乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































小説トップ
★第三部と第四部の間の短篇集★
桜井玲香のその後… (プロローグ)
※前置き@
時系列的には本編の「白石麻衣・絶体絶命編」の数日前からその当日ぐらいの話とさせていただきます。

※前置きA
内容が後日談でありサイドストーリーでもあるので、先に「桜井玲香編」および「白石麻衣編(の正解ルート)」を読んだいただくことをおすすめします。

※前置きB
今回にかぎり、エロシーンほぼ無し、せいぜい塩ひとつまみ程度ですが、ご了承ください。



「ククク!さぁ、覚悟しろ、桜井!このまま引導を渡してやるぞ!お前の子宮にな!」
「や、やめてっ!そ、それだけはっ!それだけは本当に…!」
「うるさい!俺に楯突いた代償だ!さぁ、たっぷり注いでやるぞ!俺の濃いのを受け取れっ!」
「いやぁぁ!な、中はダメっ!本当にダメぇぇっ!!」
「ぐっ、出るぞ…あぁぁ、出るぞぉぉ!!」
「いやぁぁっ!お、お願いっ!お願いだからっ!そ、それだけは許してぇぇっ…!!」

 ……

「…嫌ァっ!」
 ヒステリックな悲鳴とともに飛び起きる玲香。
 そこはリハビリ施設の一人個室、他に誰もいない部屋にぽつんと置かれたベッドの上だった。
「はぁ…はぁ…」
 汗だくの額、悪寒で身体が震える。
(また、あの夢…どうして…?)
 うなされて乱れた長髪を掴み、痛む頭を掻きむしる玲香。
 あれ以来、よく見る夢…毎晩のように蘇る悪夢…。

 桜井玲香。
 彼女の身に振りかかった悪夢は、今も記憶に新しい。
 親友、いや、それ以上の関係の若月を人質に取られ、憎き鮫島を目の前にして、あと一歩のところで屈した。
 そして、その宿敵による屈辱の女体拷問で何度もイカされ、最後は死に値する生中出しレイプで心身ともに完敗を喫したあの夜…。
 その後の記憶はない。
 のちに聞いた話によると、監禁場所を突き止めた秋元真夏が救援に駆けつけた時には既にズタボロにされた玲香は見せしめとして三角木馬の上に裸で放置され、その足元には花田組に射殺された鮫島の屍が転がっていたという。
 救出され、すぐに病院に搬送された玲香。
 真夏が決断した緊急避妊薬の投与により、何とか怨敵の子を胎内に宿すことだけは免れたものの、それが唯一の不幸中の幸いという有り様で、目覚めた時には、その目も濁り、まったくの別人と化していた。
 強き精神はボロボロに朽ち果て、毅然とした態度も鳴りを潜めた玲香は、ほどなく、無惨にレイプされた忌まわしき記憶のフラッシュバックに幾度となく襲われ、とうとう男性恐怖症にまでなってしまったのだ。
 施設の男性職員や他のリハビリ患者ですら、目が合うだけで恐怖を感じ、吐き気をもよおして震えてしまう。
 性犯罪撲滅組織「乃木坂46」の室長、初代指揮官として幾人の女捜査官を束ね、女を食い物にする男と対峙し、女性の威厳を守り続けた強き女の面影は完全になくなってしまったのだ。
 よって今は一人個室、階も一人だけ別で、ほぼ隔離状態…。
 見舞いに訪れる仲間たちも、変わり果てた玲香の姿に痛ましさを覚え、言葉を失う。
 そんな中、唯一、捜査の時間を縫っては見舞いに通い詰めてくれるのが真夏だった。
 どうにか玲香を元気づけようと、いつも、他愛もない話を持ってくる。
 それで少しでも気分転換になってくれれば…という真夏なりの思いやりだ。
 そして、もちろん、近況報告も欠かさない。
 話によれば、現在は玲香に代わって白石麻衣がインターポールから招聘されて陣頭指揮を執ってくれているという。
 さらに先日、その白石の窮地を救うため、橋本奈々未、深川麻衣など、一度は捜査官という職を退いた仲間たちが現場に復帰したとも聞いた。
 白石、橋本、深川…玲香にとっても旧知のメンバーばかりだ。

「玲香が戻ってくる場所はいつでも空けてあるよ」

 と、来るたびに真夏が言ってくれる一言は、毎回、胸に響く。…が、その真夏も、本心は、一日でも早く玲香が復帰して、急いで戦況を立て直したいと思っているに違いない。
 この間にも構想は激化している。
 先日、また狡猾な罠が仕掛けられ、橋本と伊藤万理華が拉致されたと聞いた。
 そして、今週には星野みなみと岩本蓮加まで…!
 それほど、今、「乃木坂46」としては防戦一方の苦しい情勢なのだ。
 苦境に立たされた仲間のため、吹っ切らないといけないのは分かっている。
 分かってはいるのだが、今の玲香は、そう簡単にそれを決断できない。
 今の精神状態で、今まで通り、女性を食い物にする男たちと対峙できるのだろうか?
 襲いかかってくるケダモノどもを叩き伏せることができるのだろうか?
 …そう考えた時に、自身を持って頷いていた今までと違い、
(怖い…!)
 という答えが先に出てしまう。
 だから、結局、ただ言葉少なに、答えをはぐらかすだけ…。
 そして、そのまま、面会時間終了となって肩を落として帰っていく真夏。
 寂しそうに出ていく背中を見送った後、ゆっくり閉まっていく個室のスライドドアを見ながら、
(真夏…ごめん…)
 と心の声を漏らす玲香。
 だが、いくらその場でそう思っていても、また後日、真夏が見舞いに来てくれた時には、再び同じような態度で接してしまう。
(何か…何かキッカケを…)
 それが見つけたい。
 だが、見つけられず、そしてまた今夜も悪夢にうなされる。
 (こ、怖い…嫌っ!来ないで…!)
 脳に刻まれたあの男の征服の笑み。
 玲香は、今、生き地獄の中にいる…。


 翌日。
 いつも同様、最悪の目覚めの後、ぼーっと窓の外の雲を眺めるだけの空虚な時間。
 そして今日も昼過ぎになって、下のナースステーションから内線がかかる。
「はい…」
「お見舞いの方が見えてますよ」
 と言われて、
(真夏だ…)
 と、いつものように直感した玲香は、
「…通してください」
 とだけ言って受話器を置く。
 また今日も捜査の合間を縫って来てくれたのだろう。
 気を遣わせてるのも分かっている。
(でも…やっぱりまだ無理…)
 あの忌まわしい凌辱のフラッシュバックは、依然、頭から消えることはない。
 暗い面持ちで待つこと数分、ドアがノックされ、開いた。…が、その瞬間、玲香はぎょっとした。
 顔を覗かせたのは真夏ではなく、唯一無二の親友、若月だったからだ…!

鰹のたたき(塩) ( 2020/12/10(木) 11:14 )