乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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第四部 第九章・金川紗耶&掛橋沙耶香の場合
掛橋沙耶香サイド―1.燃えろ!格闘少女
 下卑た男たちの視線。
 それを無視して沙耶香は、簡単な柔軟体操を済ませ、さっさとウォーミングアップのステップを始めた。
 タンクトップにショートパンツ。
 どちらも用意されたものを半強制的に着せられたものだが、思っていたより馴染んで動きやすい。



 剥き出しで色っぽい肩と細い腕、そして、タンクトップで嫌でも強調される小ぶりな胸の膨らみをニヤニヤと眺める男たちの視線に対し、威嚇するかのように、目にも止まらぬ速さのシャドーを見せつける沙耶香。

 シュッ…!シュッ…!

 バンテージを巻いた小さな手から放つ鋭いパンチの連打。
 幼少期に空手を習い、訓練で学んだ護身術、さらにプライベートでもボクササイズに通うなど、小柄で童顔な見た目とは裏腹に、実は格闘少女な沙耶香。
 見ている…男たちが舌なめずりをしながら見ている…。
 その視線を跳ね返すように、沙耶香は黙々とシャドーに打ち込み、内から沸く闘志を、よりいっそう焚きつけた。

 ……

 クロロホルムの深い眠りから目覚めた沙耶香は、小汚ない煎餅布団の上で寝転がっていた。
 ぼやけた目に映る鉄格子…。



 どうやら、どこかの牢屋、独房の中らしい。
「…うっ…」
 起き上がると同時に、吐き気が込み上げる。
 まだ少し頭が痛むのは、クロロホルムの余韻か。
 なぜこんなところにいるのか記憶も曖昧だが、この監禁同然の状況、イコール、残念ながら敵の手に落ちてしまったと考えて間違いあるまい。
 頭痛が収まるにつれ、不覚をとった瞬間の記憶が鮮明に蘇る。
(そうだ…私は部長に…)
 まさか上司である部長から不意打ちに遭うとは思いもしなかった。
(くっ…!)
 と思わず歯噛み。
 まんまとしてやられた自分自身が情けなく、許せなかった。
 そして、同時に、
(そうだ、やんちゃん…!)
 一緒にいた金川紗耶が見当たらない。
(ま、まさか…!)
 青ざめる沙耶香。
 眠っていた自分より一足先に下衆な男たちの魔の手に…?
「やんちゃん!…やんちゃん!」
 声を上げる沙耶香だが、残念ながら返事はない。
 代わりに、その声を聞きつけ、廊下の向こうから足音が聞こえ始めた。
 ハッとして、咄嗟に身構える沙耶香。
 鉄格子の向こうに現れたのはマークしていた幹部と、その子分たちだ。
「へへへ、やっと目が覚めたか」
「目覚めの気分はどうだ?」
「可愛い寝顔だったぜ?お嬢ちゃん」
 と口々に話す子分たちに、
「き、貴様らぁ…!」
 と、反射的に駆け寄って鉄格子を掴む沙耶香だが、次の瞬間、

 バチバチっ…!

