復活、そして次なるステージへ…
ブィィィィン…
「んっ…!あんっ、あんっ…!」
今宵も、また、振動音と、それに応える喘ぎ声がリビングを占領する…。
その部屋の住民、嬌声の主は齋藤飛鳥。
過去、罠に嵌まって男たちに姦された。
初めてを奪われ、下の毛まで剃られる屈辱。
かつては一線で活躍する女捜査官だった彼女も、その悪夢の一夜を境に一変、もはや見る影もなし。
今では自身の犯された過去を肴に、毎夜毎晩、お気に入りの玩具を使って自慰行為に没頭する卑猥な女へと成り下がっていた。
そして、また今日も…。
「んあぁっ!?イ、イクぅっ…!」
一人きりの空間なのをいいことに、地べたに寝転がり、だらしない大股開きで果てる飛鳥。
股ぐらには男性器を模したバイブが突き挿さり、
イッた後もまだスイッチONのままウネウネと動いている。
その振動で、なおも快感を得ながら、
「はぁ…はぁ…!」
と、余韻を噛み締めるように、茫然と天井を見つめる飛鳥。
ふと、
(わ、私…いったい、いつまでこんなことを続けるんだろう…?)
…ここ最近、絶頂に達した直後、無性に感じる虚しさ。
(こんなことをしてる場合じゃない…!)
この間も、かつての仲間たちは巨悪を相手に、苦戦を強いられている。
(戻らなきゃ…みんなのところに…)
と思うのだが、余韻が冷め、再び押し寄せる悶々としたものが、また、後ろ髪を引いて惑わせる。
(ダ、ダメ…!もう、おしまい…!こんなことするのは、もう終わり…!)
と言い聞かせつつも、すっかり女の快楽に溺れた飛鳥の脳は、再び、その華奢な手にバイブの抜き挿しを命じてしまう。
そして…。
「んっ…!あぁっ、あっ、あっ…!」
(き、気持ちいい…!や、やっぱり…ダメ…!そ、そんな簡単には…やめらんないっ…!)
こうして、また今夜も、飛鳥は、疲れ果てるまで背徳のオナニーを延々と繰り返すのだった。
……
翌日。
いつものように憂鬱な起床。
覇気なく、目覚めのコーヒーを淹れ、香りが立つまでの間に玄関のポストを開けに行く。
新聞、夜間工事の周知、そして宅配ピザのチラシ…。
毎朝、特に変わり映えのしない郵便物ばかり。
そんな中、取り上げた際に、掴み損ねた指の隙間から一枚のチラシが落ちた。
反射的に屈んで拾ったものの、なんてことない、よくある普通のピンクチラシ。
最初は、
(まただ。たまに入ってるいやらしいお店のヤツ…)
ぐらいにしか思わず、不機嫌な顔になったが、ふと、飛鳥の目が留まる。
<未経験の女性、大歓迎!>
という誘い文句が目を引くが、それより何より、下部に手書きで、
<今の貴女にぴったりのお仕事です。ぜひ一度、体験入店をご利用の上、ご一考くださいませ。>
と書かれていた。
(な、何これ…?)
手書きで記された妙な補足は、少し気味が悪かった。
なんとなく今の自分を誰かに見透かされているような気もして尚更だ。
(キモっ…!)
つい、その場で破り捨てようとした。…が、指をかけたところで、なぜか思いとどまり、そのままリビングへ戻った。
「━━━」
いい塩梅に香りが立ったコーヒーに目もくれず、そのチラシを見つめる飛鳥。
(体験…入店…?体験ってことは…その…つまり…)
しばらく見ていたが、ふと我に返り、
(や、やだっ…!なに考えてんの、私…!)
と思って目線を切る飛鳥。…だが、ものの数分、気付けばまた目は釘付けに…。
何をそんなに惹かれるのか自分でも分からない。
だが、なぜか気になってしまうし、気にすれば気にするほど、穴が開くほど見てしまう。
あまりに見すぎて、隅に写っているモデルの女性が飛鳥に手招きをしているようにすら見えた。
目線入りの裸の女性が二人。
それぞれ胸のところが★で隠されているが、髪型や顔の輪郭が、どことなく…。
(花奈…?日奈…?)
