乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―




























































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第三部 ANOTHER-03 凌辱被害捜査官の現在…齋藤飛鳥
ショートストーリー
「…分かった。ごめんね、無理を言って」
 白石麻衣は、そう言って腰を上げ、おとなしく帰っていく。
 その背中を見送り、玄関のドアが閉まったのを確かめてから、齋藤飛鳥は深い溜め息をついた。
 用件は、ずばり、捜査官への復員の打診だった。
 以前、飛鳥は、捜査を焦り、単独行動をとったところを狙われ、下衆な男たちに拉致された。
 その男たちは飛鳥の無垢な身体に媚薬オイルを塗りたくり、寄ってたかって蹂躙した。
 陰毛を剃られるという屈辱に加え、当時まだ処女だった飛鳥のバージンまでもが無惨に奪われた。
 そして最後は見せしめとして、全裸のまま車のトランクに詰められ、返された。
 凌辱の証として股間に刻まれたサソリのタトゥーは現代の医学によって跡形もなくキレイに消されたが、いくら医学が進歩しようと、心の傷までは消せなかった。
 その後、飛鳥は、当時のリーダーである桜井玲香が斡旋してくれた精神科に通い、カウンセリングとリハビリを受け、最近になって、ようやく、日常生活に戻れるところまできた。
 一時は死にたいとさえ思えた人生最大の恥辱を少しずつ克服しているのだ。
(もう大丈夫…みんなのおかげ)
 だが、それでも捜査官としての復帰は難しいとされた。
 それより、何もかも忘れ、これからは普通の一般人として新たな人生を送ることを周りから薦められたし、自身もそう思っていた。
 ひとまず場つなぎで、今、近所に絞ってアルバイトを探している。
 白石が訪ねてきたのは、そんな矢先だった。
 捜査官でありながら、まんまと罠に嵌められ、捕まり犯されて戦線離脱した落ちこぼれの自分のために、わざわざ自宅まで来てくれて、熱弁をふるってくれた。
 いつのまにか登場人物が様変わりし、さらに抗争が激化した経緯と、深刻な人手不足で劣勢な現状を説明した上で、
「是非、もう一度、力を貸してほしい」
 とまで言ってくれた。
 それは率直に嬉しかった。…しかし、飛鳥は断った。
(また、あの時のような目に遭うかも…)
 という不安があったのも事実だが、一番の理由は別にあった。
 ベランダのカーテンを少しだけ開け、外の様子を窺うと、肩を落として帰っていく白石の後ろ姿が見えた。
 その背中を見ると、改めて、力になれないことが申し訳なく思う。
(本当に、ごめん…でも、やっぱり無理。これには理由が…)
 飛鳥はカーテンを閉めると、ソファーに寝転び、スマホを操作し、あるウェブサイトを開いた。
 よく見るのでブックマークしてある最近お気に入りのサイトだ。
 タップして開くと、画面に、

