乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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★第三部と第四部の間の短篇集★
催眠カウンセラー中元日芽香の末路
「ありがとうございましたぁ〜♪」
 舌っ足らずのアニメ声と柔和な笑顔。
 この日、最後の客の帰りを見送った日芽香は、診察室に戻ると、
「ふぅ…」
 と溜め息をついた。
 昨日に続いて今日も、退屈な一日を終えた。
 伊藤理々杏のように自身がコレクションにしている女性も来なければ、味見をしたいと思うような若い男性も来ず、本来の心療医として過ごした平凡な二日間。
 平凡こそが幸せという人もいるが、そこらの女性を遥かに凌駕する性欲の持ち主である日芽香からすれば、丸二日も空けば、もう我慢の限界だ。
(早く片付けて、帰ってオナニーでもしよ)
 という欲を原動力に、さっさと売上の計算を済ませていく。
 そして10分後。
 ふいに、

 コン、コン…

 と玄関の戸がノックされた。
(誰…?こんな時間に…)
 まもなく22時。
 診療時間はとっくに過ぎ、既に看板の明かりも落としている。
 酔客の悪戯かと思って無視していると、再び、

 コン、コン…

 とノックが聞こえた。
「うるさいなぁ…こんな時間から診る心療内科があるワケないでしょ、まったく…」
 と、ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がり、玄関へ。
 ドアを開けると、そこに、男が一人、立っていた。
 中年の紳士で、
「夜分遅くすいません。こんばんわ」
 と丁寧に声をかけてくる。
「こ、こんばんわ…」
「中元日芽香さん…ですよね?」
「は、はい…」
「ここでは催眠療法を扱われているそうですね…?」
「そ、そうですけど、それが何か…?」
 夜分遅く訪ねてきて、何故かニコニコしながら質問攻めしてくる謎の紳士…。
 その態度が次第に薄気味悪く感じ、たまらず、
「と、ところで…どちら様ですか?用件は?」
 と切り口上で返す日芽香。
 すると紳士は、質問には答えず、ニヤリと笑って、
「実は、催眠療法を扱うとあるクリニックの妙な噂を聞きましてね」
「噂…?」
「ええ。何やら、都内にある心療内科で、患者に催眠術をかけ、昏睡状態にしては好き勝手に身体を弄ぶ悪徳医師がいるという話で…」
「━━━」
 日芽香がスッと黙り込んでも、その紳士は話を続け、
「興味深い話だと思って、私、個人的に調べたんですよ。それで分かったのが、どうやらその医師は女性で、男も女も性の対象として見る、俗にいうバイセクシャルという類の人間らしいのです」
「━━━」
「その女医は、得意の催眠術で、好みの患者なら男女問わずコレクション化しては、夜な夜な、不埒な遊びに興じているそうで…」
 その紳士、新たな女体拷問組織・柴崎一派の長を務める柴崎は、玄関の門灯に照らされた日芽香の狼狽の表情を覗き込んで、
「そんな噂、ご存知ありませんか?」
「し、知りません…!失礼しますっ!」
 と言って慌てて玄関の戸を閉めようとした日芽香だが、柴崎は、
「おっと…」
 と閉まる戸の隙間に素早く革靴を差し入れ、
「話を切り上げるのは結構ですが、その前に、これだけは、是非、聞いてもらいたいですねぇ」
 と、胸ポケットから取り出したレコーダーを戸の隙間に突きつけた。


「さぁ、この可愛らしい身体、たっぷり可愛がってあげますからね…!」
「い、嫌ぁっ!は、恥ずかしいですっ!やめてくださいっ…!」
「大丈夫…私の催眠で、その恥ずかしさを取っ払ってあげます」
「さ、催眠…?」
「ほら、私の手を見て…?私が3つ数えれば、貴女は恥ずかしげもなくオマンコのビラビラを自分で開いて、私に見せつけ、いじめてほしいとおねだりをします」
「やぁっ…そ、そんなことしないですっ!」
「本当かなぁ?それじゃあ、行きますよ〜?ひと〜つ…ふた〜つ…みぃ〜っつ!」

 まず、パチッと指を鳴らす音がして、その後、聞くに堪えない淫語が発せられたのを機に、ジュルジュルと何かを吸い、そして舐め回す音と、それに合わせて鳴く女の喘ぎ声が続いた…。