一瞬、かつての仲間に見えたが、すぐ、
(いや、まさか。そんな筈ないじゃん…)
と否定した。
淹れたコーヒーがすっかり冷めてもなお、チラシを見つめる飛鳥。
気付けば、手にケータイを握り締めている。
妙な緊張感━。
そして…。
「ふぅ〜…」
意を決して、息を整え、震える指でチラシに載っている番号を押す。
バクバク音を立てる鼓動。
呼び出し音が二回続いて、
「はい、こちらN46でございます〜」
と、爽やかな男の声がした。
「あ、あの…」
飛鳥は、上ずった声で、
「チ、チラシの…体験入店っていうのを見て電話したんですけど…」
と告げた。
声や顔色とは裏腹に、なぜか気分だけは妙に高揚していた。
……
会員制ソープランド「N46」。
開店前の事務室で、店を取り仕切る黒服、いわゆるマネージャーが、オーナーの柴崎に電話をかけた。
「もしもし、柴崎だ」
と相手が出ると、マネージャーは勢い込んで、
「オーナーの読み通りですよ。早速、一人、釣れました!」
「ほぅ。名前は?」
「えーっと…ノウジョウですね」
「ノウジョウ…?」
疑問系で聞き返す柴崎に対し、マネージャーは笑って、
「いや、本人が電話でそう名乗ったんですけど、これは偽名ですよ。かけてきた番号を逆探知したところ、齋藤飛鳥ってヤツの携帯電話に間違いありません」
と言った。
以前、星野みなみと岩本蓮加を手にかけた際に抜き取った捜査官の連絡先一覧を何度も確認しながら、である。
表向きは弁護士の顔を持ちながら、巧みな立ち回りで裏社会の方でも着々と顔を広げている柴崎。
その情報力を駆使して、常に捜査官の連中の動向は耳に入れている彼だが、一方で、現在、新たに立ち上げた組織『柴崎一派』の一番の資金源となっている捜査官ソープの運営にも力を入れていた。
皮肉めかして『N46』と名付け、捕らえて女体拷問で堕とした『乃木坂46』の捜査官たちを快楽漬けにして洗脳し、カラダを売らせるという鬼畜の所業。
これが思いのほか好評なので、取り揃える女の顔ぶれをさらに充実させたい柴崎は、拡充のため、情報屋から得た情報を細かく精査した。
調べによると、戦線離脱後、すぐに現場復帰を果たした女もいれば、やけに復帰に時間がかかっている女も何人かいるとのこと。
たとえば伊藤純奈なんかは復讐の念を糧に最短で復帰したらしいし、それ以外にも、最近なら梅澤美波、久保史緒里らが忌まわしい過去と決別し、復帰を決めたと聞いている。
逆に、なかなか復帰が出来ない女は、今なお、凌辱の記憶に悩み、その呪縛を断ち切れていないということだ。
そこで柴崎は、その呪縛から抜け出せない女に目をつけ、的を絞った。
特に、リハビリを終え、自宅療養になっても、なお…という者だ。
部屋に籠って一人で塞ぎ込む女に、一度、気が狂うほどの快感を経験した身体を制御することはまず不可能…。
日々、悶々としながら過ごす女は、やがて、自慰行為に依存したり、痴女と化して男喰いに走ったり、歯止めの利かない自堕落の一途を辿る。
そこで、手に入れた名簿の中から「既に自宅療養になっているにもかかわらず、まだ復帰時期の見通しがついていない者」を抜粋したところ、
・山下 美月
・齋藤 飛鳥
・堀 未央奈
・斉藤 優里
・山崎 怜奈
の五人が浮かび上がった。
早速、その五人の住所に、欲を駆り立てるような誘い文句を添えたピンクチラシ、いわば“快楽への招待状”を送りつけた。
最初は様子見で、これからじわじわ誘い文句を過激にしていくつもりだったのだが、それが、まさか、一回目でいきなり反応があるとは…!
「なるほど…齋藤飛鳥ねぇ…」
「…どうします?」
とマネージャーが聞くと、柴崎はクスクスと笑って、
「まぁ、いつも通りにしてくれればいいさ。そうやって心のどこかで期待している女の身体を、今一度、快楽漬けにして、二度と捜査官には戻れない、立派な泡姫へと仕立ててやってくれたまえ!」
と命じた。
(つづく)