< 無料動画 >
< 過激レイプ >
< SMプレイ >

 というワードが躍った。
 一目見て分かる過激系のアダルトサイトだ。
 飛鳥は静かにイヤホンをつけ、息を飲んで新着動画を再生した。
「あぁっ!や、やめてぇ!挿れないでぇっ…!」
「おら、おとなしくしろ!」
「いやぁぁっ!」
 女の悲鳴がイヤホンから漏れる。
 その動画を見て、黙って頬を赤らめる飛鳥。
 …そう。
 あれ以来、飛鳥は、あの夜に経験した初体験に依存してしまっていた。
 もちろん、無理やり犯された不本意なセックスだった。
 だが、媚薬の効果もあり、人生で初めて得た快楽だった。
 あの全身が打ち震えるような快楽は今でも頭の片隅に残っていて、忘れることが出来ない。
 もう一度…もう一度でいいから、あの快楽を経験したい。
 車のトランクから助け出されたあの日以来、ひそかに飛鳥の頭には、そんな卑猥な願望が植えつけられてしまっていた。
 しかし肝心の相手がいない。
 恋人も作れないし、人見知りなのでセックスフレンドも出来ない。
 仕方なく飛鳥は、最近、夜な夜な一人でアダルトサイトを漁っては、自分を慰めている。
 中でも、あの夜と自分と重なる“無理やり男に犯される系”か、もしくは“SM調教される系”の動画にハマっている。
 今はスマホがあれば何でも調べられる時代。
 以前まで無縁だった自慰行為も、やり方を調べ、すっかりマスターした。
 カラミが盛り上がってきたので、スマホをテーブルに立て、パンツを脱ぎ去って動画の女と同じように脚をM字に開く。
 男の指が挿入され、女の膣を掻き回す。
 絶叫する女。
 それを見ながら、同じように飛鳥も指を自らの膣に突き立て、動画に沿ってグチュグチュと動かす。
「んっ…あっ、んふぅっ!」
 びくびくと脚を震わせて感じる飛鳥。
 股を見下ろせば、剃られたせいで無毛となった土手越しに、自身の中に沈む指が丸見えだ。
(た、たまんない…!)
 そして動画では、とうとう挿入が始まった。
 飛鳥はむくっと起き上がると、ソファーの下の小物入れの引き出しを開けた。
 そこから取り出す大人のオモチャ、バイブ。
 指だけでは物足りなく、先日、とうとう通販で買ってしまった。
 ちゃんと中身が分からないように梱包されて届くシステムとはいえ、さすがに一人暮らしの女が玄関でバイブを受け取るのは恥ずかしいのでコンビニ引取にした。
 その時も、わざわざ普段しない髪型にして、サングラス、マスク、帽子で厳重に顔を隠し、よく使うコンビニとは別のめったに行かない方のコンビニを指定した。
 そこまで後ろめたい気持ちがありながらも我慢できずに購入し、手に入れたバイブ。
 それを男性器に見立てて、ゆっくりと自身の膣に挿入する。
「…んっ、あぁっ…お、大きいぃっ!オチンチン、大きいよぉ…!」
 すっかり動画に感情移入し、実際に犯されている気分でバイブの抜き挿しを始める飛鳥。
 動画の男優のピストンのスピードに合わせて動かす。
「んあぁっ!ああっ!んひゃぁぁっ!」
 膣奥まで届くバイブ。
 自身の手で、ひねりを加えたり、突入角を変えたりして、高める。
「おら、舌を出せよ!」
 と動画の中で男優が怒鳴り、無理やり女の唇を奪う。
 自身も同じ場面を想像し、だらしなく口を開き、舌を出す。
 乳首を摘まむシーンでは、自分も乳首を摘まみ上げ、クリクリと転がす。
 激しくなるピストンに連動し、自身もバイブの抜き挿しを速める。
「ああっ、は、激しいっ…激しいよぉっ!」
 感情移入して絶叫する飛鳥。
 イヤホンをしているせいで声のボリュームがバカになっているのも気づかない。
「あっ、んっ、やぁっ…!イ、イクっ!イクぅぅっ!」
 ソファーの上で、まるで打ち揚げられた魚のように跳ねる華奢な白い身体。
 余韻の痙攣に震えながら、とろんとした目で天井を見つめる。
 抜き取ったバイブにまとわりつく愛液。
 飛鳥は、少し落ち着くと、まず動画を停止し、ホームボタンで戻る。
 股の湿りはティッシュで拭き取り、屑籠へ。
 そして服を着て、使ったバイブは水で軽く洗い流し、水分を拭き取って再び引き出しの中へ。
 早ければ今晩、もう一度、使うことになるが…。
 とにかく後始末を終えてソファーに座り、溜め息をつく飛鳥。
 改めて、熱心に口説いてくれた白石に申し訳なく思う。
(ごめん…でも、やっぱり、私、復員なんて出来ないよ…)
 これが、飛鳥が復員を渋る一番の理由だった。


(つづく)

鰹のたたき(塩) ( 2020/05/17(日) 15:06 )