1.女たちの巣窟
時は少し遡る。
山崎怜奈が恥辱の身体測定に耐えていた頃。
都内某所にて、一緒に捕らわれたもう一人の捜査官、北野日奈子にも性拷問の魔の手が迫っていた。
……
ネオンが輝く歓楽街の一角。
そこに会員制、それも女性のみ入店可という秘密クラブがあった。
いわゆるレズビアンたちの社交場である。
花田組がスポンサーとなり、幹部Bが愛人関係にある自分の女に持たせた店だ。
この店の魅力は、隔週で開催される公開レズ調教ショー。
生意気と顔に書いてあるような若い娘を『クイーン』と呼ばれる女王様が衆人環視の中で辱しめ、従順な雌犬へと仕立てていくその過程の一部始終を間近で見物できるというのが最大のウリだ。
この店の儲けの半分は花田組へ流れて組織の資金となるが、そのかわり、ショーに出す生贄となる女は花田組が調達して届けるという相利共生、いわゆるギブアンドテイクの関係にある。
そして今宵、ショーに出される女は北野日奈子。
日頃、世間知らずが鼻につく社長令嬢や生意気なヤンキー女子高生、お高くとまったホステスなど、きまって勝ち気な女がターゲットにされ、そのツンとした顔が屈辱にまみれていくのがこのショーの醍醐味だが、現役の女捜査官というのも、その例に漏れない格好の獲物だろう。
店内には既に20人以上の常連客の女がショーの開演を待ちわびて、フロア中央の舞台に熱い視線を送っている。
時間がきて、舞台袖からボンテージ衣装をまとった調教師、通称『クイーン』が登場すると歓声が上がった。
そして、屈強な男たちが麻袋を頭に被せられた今夜の獲物、北野日奈子を舞台上へ運んできて、両手を吊るした。
日奈子は一時的に気絶させられているのか、吊るされた後も物言わず、ぐったりとしている。
男たちが引っ込むと、クイーンは、日奈子の脚を尖ったヒールの先で小突いた。
二度、三度と続けるうちに、どうやら目を覚ましたようで、もぞもぞ四股が伸び、身体が起き上がる。が、麻袋に視界を奪われ、しかもそれを両手を拘束されていて取れないので首から上がキョロキョロとしている。
クイーンが、その麻袋を剥ぎ取った。
その下から現れる捜査官にしては少し童顔な顔立ちに、ギャラリーから歓声が上がる。
「あらあら、可愛らしい娘」
「でも、ちょっと生意気そうな感じもするわね」
「見応えがありそうだわ」
と、舞台に近い席の常連客たちが口々に言い合っている。
一方、日奈子は、今、自分が置かれている立場も状況も分からず、困惑していた。
ただ、両手を困惑され、身動きが取れない。
そして、この目の前にいる女たちに、今の自分を助けてくれる気が一切なさそうだということだけは分かった。
「気がついたかしら?捜査官さん」
と、横にいた女が声をかける。
ボンテージ衣装をまとった長身の女だが、仮面をつけていて顔は見えない。
「ここは…?な、何をするつもり…?」
警戒し、身構えた目を向ける日奈子。
しかし、クイーンはその質問には答えず、客に向かって、
「それでは、これより、ショーの方を始めていきますわね」
と言い、それに対してギャラリーから拍手が上がった。
(ショーって何…?どういうこと…?)
まだ理解ができない日奈子だが、クイーンのしなやかな指が髪を掻き乱すと、反射的に、
「や、やめてよ…!触らないで!」
と声を上げた。
すると、眺める女たちからクスクスと笑い声が漏れ聞こえる。
(わ、笑われてるし…!)
だが、なぜ笑われてるのかが分からない。
これからクイーンのレズ調教を受けるとも知らずに気丈な態度をとる日奈子の姿が、ギャラリーの真性レズビアンたちには、いとおしくてたまらないのだ。
クイーンの指は、日奈子のさらさらとした髪の隙間を掻い潜って、耳へと辿り着いた。
クリクリと耳の中に指先を入れたり、妙な手つきで耳たぶを摘まんで指の腹で擦ったりを繰り返すクイーン。
「や、やめて…!くすぐったい…!」
「…ふふっ、可愛らしい娘ね」
やがて、その指は首筋へと下がり、代わりに耳にはクイーンの吐息がかけられる。
「んっ…!」
日奈子のわずかな反応にも、周りのギャラリーは、
「アハハ。敏感なんだぁ」
「やだぁ、可愛い〜」
と歓声を上げる。
日奈子は、その女たちにキッとした目を向けて、
「ちょっ、ちょっと…!笑ってないで、誰か、この女を止めてよ!」
と文句を言った。
その瞬間、今まで首筋をソフトに這っていた指が、突然、ベアクローのように日奈子の首を鷲掴みにして、
「お客様に何て口を利くの!慎みなさいっ!」
と一喝した。
「げほっ…げほっ!」
思わず咳き込む日奈子。
むせながら、
(お客様…?じゃあ、この女たちは、私が嬲り物にされるのを見るためにここに…?)
