪」
 腕が痛い。
 だが、それ以上にくすぐり攻撃によって押し寄せるむず痒さが耐え難い。
(くっ…ダ、ダメだ…抜け出せない…!)
 悶えながらも必死に背筋を駆使し、男の尻の下からの脱出を試みるも、そのたびにくすぐりで力を抜かれ、上手くいかない。
「おいおい、ヤバいんじゃねぇの?」
「されるがままになってんぞ!お嬢ちゃん!」
 と野次るリングサイドの声を聞き流し、
(くっ…ロ、ロープ…!)
 と、すがるように目の前のロープ手を伸ばす沙耶香。
 本来、格闘技のリングにおいてロープを掴むことは反則。
 だが、そんなことに構っていられず、とにかくこの劣勢を抜け出すにはロープに助けを求めるしかない。
「くっ…!うぅっ…!」
 あと数センチ。
 ロープさえ掴めれば、そこから身体を引き抜いて何とか逃れられるかもしれない…そんな一縷の望みをかけて手を伸ばす沙耶香。
 だが…。
「ん〜?何だぁ?こっちも、ってか?」
 手を前に伸ばす、イコール、腋の下を無防備にすること。
「仕方ねぇなぁ…ほらよっ!」
 しめたとばかりに左右ダブルくすぐりに転じる男に、たまらず、
「ひぎぃぃっ♪」
 慌てて伸ばした手を戻すも、既に腋の下に潜り込んだ“くすぐり蜘蛛”は居着いて立ち去らない。
「ハハハ!すっかり汗だくじゃねぇか!ビショビショだぞ!」
「ひぃっ、や、やめっ…あぁっ!ダメぇっ!くすぐったいからぁっ…♪」
 と、可愛い声が出てしまう沙耶香。
「おいおい、早くも大ピンチじゃねぇかよ」
 と、リングの高さと目線を合わせるように腰を屈め、ロープの隙間からニヤニヤと悶える沙耶香を眺める幹部。
「その体勢はもう無理だろ。仕切り直すためにも、ここらで一回ギブを使っておいた方がいいんじゃねぇか?んん?」
「くっ…うぅっ…」
 確かにヤツの言うことにも一理あるかもしれない。
 今の状況では体勢を入れ換えることはほぼ不可能。
 このままでは、くすぐられ放題だ。
 だが、もちろん抵抗もある。
 ギブアップで仕切り直す代償があるからだ。
 幹部が手にするお楽しみボックス。
 その中に入っている指令を遂行しなくてはならない。
 どんな指令が入っているかは分からない。が、もちろん、簡単な指令ではないのは確か。
 さしずめ、羞恥心を刺激するような卑猥な指令に違いない。
(ど、どうしよう…どうすれば…?)
 迷う沙耶香。
 だが、その間もくすぐりは続く。
「ふ、ふひぃっ♪はにゃぁっ♪」
 またおかしな声が出た。
(ダ、ダメっ…!もう限界っ…!)
 むず痒さに耐えきれず、
「ギ、ギブ…!ギブっ!」
 と口にする沙耶香。
 その瞬間、ピタッと手を止め、スッと腰を上げる男。
「へへへ。とうとうギブか。まぁ、あの体勢なら逃げようもないし、仕方ねぇな」
 と、してやったりの笑みを浮かべると、
「おら、立てよ。ルールだ」
 と、リングに沈む沙耶香に声をかける。
「くっ…」
 悔しそうに立ち上がる沙耶香。
「さて…それじゃ、早速、一回目の指令を引かせてもらおうか」
 と楽しそうな幹部がボックスに手を突っ込み、かき混ぜて、
「…これだ!」
 と、中に詰め込んだボールを一つ、掴み出す。



 まず自分が見る幹部。
 ニヤリと笑みが浮かべ、
「なるほど。まずはこんなものか」
 と一人で納得し、それを仲間に回す。
「おぉー!」
 と反応する男たち。
 そして最後に見終わった男が、
「ほらよっ!」
 と、そのボールを沙耶香にも投げ渡す。
 キャッチし、目をやる沙耶香。
 ボールに書かれていた指令…。
 それは、

<タンクトップを捲り上げ、胸を見せながらリングを一周>

(くっ…!)
 思わず目が鋭くなる沙耶香。
 やはり思った通り、羞恥心を刺激する系の指令だ。
「さぁ、とっとと始めてもらおうか」
「おら、さっさとやれよ」
「すぐ出来ることだろ」
 と野次る男たち。
 熱気で出た汗が脂汗に変わる。
 ふざけた指令だが、そんなルールでも受けて立つと言った手前、従う他ない。
(や、やるしかない…)
 ぷるぷると震える指で、着せられたタンクトップの裾を摘まみ、ゆっくりと持ち上げる沙耶香。
 ぷるんっ…と肉が揺れ、まだ誰にも触られたことのない無垢な微乳が現れる。



「おぉー!」
 と思わず声が上がるリングサイド。
 その男たちに順に見せつけるように、タンクトップを摘まんだまま、ゆっくりとラウンドガールのようにリングの隅から隅を回る沙耶香。
 目につく男たちの視線は明らかに顔より下。
 捲り上げて晒した胸の膨らみに向いているのが手に取るように分かる。
 不貞腐れたような表情の沙耶香。
 それも当然といえば当然だ。
 ただでさえ恥ずかしい上に、黙って眺めるならまだしも、
「おぉ、いいねぇ…♪」
「俗に言う“ちっぱい”だな。乳首もキレイなピンク色で可愛らしいじゃねぇか」
「処女ってことは、まだ誰にも触られたことがないんだな」
「誰が初めての男になるかねぇ?」
「俺だ」
「バカ言え、俺だよ」
 と、猥談が飛び交う下世話なところが腹立たしい。
(くっ…あとちょっと…あとちょっとだから…)
 と自分に言い聞かせて足を進める沙耶香。
 リング一周を終えると、サッと手を離し、すぐにタンクトップを直して、
「こ、これでいいでしょ…!」
「あぁ、上出来だ」
 とニヤニヤ顔の幹部。
「どうする?少し休むか?」
「大丈夫…」
 と、そっけなく返し、さっさとリング中央に戻る沙耶香。
 恥じらいで、やや高潮した頬。
 冷静さを取り戻すようにせわしなく深呼吸を繰り返し、再び男と対峙する。
 仕切り直しの代償は決して小さくない。
 初めて自ら裸を見せた異性がよりによってこんなヤツらとは間違いなく人生の汚点だ。…が、これで少しは対策ができる。
(必ず、また、くすぐり責めにしようとしてくる筈…!)
 あれだけの反応を引き出せただけに、もう一度、同じ目に遭わせるつもりでかかってくるのは目に見えている。
 それを、いかにしてかわし、いかにして反撃を加えるか、だ。
「へへへ。さぁ、次はどんな指令が出るか楽しみだなぁ?」
 と、すっかり、またギブアップを奪う気でいる男。
(同じ手は食わない…!)
 と心してファイティングポーズをとる沙耶香。
 そして試合再開のゴングが鳴る。
 沙耶香の戦いは、まだ始まったばかりだ。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2021/12/12(日) 00:21 )