1.次なる戦士(生贄)
「梅澤!久保!ちょっと一緒に来て!」
梅澤美波と久保史緒里の二人は、上司の秋元真夏に呼ばれて立ち上がった。
真夏に連れられ、部長室に向かう。
ノックをして中に入ると、そこには今野本部長と室長の桜井玲香が待っていた。
「まぁ、座って」
玲香は着席を促してから、
「あなたたち、確か山下とは同期だったわね?」
「はい」
「最近、山下と連絡を取った?」
と玲香が聞くと、二人は顔を見合わせて俯いた。
「…どうなんだ?」
今野が答えを急かすと、梅澤が、
「実は二日前から連絡が取れません。電話も繋がらないし、メールも返信がありません」
「家には?」
「昨日、二人で行ってきました。でも、留守でした」
「うむ…」
次は、今野と玲香が顔を見合わせている。
「部長。もしや、山下の身に何かあったのでしょうか?」
真夏が聞く。
玲香は、少し話しにくそうにしながら、
「もしかしたら山下は潜入に失敗して捕らわれたのかもしれない―」
と切り出した。
そこで三人は、山下が受け持っていた任務の内容を聞かされ、そこから、善後策の話し合いになった。
「とにかく、もし山下が敵の手に落ちたのだとしたら、相手は分かっている。歌舞伎町にあるクラブ『メリー・ジェーン』だ。そこへ応援を送り、叩き潰すしかない」
「しかし、部長。山下ほどの優秀な部下でも捕縛されたんです。応援といっても、むやみに正面から乗り込むのは危険です」
と、真夏は反論した。
「では、どうするというのだ?」
「山下の救出を最優先に、少数精鋭で行かせるしかないのでは?」
「では、ヤツらの撲滅は二の次ということかね?」
「叩き潰すのは機を改めても可能です。が、山下の救出は急がないと手遅れになるかもしれません。状況が状況ですし、二度手間になるのもやむをえないかと―」
と真夏は言った。
「うむ。…となると、問題は誰に行かせるかということだが」
「私に行かせてください!」
梅澤と久保が、ほぼ同時に声を上げた。
「山下は私たちの同期なんです」
「それは知っている」
「危険は承知の上です。行かせてください」
「…どうするね?」
今野が、玲香に決断を委ねる。
玲香は少し考えてから、
「分かった。二人に任せましょう。…ただし、別々に行動はしないこと。何があるか分からない。協力して任務にあたってちょうだい」
と言った。
……
その日の夜、二人は、都内にあるH大学の教授の自宅に押し掛けた。
その教授が、例の『メリー・ジェーン』というクラブによく出入りしているという情報を掴んだからだ。
事態が切迫しているため、強引に押し入り、縛りつける。
「や、やめろ!乱暴な真似はよしてくれ!」
「だったら白状しなさい!山下は何処に捕らわれている?」
「や、山下?はて、何のことだ?」
「とぼけるんじゃない!このっ!」
梅澤が腹を蹴り上げると、教授は悶絶してうずくまった。
「早く教えなさい!」
「ぐっ…お、女は、S市にある廃病院に監禁しているとあの店の支配人が言っていた。それ以上は知らん!ワシは金を払って楽しんだだけなんだ!」
「S市の廃病院…!」
「よし、急ごう!」
「ええ。でも、その前に…」
駆け出した久保をよそに、梅澤は、教授を鋭く蹴り上げて気絶させると、真夏に連絡を取り、
「今から史緒里とそこへ向かいます。それと、この男なんですが…」
「大丈夫。こっちから警察に連絡して逮捕に向かってもらうわ。さしずめ罪状は未成年淫行と強姦ってところかしら?」
「叩けば他にも余罪があるかもしれません。住所は―」
梅澤は今いる部屋の住所を伝え、後を任せた。
(つづく)