乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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★第三部と第四部の間の短篇集★
橋本奈々未のその後… (プロローグ)
 橋本奈々未。
 元・女捜査官、それ以前には某SMクラブで女王様として君臨した異色のオンナ。
 一時は捜査官の職を退き、故郷の北海道で平和に暮らしていたが、今野本部長から依頼を受け、盟友である白石麻衣のピンチに駆けつけて戦線に復帰。
 しかし、前回、柴崎の狡猾な罠に嵌まり、捕らわれ、東京湾上で壮絶な女体拷問、そして屈辱の奴隷調教を受ける羽目になった。
 必死に耐えるも、男たちに好き勝手に身体を嬲られ、最後は女王様のプライドを粉々に打ち砕く二穴ファックで快楽漬けにされ、涙を流しながら陥落。
 その日を境に性奴隷の烙印を押され、現在は、元・花田組の幹部で現・柴崎の側近、只野という男の娼婦となっている。
 過去を捨て、日に日に従順になる奈々未。
 そして某月某日。
 また今夜も、只野から連絡が入り、ホテルへと呼び出された奈々未。
 顔を隠し、トレンチコートを羽織って、指定された部屋へと急ぐ。
 チャイムを押すとドアが開き、部屋に招き入れられると同時に挨拶がわりのキスをする。
 およそ一分、舌を絡め合う濃厚な接吻。
 その中で、奈々未は、いつも通り、口移しで貰う媚薬の錠剤を自然な流れで飲み込んだ。
 そして唇を離すと、まず只野のチェックが入る。
 まっすぐ立ち、
「開け」
 と言われて、着てきたトレンチコートの前をゆっくりと開く奈々未。
 その下から現れたのは直視するのも恥ずかしい極細の紐ブラに紐ビキニ。
 ともに、あってないような細さの紐で、乳首も陰毛も完全に見えている状態だが、それを身につける奈々未の立ち姿を見た只野は満足げに、
「よろしい」
 と言い、そこでようやく奈々未はベッドへの着席を許可される。
 ここまでが、いつもの儀式であり、只野と過ごす夜のルーティーン。
 そして、いつもなら媚薬の効き目を待たずして行為が始まるのだが、今日の只野はやけに落ち着いていて、一向に手を出してくる気配がない。
 やがて徐々に疼き始める身体。
 たまらず奈々未が、もじもじと内ももを擦り合わせ始めたところで、只野は、
「今日は、お前に会わせたい人がいる」
 と言った。
「会わせたい人…?」
 息を荒くして、とろんとした眼で只野を見る奈々未。
(そんなことより…早く…あちこち触って…!)
 と思ってしまう
「もう来る頃だ」
 と言った時に、ちょうど部屋のチャイムが鳴った。
 意気揚々と迎えに行く只野。
 ベッドに残された奈々未は、まだ、誰に会わされるのか、皆目、見当もつかない。
「待たせたな。こちらが今日のお客さんだ」
 と言って部屋に戻ってきた只野。
 只野が連れてきたのは女性だった。
(…!!)
 その女を見て、戦慄が走る奈々未。
「あらあら、久しぶりねぇ?何年ぶりかしら?」
 と、その女は呟き、
「果たして、あなたは、私のことを覚えてるかしら?」
 と言った。

 ……

 彼女の名はセイラ。
 かつて奈々未が籍を置いたSMクラブの同僚で、元ナンバーワン女王様だった女。
 そんな彼女から客を奪い、いとも簡単にナンバーワンの座を奪ったのが、入店してすぐ、その美貌で人気が出た当時の奈々未。
 女王様の世界において失脚することは最大の屈辱。
 今の奈々未もその屈辱にまみれた身だが、当時、彼女は、奈々未によってその屈辱を味わった。
 その後、彼女は「新人に客を取られて失脚した元ナンバーワン」という不名誉なレッテルを張られ、追われるようにして店から消えた。
 奈々未にすれば自分は自分、他人は他人だが、当の彼女にしてみれば、当然、商売敵としても女としても奈々未のことを決して快くは思っていなかっただろう。
 そして、女の恨みは執念深い。
 あれから数年の時が経った今も、その恨みは決して消え失せてはいないだろう。
 その女が、今になって再び奈々未の目の前に現れた。
 もちろん裏で手を引いたのは只野に違いない。
 只野は、この女を呼んで、いったい何をする気なのか?

 ……

 セイラは、紐ブラに紐ビキニ姿の奈々未を見ると、クスクスと笑みを浮かべ、
「あらあら…なかなか個性的な下着ねぇ?さすが私を蹴落としたナンバーワン女王様は下着ひとつとってもセンスが違うわ」
 と皮肉たっぷりに言った。
「━━━」
 何も言い返せない奈々未。
「そういえば、何やら小耳に挟んだんだけど…」
 とセイラは独り言のように言いながら奈々未の隣に腰を下ろすと、耳元に口を近づけ、
「あなた、最近、調教されて性奴隷になったんですってねぇ?」
「━━━」
「人生、分からないものよねぇ。私を蹴落としてナンバーワンの座に就いた女王様が、数年後には男に堕とされて性奴隷だなんて」
「━━━」
 助けを求めるように、ちらちらと只野を見る奈々未。
 だが、只野はニヤニヤ聞いているだけで、助け船を出してくれる様子は一切ない。
 セイラはなおも話を続け、
「あなたに負けてナンバーワンの座を奪われた私は、あれ以来、地獄を見たわ。失脚した女王様なんて笑い者にしかならない。店どころか生まれ育った故郷を追われた。私は逃げるように街を出たわ。でも、移り住むのも隣町なんかじゃダメ。噂がすぐに届いてしまう。私は逃げに逃げて、まったく縁もゆかりもない街の小さなスナックに行き着いた。収入なんて当時に比べたらスズメの涙。一時はナンバーワン女王様で鳴らした私も、いまや、酒臭いオヤジに身体を売って、お金を恵んでもらって生計を立てるような毎日を送ってるわ。それが今の私の人生…」
「━━━」
「私は、あなたを恨んだわ。あなたさえ来なければ、私は、こんな目に遭うことはなかった。ずっと安泰で、地獄を見ることなんてなかった筈だった。私は、私をこんな目に遭わせたあなたが憎かったわ。いつか復讐してやりたいと、ずっと思ってた」
「━━━」
 だんだん話が嫌な方向へ進む。
「あなたは、神様っていると思う?」
「か、神様…?」
「そう、神様」
 セイラは立ち上がると、
「私はいないと思ってた。それに、たとえいたとしても地獄に堕ちた私なんかに手を差し伸べてくれる筈がないと思ってた」
「━━━」
「…でもね、神様はちゃんといたの。こんな私にも手を差し伸べてくれたのよ。…この意味、あなたに分かるかしら?」
「━━━」
「ふふっ…本当、神様のおかげだわ。どうやら神様は、お金や幸せはくれなかったけど、かわりに、あなたに復讐を果たす機会をくれたみたい」
 と言って、急にニヤリと笑ったセイラ。
 彼女と対照的に、顔を強張らせ、背筋に冷たいものが走る奈々未。
 セイラは、完全に傍観者と化した只野に目をやり、
「本当に、私が気が済むようにしていいのね?」
「ああ。好きにしろ」
 と非情な返事をする只野。
 セイラは、奈々未に向き直り、
「…だって。あなたのご主人様の許可は頂いたわ。よって、今夜は私があなたのご主人様!たっぷり調教して積年の恨みを晴らさせてもらうわ!」
 と告げた。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2020/08/01(土) 00:43 )