「痛った…!」
「ハハハ!むやみに触らない方がいいぞ。電流が流れているからなぁ!」
 と幹部は笑って、
「残念だったな、掛橋沙耶香。今朝も早くから俺を監視して張りついていたようだが、まさかあの男が刺客だったとは思いもせずか?」
「くっ、お前ら…!部長に何をした…!」
 脅迫…?催眠…?それとも洗脳…?
 部長が寝返ってコイツらに加担した原因の予想は多岐に渡るが、幹部は、
「それは知る必要のないことだ」
 と冷たく一蹴し、教えてくれなかった。
 それならそれで、沙耶香も質問を変え、
「やんちゃんは…!やんちゃんはどうした…!」
「やんちゃん…?あぁ、なるほど。金川紗耶、紗耶だからやんちゃんか」
 と幹部は呼び名の由来を紐解き、
「安心しろ、生きてはいる」
 と笑うが、その意味深な回答に沙耶香は思わず、
「やんちゃんに何をした!?まさか、お前ら、もう…!」
「フフフ…さぁな。それはヤツの精神力に問うがいい」
「精神力…?」
「そうだ。差し向けた連中には『頼まれたことは聞いてやれ』とだけ言ってある。ヤツが自分から求めたりしないかぎり、貞操は守られるということだ」
「ふ、ふざけるなっ!やんちゃんが自分から求めたりするものかっ!」
 仲間に対する愚弄ともとれる発言に、怒りを滲ませる沙耶香だが、幹部は不敵に、
「だといいがな…」
 と笑い、
「そんなことより、お前はお前で、自分の身を心配したらどうだ?」
「何ですって…!」
「言い忘れたが、眠っている間に、少し、お前の身体を調べさせてもらった」
(…!?)
 身体を調べた…そんな不穏な発言にハッとして自分の衣服を見直す沙耶香。
 よく見ると、ブラウスはボタンが互い違いだし、スカートのホックも一つ外れている。
 途端に、かァッと赤くなった頬で、
「な、何をしたの!?」
「なに、本当に少し見せてもらっただけだ。ガキみてぇな小さい胸と毛の薄いアソコ、可愛らしいケツの穴…」
「だ、黙れっ!このっ…!」

 バチバチっ!

「あうぅッ…!」
 恥を振り撒く口を黙らせようと突進し、再び電流を浴びる沙耶香。
「おいおい、もう忘れたか?その鉄格子には触るべからず、と言った筈だ」
 笑う幹部。
 沙耶香は、痺れて痛む手の平を押さえながら、
「よ、よくも私が寝てる間に勝手なマネを…!」
「まぁ、怒るな。寝ている隙に犯されなかっただけでもありがたく思え。ちゃんと“残しておいてやった”んだから…!」
 と幹部が笑うと、途端に沙耶香の顔が固まり、赤くなる。
 何かを言いかけて黙り込む沙耶香。
 その反応にご満悦の幹部は、さらに追い打ちをかけ、
「ガハハ!なぁ?そうだろ?実はまだ未経験…大事に処女を守ってる掛橋沙耶香ちゃんよぉ!」
「━━━」
「さすがに昏睡レイプで処女喪失ってのは可哀想だからよ、泣く泣く我慢してやったんだ。俺の優しさに感謝しろよ?な?」
「う、うるさいっ…!」
 と、一言、言い返すのが精一杯の沙耶香は話を逸らして、
「そ、それで私をどうするつもり…?」
「そう、本題はそれだ。少し面白いことを思いついてな」
「面白いこと…?」
 何を言い出すのか見当もつかず、ごくっ…と息を飲む沙耶香。
 幹部は不敵に笑って、
「さっきも言った通り、少し身体を調べさせてもらった。見たところ、けっこう鍛えているようだが…どうなんだ?」
 聞かれた沙耶香は、警戒した表情を崩さずに、
「え、ええ…鍛えてるわ。アンタみたいなゲス野郎をぶっ飛ばすためよ…!そ、それが何だっていうの…?」
「ほぅ…つまり、たとえば相手が男だろうと負けはしない、と?」
「当たり前よ。負けてたまるものですか…!女だからってナメてかかっちゃ痛い目に遭うわよ!」
 と気丈に言い放った沙耶香の言葉に、
「フフフ…なるほど、そりゃいい…」
「な、何を企んでるの?」
 幹部の不気味な笑みに、たまらず真意を問う沙耶香。
 幹部は顔を上げると、ニヤニヤしながら、
「どうだ?ちょっとしたゲームをしないか?」
「ゲーム…?」
「あぁ、ゲームと言ってもスマブラじゃないぞ。簡単に言えば試合だ。上にリングがある。そこでコイツら…ひぃ、ふぅ、みぃ…四人だな。俺の舎弟たちと順に試合をして、見事、全員を打ち負かすことができれば今回は逃がしてやるよ」
「な、何ですって…?」
 戸惑う沙耶香に対し、幹部は牢のカギを指先でクルクルと回しながら、
「決して悪い話ではないと思うぞ?実際、鍛えているなら、それなりに実力はあるんだろうし、その成果を見せる絶好の機会だ。それに、勝てばここから逃げ出せる。大事に守ってきた処女を散らすこともないし、もう一人、一緒に捕まえた金川紗耶も逃がしてやろうじゃないか」
(…!)
 金川も一緒に逃がす…という点には少し意義を感じる沙耶香だが、それでもまだ、危険なニオイがプンプンする話…。
 スッと視線を、幹部の背後にいる子分の男たちに向ける。
 計四人…ごく一般的な中肉中背が二人に、ノッポが一人、デブも一人。
 上手く立ち回れば何とかなりそうな気もするし、体格差で敵わない気もする。
 どんな男か品定めのように見つめる沙耶香に、
「フッ…心配するな。女を相手に1対4なんて血も涙もないようなことはしねぇよ。ちゃんと1対1でやらせてやるし、インターバルも空けてやる」
 と明言する幹部。
 だからといって、それで不安が消えるワケではない。
(でも…!)
 ここから脱出するためには嫌でも乗らざるをえないこともまた事実。
 目の前の鉄格子には絶えず電流が流れているし、肝心の牢のカギを外にいる彼が持っている以上、今の沙耶香は篭の中の鳥…内側から自力の脱出はまず不可能。
 そして、ここで沙耶香がこの打診を蹴ることで、自分だけでなく、おそらく別の部屋に捕らわれているであろう金川の命運も尽きることになるだろう。
(私もやんちゃんも、こんなヤツらに簡単にやられてたまるか!)
 という負けん気から来る思いが沸き上がる。
 さらに、もう一つ、沙耶香には何としても脱出して本部に戻り、仲間たちに伝えなければならないことがある。