「…どうです?」
「━━━」
「特に気になるのが、この催眠をかけた女性の声です。よく聞くと、貴女の声と瓜二つのように聞こえるのですが、気のせいですかねぇ…?」
 意地悪な問いに愕然とする日芽香。
 いつ、誰との行為の時に録られたかも分からない盗聴テープ。
 突然、訪ねてきた謎の男から急に逃れようのない証拠を突きつけられ、背筋が凍った。
 ぶるぶると脚が震え、戸を無理やり閉めようとしていた手の力も抜けてしまった。
 そして柴崎は、とどめをさすように、
「実は、私、弁護士としての顔も持っていましてね。こういった悪趣味な行動が、いったいどんな罪に問われるか、お教えしておきましょうか?」
 と口にする。
 たまらず、
「も、目的は何なの…!?」
 と、すっかり青ざめた顔と震えた声で問う日芽香。
 柴崎は、日芽香が話を聞く姿勢を見せたことでニッと笑って、
「まぁ、まぁ。そんなに警戒しないで…安心なさい。私は別に、貴女を警察に突き出すつもりはありません。ちょっと頼みがあるだけです」
「頼み…?」
 柴崎は、急にキョロキョロと周りを見渡し、
「ちょっと入ってもいいですか?…なに、話は3分で済みますよ。ただ、目立つとまずいのでね」
 と言った。
「━━━」
 観念して柴崎を招き入れる日芽香。
「お手数ですが、ブラインドを閉めていただけますか?」
 と柴崎が言うので、日芽香は黙って、玄関のブラインドを全て下ろした。
 中の様子が外から見えなくなったところでようやく安心し、入ってすぐの待合室のソファーに腰を下ろした柴崎。
 ぐるりと内装を眺めて、
「ほぅ…これは立派なクリニックだ。これを手放すのは確かに惜しいだろうねぇ」
「━━━」
 うらめしそうな眼をする日芽香に構わず、
「単刀直入に言おう。君が持つその“催眠療法”の力が欲しい。私と手を組む気はないかね?」
「手を組む…ですって…?」
 怪訝そうな顔をする日芽香に対し、柴崎は胸ポケットから写真を数枚、取り出した。
 一瞬、日芽香の顔が強張ったのは、普段の如何わしい情事を盗聴だけでなく盗撮までされていたのかと身構えたからだが、被写体はそれではなく、見知らぬ若い女の写真だった。
 秋元真夏…鈴木絢音…深川麻衣…松村沙友里…。
 名前までは教えてもらえないが、どれも凛とした表情、整った顔立ちで、バイセクシャルの日芽香が思わず、
(可愛い…)
 と見とれるほどの美形ばかりだ。
「どうかね?これはほんの一部だが、好みの娘はいるかね?」
 と柴崎は聞き、日芽香が返答に困って黙っているところへ続けて、
「気に入った娘がいるなら、君の好きにさせてやってもいい」
(す、好きに…していい…?)
 柴崎の持ちかける誘惑を真に受け、思わず、ごくりと喉を鳴らす日芽香。
 柴崎の要望は、至極、単純だった。
 催眠術を扱える人間を組織に欲しい。…それだけである。
「私と手を組めば、君が裏でしてきた悪事には目を瞑ろう。このレコーダーはこのまま譲るよ。そして、今も言ったように、気に入ったヤツがいれば好きにさせてやってもいい。…どうだ?決して悪い話ではなく、むしろメリットしかないと思うがね」
「━━━」
 考える日芽香。…だが、自らの保身と欲望を考えれば、答えは既に決まっている。


 …こうして、巧みな交渉で、催眠術士・中元日芽香を新たに仲間に加えた柴崎一派。
 再び開戦の火蓋が切って落とされるまでのこの間に、水面下の補強は着実に進んでゆく…!


(つづく)

■筆者メッセージ
〜次回予告〜

@「桜井玲香、華麗なる復活までの道」 (仮)
因縁の相手、鮫島の手に落ち、中出しレイプされるという人生最大の地獄を味わい、廃人になってしまった玲香。
そんな玲香が、恋人(?)の若月との愛を再確認し、忌まわしい記憶を断ち切って、今一度、戦線復帰を決意するまでを描いた本編裏の後日談 (※玲香×若月ということで、おのずとレズ系の展開になります。苦手な方はごめんなさい)



A長らくお待たせしている新内眞衣編にいいかげん着手


ご期待ください。
鰹のたたき(塩) ( 2020/12/01(火) 14:34 )