乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































小説トップ
第三部 第九章・阿鼻叫喚のダブルグラマラス ―女捜査官の堕とし方― (中田花奈、樋口日奈)
3.記憶の中の目撃者
「…うぅ…」
 中田は目が覚めた。
 これまで捕らわれた幾人の捜査官と同様、両手を吊られていた。
「気がついたかね?」
 と語りかける目の前の男。
「し、柴ア…!」
「せっかく前回の凌辱から立ち直って復帰した矢先に再び捕らわれるとは、君もツイてないな」
「くっ…!」
 目の前で勝ち誇る悪徳弁護士に唇を噛む中田。
 隣に目をやると、ともに捕らわれた樋口も同じように手を吊られて立たされていた。
 樋口は、まだ、目が覚めないようで、膝が折れ、だらんと身体を垂れている。
 中田は、再度、柴アに目をやり、
「ア、アンタ…曲がりなりにも弁護士でしょ!?そんな人間が脅迫に監禁まで…こんなのが世間に知れたらどうなるか分かってんの!?」
 と詰問するも、柴アは平然と、
「それは君たちが無事に帰れれば…ということじゃないのかね?今この状況で、まだそんな希望を持っているとは、おめでたい女だ」
「くぅっ…!」
 中田は手も足も出ない現状に歯噛みしつつ、内心、
(やっぱり、コイツの顔、どこかで見たことが…)
 と、実際に見れば見るほど、そう思っていた。
 張り込みの時から、ずっと頭の隅に残る疑問。
 その冷淡な表情を眺めているうち、
(お、思い出した…!コイツ…あの時の…!)
 と、目の色を変えた。

 ……

 かつて鮫島という男がいた。
 ドラッグ密売人、および、拉致した女をクスリ連れにして性奴隷に堕とすことを楽しむ悪趣味な性犯罪者として、その昔、桜井玲香がマークして追い続けた男。
 玲香の執念で、あと一歩のところまで追い詰めるもわずかに及ばず、海外逃亡を許して取り逃がしてしまった。
 その時の無念の思いが、のちに性犯罪撲滅組織「乃木坂46」が設立されるキッカケとなっている。
 それから一年。
 極秘帰国した鮫島は、玲香への復讐を掲げ、再び、その悪趣味な遊びを再開する。
 それが、いわば今回の一連の騒動のキッカケであり、さらには、玲香が指揮を執る「乃木坂46」に対抗するため、自身のバックにいる花田組をも巻き込んで今日に至る大抗争を起きた発端でもある。
 そして、前回、中田を捕らえ、この豊満な身体を蹂躙したのも、この鮫島という男だった。
 あの屈辱は、立ち直ったように振る舞う今も、決して忘れてはいない━。
 妙な催眠術で胸の感度を上げられ、揉まれただけでイク身体にされて、そのまま為す術もなく犯された。
 鮫島は、その後、因縁の相手である玲香も捕らえ、積年の恨みを晴らすように壮絶な性拷問にかけた。
 そして遂には引導を渡す中出しレイプで玲香を堕として悲願の復讐を果たすも、その直後、お株を奪われる形で花田組に消されたという。
 結局、彼も、ただ花田組の連中に利用されていたに過ぎなかったワケだが、死んでもなお、遺産として花田組の手に渡った強力媚薬『HMR』が、今、鮫島の化身として猛威を振るっている。
 現在は、廃人と化した玲香の遺志を継いでインターポールから帰国した白石麻衣が新生「乃木坂46」の指揮官となり、花田組と対峙しているが、依然として戦況は厳しい。
 そんな窮地を救うため、過去を断ち切り、戦線復帰を決めた中田。
 ところが、復帰早々、仲間の裏切りという狡猾な罠に嵌まって、今、再び捕らわれの身となってしまい…。

 ……

 この時系列においての中田の登場はかなり古い。
 まだ「乃木坂46」が設立される前の、桜井玲香が一人の女捜査官として鮫島をマークしていた頃、いわば今回の抗争のプロローグの段階から、玲香のサポート役の一人として関わっている。
 そんな中田が辿り着いた記憶━それは、当時の、とある日のこと。
 とうとう尻尾を掴み、鮫島を追い詰めた時があった。
 翌日、空港で張り込み、カウンターに現れたところで身柄の拘束に踏み切るということが決まり、
(いよいよ、あの憎き鮫島を検挙できる…!)
 と、玲香を筆頭に、捜査員たちが色めき立ったのだが、その日の夜、突然、上から待ったがかかった。
 俗に言う“圧力”である。
 結局、この圧力がターニングポイントとなり、鮫島にまんまと海外逃亡を許す大どんでん返し、捜査としては最悪の結果となってしまった。
 この不可解な圧力に捜査員全員が憤慨したことは今でもはっきりと覚えているが、同時に、今、思い出したこともある。
 その日、中田は、翌日、鮫島が乗る飛行機を調べるのに時間がかかり、一足遅れて本部に戻った。
 その際、廊下で、ちょうど、その圧力をかけに来た人間とすれ違ったのだが、それが、何を隠そう、この、目の前にいる柴ア弁護士だった。
 あとから聞いた話によると、ある大物から頼まれ、代理人という形でその旨を伝えに来ていたらしい。
 その大物というのは、あれから一年が経った今も、何処の誰で、何をしているのか分からない。
 ただ、とにかく中田は、それを、今、思い出したのだ。
 そんな中田の表情を見て、柴アは苦笑して、
「やはり、私の顔を思い出したようだな。さすが捜査官。記憶力がいい」
 と口を開き、
「もう一年以上も前の話だが、君にはまずいところを見られた。ある人の頼みとはいえ、弁護士である私が鮫島のようなクズを圧力をかけてまで擁護した。すなわち、暗に、そういう人間とも繋がっているのがバレてしまったということだ」
「━━━」
「あの日、私の顔を見たのは君だけ。それっきりなら構うことはなかったが、こうして、今、私も捜査対象にされた上、問題の君が戦線に復帰したとなると話は別だ。あの時、圧力をかけてきたのは誰だったのか…などと余計なことを思い出して蒸し返されるのは困る」
「くっ…!」
 中田は、外れない拘束具を揺すりながら、
「だ、だから私の口を封じろ…と?そ、それも花田組の指示…?」
 と聞くと、柴崎は何故か不敵に笑って、
「花田組?あんなチンピラどもの指示など聞くものか」
(…!)
「な、仲間じゃないの…!?」
「仲間?私が?あのチンピラどもの?なぜ?」
 柴アはクスクスと笑って、
「どうやら君たちは何か勘違いをしているようだな」
「か、勘違い…?」
「もしかして君たちは、私のことを、花田組の懐刀のような存在だと考えるんじゃあるまいな?」

鰹のたたき(塩) ( 2020/06/30(火) 19:35 )