(部長は柴崎一派の内通者…!これを早くみんなに伝えないと…!)

 でないと、沙耶香や金川と同様、仲間が次々に食い荒らされてしまう。
「さぁ、どうする?俺としては良案のつもりだが、断るというのなら、今すぐ、この鉄格子の隙間から催眠ガスを送り込み、再び眠りこけたところを犯して、さっさと処女を頂くとしよう。無論、金川もだ。仲良く肉便器に調教し、そして俺たちは飽きたらまた別の獲物を狙う!」

(ダメっ!そんなこと、絶対にさせないっ!)

 自分はともかく、金川を、そして仲間の窮地を救えるのは、今、沙耶香しかいない。
(やるしかない…!やってやる…!)
 鉄格子越しに覚悟を決めた沙耶香は、キッとした眼を向け、
「…分かった。受けて立つわ」
 と言った。

 ……

 ステップにシャドー…アップを終えた沙耶香は、さっさとリングに上がると、
「さぁ、誰から?さっさと始めましょ?」
 と男たちに向け、強気に声をかける。
 モタモタしてるヒマはない。
 さっさと四人抜きして、一刻も早く脱出しなければならないからだ。
 それを聞いて、
「へっ、生意気な女だ」
「男の怖さ、教えてやるぜ」
「泣いたって知らねぇぞ」
 と口々に語る男たち。
 そんなバチバチした様子をニヤニヤしながら眺める幹部は、沙耶香に目を移し、
「ルールを決めておこう。こんな感じでどうだ?」



・1対1のタイマン。※掛橋は勝ち抜き

・時間は無制限、決着がつくまで。

・勝敗は失神 or 屈服。

・掛橋が (戦意はあるものの) 劣勢、詰み、反撃不可などで試合の仕切り直しを要求する場合、「ギブアップ」として幹部の用意したお楽しみボックスで選ばれた指令を一つ、遂行することが条件。
それをクリアすることで試合は、リング中央から仕切り直しとなる。

