乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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第一部 第二章・梅澤美波の場合
1.次なる戦士(生贄)
「梅澤!久保!ちょっと一緒に来て!」
 梅澤美波と久保史緒里の二人は、上司の秋元真夏に呼ばれて立ち上がった。
 真夏に連れられ、部長室に向かう。
 ノックをして中に入ると、そこには今野本部長と室長の桜井玲香が待っていた。



「まぁ、座って」
 玲香は着席を促してから、
「あなたたち、確か山下とは同期だったわね?」
「はい」
「最近、山下と連絡を取った?」
 と玲香が聞くと、二人は顔を見合わせて俯いた。
「…どうなんだ?」
 今野が答えを急かすと、梅澤が、
「実は二日前から連絡が取れません。電話も繋がらないし、メールも返信がありません」
「家には?」
「昨日、二人で行ってきました。でも、留守でした」
「うむ…」
 次は、今野と玲香が顔を見合わせている。
「部長。もしや、山下の身に何かあったのでしょうか?」
 真夏が聞く。
 玲香は、少し話しにくそうにしながら、
「もしかしたら山下は潜入に失敗して捕らわれたのかもしれない―」
 と切り出した。
 そこで三人は、山下が受け持っていた任務の内容を聞かされ、そこから、善後策の話し合いになった。
「とにかく、もし山下が敵の手に落ちたのだとしたら、相手は分かっている。歌舞伎町にあるクラブ『メリー・ジェーン』だ。そこへ応援を送り、叩き潰すしかない」
「しかし、部長。山下ほどの優秀な部下でも捕縛されたんです。応援といっても、むやみに正面から乗り込むのは危険です」
 と、真夏は反論した。
「では、どうするというのだ?」
「山下の救出を最優先に、少数精鋭で行かせるしかないのでは?」
「では、ヤツらの撲滅は二の次ということかね?」
「叩き潰すのは機を改めても可能です。が、山下の救出は急がないと手遅れになるかもしれません。状況が状況ですし、二度手間になるのもやむをえないかと―」
 と真夏は言った。
「うむ。…となると、問題は誰に行かせるかということだが」
「私に行かせてください!」
 梅澤と久保が、ほぼ同時に声を上げた。
「山下は私たちの同期なんです」
「それは知っている」
「危険は承知の上です。行かせてください」
「…どうするね?」
 今野が、玲香に決断を委ねる。
 玲香は少し考えてから、
「分かった。二人に任せましょう。…ただし、別々に行動はしないこと。何があるか分からない。協力して任務にあたってちょうだい」
 と言った。

 ……

 その日の夜、二人は、都内にあるH大学の教授の自宅に押し掛けた。
 その教授が、例の『メリー・ジェーン』というクラブによく出入りしているという情報を掴んだからだ。
 事態が切迫しているため、強引に押し入り、縛りつける。
「や、やめろ!乱暴な真似はよしてくれ!」
「だったら白状しなさい!山下は何処に捕らわれている?」
「や、山下?はて、何のことだ?」
「とぼけるんじゃない!このっ!」
 梅澤が腹を蹴り上げると、教授は悶絶してうずくまった。
「早く教えなさい!」
「ぐっ…お、女は、S市にある廃病院に監禁しているとあの店の支配人が言っていた。それ以上は知らん!ワシは金を払って楽しんだだけなんだ!」
「S市の廃病院…!」
「よし、急ごう!」
「ええ。でも、その前に…」
 駆け出した久保をよそに、梅澤は、教授を鋭く蹴り上げて気絶させると、真夏に連絡を取り、
「今から史緒里とそこへ向かいます。それと、この男なんですが…」
「大丈夫。こっちから警察に連絡して逮捕に向かってもらうわ。さしずめ罪状は未成年淫行と強姦ってところかしら?」
「叩けば他にも余罪があるかもしれません。住所は―」
 梅澤は今いる部屋の住所を伝え、後を任せた。

(つづく)

■筆者メッセージ
☆作者の後日談☆

今回のターゲットは梅澤美波。

「あの長身と気が強そうな顔立ちこそ、この世界観にバッチリでしょ!」と、前章の山下美月編を書いてる時から、既に次は梅だと決めてました。

この当時、ちょうど秋元真夏が新キャプテンに就任した頃で、それに倣って真夏を司令官的ポジションにしようと思ったのですが、どうもまだキャプテンなりたてで番組等でのキャラ的にも司令官というよりは中間管理職っぽかった(←笑)ので、真夏はいわば係長のようなポジションで、肝心の司令官役は前キャプテンの桜井玲香を抜擢。

この人はこの人で同じく「ポンコツ」とか言われてた部類の人ですが、キリッとした時の顔は(少なくとも真夏よりは)司令官っぽいので、作者的にはわりとハマり役ですね。

そして、ここで卒業した玲香を起用したことで「今後も卒業生を普通に出しちゃおう!」と方向性が決まり、幅も広がりました。

今にして思えば、神起用です(←笑)
鰹のたたき(塩) ( 2019/12/04(水) 15:02 )