と理解し、同時に怒りが込み上げてきた。
「ア、アンタたち…こんなことして許されると思ってるのっ!?私は捜査官なのよ…!?」
日奈子は、ギャラリーを隅から隅まで見渡して言った。が、女たちは反省する様子はなく、むしろまた笑っている。
まるで、
(だから何?)
と言いたげな表情だ。
そして、ギャラリーとの睨み合いに気を取られていた矢先、突然、背後から伸びたクイーンの手が日奈子のブラウスを左右に引きちぎった。
「あっ!ちょっ、ちょっと…やめてよ!バカっ!」
慌てて声を上げる日奈子。
見かけによらず、妖艶な黒のブラジャーに覆われた豊満な乳房が見え隠れすると、途端にギャラリーの冷やかしの声が大きくなった。
「はい、ご開帳〜!」
「やだぁ、捜査官のくせにエロい下着しちゃって」
「おっぱい大きい!いい身体してる〜」
酒も相まって饒舌なギャラリーたち。
そんなギャラリーたちの期待に答えるように、クイーンの手が乳房を持ち上げ、ぷるぷると震わせる。
「や、やめてってば!触らないでっ!」
と抗議する日奈子だが、両手を吊られて身動きもとれず、されるがままだ。
弾力のある乳房がぼよんぼよんと揺れている。
「い、いいかげんにしてよ!この変態女っ!」
甲高い声を上げる日奈子に、クイーンは思わず舌打ちをして、
「さっきからうるさい女ねぇ。少し黙ってなさい」
と言って、日奈子の小さな口に背後からボールギャグを無理やり噛ませた。
「んー!んーっ!!」
抗議の声まで封じられた日奈子。
そしてクイーンはハサミを取り出し、掲げると、
「この娘を脱がせるのを手伝ってくれる人〜!」
と呼びかけた。
一斉に手を上げるギャラリーたち。
クイーンは、その中から、四、五人を選び、舞台へ上げると、順番にハサミを手渡した。
選ばれた女たちは、好奇の目で次々と交代で日奈子の衣服を切り裂いていく。
そして、とうとう防具はブラとパンティを残すのみとなった。
ハサミを手にした女は、
「私、脱がし担当するの今日が初めて!」
と嬉しそうに声を上げた。
どうやら、毎回、ギャラリーから希望者を募るらしい。
嬉々としてハサミを入れる女。
切断されたブラはスルリと下に落ち、圧迫から解放されて飛び出るように露わになった日奈子の胸。
顔を紅潮させて髪を乱す日奈子を尻目に、最後の女は楽しそうにパンティのゴムにハサミを添えた。
ますます盛り上がるギャラリー。
中にはS気質の女もいるようで、
「ほら、俯いてるヒマがあったら抵抗しないと、もっと恥ずかしいところ、みんなに見られちゃうわよ〜?」
と、羞恥心を煽る言葉責めのような野次も飛んだ。
(やだっ!やだぁぁっ!)
ボールギャグを噛まされた口で必死に抵抗するも、女の手は止まらず、ジョキッ…とゴムが切断される音がした。
続けて、反対側も…。
締め付ける力を失った布切れが、重力に従って下に落ちかける。
慌てて、張りのある太ももをきゅっと締め、どうにかパンティがずり落ちないようにする日奈子。
しかし既に、色白い肌の恥丘と陰毛の上半分は見えてしまった。
「アハハ、見て見て。内股になってる〜!可愛い〜」
「ほら、見えちゃう!見えちゃう!」
「頑張って!捜査官さん!」
女たちの嘲笑。
そして、そんな日奈子の精一杯の抵抗をも踏みにじるかのように、クイーンは冷淡と落ちかける布切れの端を掴み、強引に引っ張った。
虚しく股の間をすり抜け、抜き取られた最後の防具。
大きな歓声とともに股間めがけて集中する女たちの視線。
(いやっ!見ないでっ!)
必死に脚を組んで隠せるかぎりを隠す日奈子。
そんなあられもない姿の生贄を見て、サドの眼をしてニヤリと微笑むクイーン。
「さぁ、ここからが本番よ?たっぷり可愛がって調教してあげるからね」
と笑うクイーンの脇に、先ほどの屈強な男たちが運び込んだワゴン。
その上には、
・さまざまな太さや長さのバイブ
・ピンクローター
・電マ
・麻縄
・鞭
・目隠し
・低周波パッド
・筆
・洗濯バサミ
・ろうそく
・肛門注射器
・ローション
といったSMグッズや淫具が所狭しと並べられていた。
そして、ワゴンの隅にはスポイトに入った非合法ドラッグ『HMR』も…。
「さぁ、何から使っていこうかしら!」
クイーンは声高らかに調教の開始を宣言した。