なお、(戦意を喪失して) 「屈服」を選んだ時点でこのゲームは終了。掛橋への制裁レイプを敢行し、同時に別の場所にいる配下に金川への凌辱もGoサインを出す。

・攻撃は拳、蹴り、投げ、柔術、関節技など格闘技全般OKの喧嘩ルール。

・武器の使用はナシ。


「…以上。自分の処女を守るためにも、せいぜい頑張れよ」
「━━━」
 返事はせずとも、射抜くような視線で覚悟を示す沙耶香。
(私は負けない…!必ず勝つ…!)
 固い決意。
 そして、
(やんちゃん…!必ず勝つから、私が勝ち抜くまでは何とか耐えて…!)
 と友に願い、静かに燃える。
 まず一人目の男がリングに上がる。…が、拳を交えるまでもなく、相対しただけで沙耶香は一勝を確信した。
 相手の男たちの中でも、一人、明らかに格下だと分かったからだ。
 へっぴり腰だし、現にリングサイドからも、
「おい、パシリ!みっともねぇ負け方したら承知しねぇぞ?」
「なにビビってんだ?相手は女だぞ」
「勝てよ?な?分かってんな?」
 と、半分、野次のような声援ばかり。
 パシリと呼ばれているところから見て、どうやら一番の下っ端らしい。
 それには沙耶香も思わず、
「ふぅ…」
 と溜め息をつき、
(私の実力を計る偵察のつもり?ナメられたものね…)
 と肩をすくめる。
 悪いが、そんなのに付き合っている時間はない。
 一刻も早く四人抜きをして、金川を救出し、本部に戻らないといけない。
「よし…それじゃあ、始めようか!健闘を祈るぜ!」
 という幹部の声とともに鳴らされたゴング。
 開始早々、
「おら、来いよ…かかってこいよ、おらぁ!」
 と口だけ一丁前に間合いを取り、猿真似のフットワークを見せるパシリだが、そんな子供だましは今の沙耶香には通じない。
(瞬殺してやる…!)
 と相手を上回る素早いフットワークから、まるで飛び石の如く、ササッと距離を詰め、名刺がわりの鋭いジャブを放つ。
 顔面へのクリーンヒットとともに、
「うぉっ…!」
 と、少し驚いたような声を上げ、よろけたパシリ。
 手加減の必要はナシとばかりに、構わず、そこからジャブ、アッパー、ボディブロー、ストレートと、体格のわりに強烈なラッシュを見舞う沙耶香。
「ぐっ…うぉっ、がぁっ…!」
 リングの隅に追い詰められ、偵察にもならないフルボッコ。
 あまりに一方的な展開に、リングサイドからも、
「バカ!早く回り込め!」
「手を出せ!逃げるな!」
「何やってんだよ!情けねぇなぁ!」
 と、リングサイドから罵声まで浴びるパシリ。
「む、無理っスよぉ…!」
 と、防戦一方のサンドバッグ状態。
 最後は、みぞおちに鋭いパンチを打ち込み、
「ぐぇぇっ…!」
 と思わず前屈みになったところを一閃、ハイキックで顔面を蹴り飛ばして軽々ノックアウト。
 あっけなくマットに沈んだパシリは噴き出した鼻血を拭う力もなく、ピクピクと震えるのがやっとのところで終了のゴング。
「あーあ、つまんねぇ…」
「情けねぇヤツだ、たかが女相手によ」
「まったく、しょうもない試合しやがって。あとでヤキ入れてやるか」
 と口々に言いながら、KOされたパシリを乱暴に引きずり下ろす男たち。
 幹部も、思わず、
「なかなかやるじゃないか。さすが捜査官。身のこなしが素人ではないな」
「御託はいいから、さっさと続きやりましょ?」
 と猛る沙耶香。
 小柄ながら、ロープにもたれ、肘を置いて次の対戦相手を待つ姿は貫禄すらある。
「どうする?」
「お前、行けよ」
「いや、お前が行け」
「よし、じゃんけんだ」
 と輪になってじゃんけんをする男たちをリングの上から静かに見据える沙耶香。
 誰でもいい…ぶちのめすだけ。
 血が騒ぐ格闘少女は、すっかり好戦的な眼をして、地元・岡山の方言、

(ちばけとったらおえんで…!)

 を、頭の中で繰り返しては自らを奮い立たせた。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2021/11/18(木) 00:31 )