乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―




























































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第三部 第一章・山下美月、再び…
4.強制開花
 延々と続くソフトタッチ責め。
「んんっ!はうぅっ…!」
 じれったい責めに悶絶する美月は、両腕、両足の拘束具をガチャガチャと揺するも、外れる気配は一切ない。
 ヘッドホンから流れるオペラはエンドレス。
 転落を助長するような物々しい旋律は、まるで今の美月の状況を表現しているようだ。
 そして…。
(あ、熱い…!か、身体が…身体が灼けるっ…!)
 徐々に熱を帯びる身体の異変。
 既に浄化済みとはいえ、過去、一度は媚薬漬けにされた身。
 その時の経験から、それが、知らぬ間に何らかの薬を盛られたせいだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
 そして、その効果が、前回に比べてより強力で、ものすごい勢いで発汗、発情を促進していることも。
(か、痒い…全身が痒いよぉ…!)
 ぷるぷると震え始める美月の身体。
 ただでさえ視覚と聴覚を封じられて敏感になっている神経。
 それに輪をかけて次は地肌が疼き、体内、体外ともに高められていく性感地獄。
 それにもかかわらず、与えられる刺激はソフトタッチで這い回る無数の指先だけ。
 胸を鷲掴みにするワケでもなく、隆起した乳首を摘み上げるワケでもなく、ましてや潤い始めた割れ目をこじ開けることもなく、ただただ周囲を撫で回すだけの責め。
 欲するものに全く届かない微弱な刺激は、はっきり言って物足りず、時間が経つにつれ、その差はどんどん開いていく。
「んはぁぁ!ああっ!ひゃぁぁっ!」
 すっかりボリュームのタガが外れ、喘ぎ声も激しさを増す美月。
 その様は、まるで、構って欲しくて駄々をこねる子供のようだ。
 今、自分の周りに何人の人間がいるか分からないが、これだけの声量で聞こえていない筈がない。
 それにもかかわらず、依然としてソフトタッチは変わらない。
(さ、触って…!もっと…!)
 一瞬、脳裏をよぎる陥落への誘い。
 だが、すぐに、
(ダ、ダメっ!)
 と我に返り、
(それを認めたら、また、あの時みたいになる…!)
 と自戒し、何とか踏みとどまった。…が、皮肉なことに堪えたぶんだけ辛さは増していく。
 止まない身体の疼き。
 視覚と聴覚を欠くかわりに触覚だけが敏感になっている今、美月は、頬を伝う汗の雫の位置も分かった。
 汗の雫でも分かるぐらいだから、当然、乳首スレスレのところで延々と乳輪をなぞる指の位置や、割れ目まであと数センチのところをずっと行き来する鼠径部の指の動きも、手に取るように分かる。
 そして、そのどちらも、少し身体を横に揺すれば…という距離にあることも、当然、分かってしまう。
(…ダメ…ダメ…!)
 自身に暗示をかける美月だが、研ぎ澄まされた触覚が、その暗示の邪魔をして精神を揺さぶる。
 終わりの見えないソフトタッチ。
 それを打開するには、ほんの少し、身体を揺するだけ━。
 たったそれだけで今より格段に強い刺激が得られるかもしれない…という誘惑が、美月の精神を、まるで熱されたチョコレートのようにみるみる溶かしていった。
(ちょっとだけ…ちょっとだけ…!)
 とうとう生じた自戒の緩み。
 そして、拘束具を外そうと暴れるフリをしてわざとらしく身体を揺すり、少しでも今より強い刺激にありつこうとする美月。
 だが、そんな美月の見え透いた動きなど全て看破し、嘲笑うかのように、お目当ての乳首や割れ目に当たりかけたところで無情にも指は遠退いていく。
 同時に、首筋や脇腹を責めていた他の指も、一斉に身体を離れた。
「くぅぅ…!」
 逃げた指に対し、口惜しそうに唇を噛む美月。
 しばらくすると、また無数の指が、美月の身体に戻ってきた。
 当然、美月の一番の狙いである乳輪と鼠径部の指も、だ。
(つ、次こそ…次こそは…!)
 だが、また、すんでのところで逃げられ、腰だけが空を切って浮き上がる。
(お、お願い…!焦らさないで…!は、早く…早く触って!)
 もはや声にするのを堪えているだけの状態。
 官能の扉は完全に開いてしまった。
 このままでは、あの悪夢の二の舞。
 媚薬漬けにされ、性感が高まった身体を大勢の男たちに嬲られて何度もイカされる。
 胸は乱暴に揉まれ、敏感な乳首をコリコリと弄られる。
 そして脚を広げられ、濡れた女性器をピチャピチャと音を立てて舐められる。
 さらに、お返しに、男のそそり立った肉棒を口一杯に含み、無理やり奉仕をさせられる。
 そして最後は、自分が唾液まみれにしたもので串刺しにされ、激しく腰を打ちつけられて痙攣しながら絶頂に達する。
 そんな悪夢が再び訪れようとしている。
 だが、当の本人は…。

(も、もういい…そんなの、もういいから、早く…早くイカせて…!)

 執拗なソフトタッチに、とうとう音を上げた美月。
 認めてしまったが最後、それまでの恥じらいを捨て、より一層、艶かしく腰を振るう美月。
(お願い…届いて…!一瞬…ほんの一瞬でもいいから…!)
 しかし当たらない。
 そのまま五回、六回と繰り返される責め手と受け手の駆け引き。
 そして、七回目。
 またもや寸前で指の逃亡を許した美月。
(も、もうたまらない…今度こそ…!)
 いつしか自戒の二文字など消え去り、もはや逃げる指を捕らえることしか頭にない美月。
 しかし…。
(…え…?な、何で…?)
 今まで、しばらくしたら戻ってきた指が、なかなか帰ってこない。
 これまでのことが当たり前になっていた美月は、拍子抜けすると同時に焦りを感じた。
 もう少し待ってみた。…が、状況は変わらない。
(ウ、ウソ…!まさか、さっきので終わり…?)
 目隠しの下で蒼ざめる顔。
 呼び寄せるように妖艶に腰を揺すってみるも、何の音沙汰もない。
 その間も、当然、全身の疼きは増していく。
「ね、ねぇ…!ちょっと…!」
 とうとう痺れを切らし、声を上げる美月。
 だが、何も起きない。
(ウソでしょ…?こんなことって…)
 身体の疼きに耐えきれず、自ら反故にした自戒。
 二度目の陥落も覚悟し、もうそれでも構わないと自尊心を引き換えにしたのだから、当然、それだけの刺激を得られるものと思っていた。
 だが、結果はまさかの尻切れとんぼの生殺し。
 中途半端に身を任せてしまったことで、すっかり官能の火がついてしまった美月にとって、最も辛い仕打ちだ。
「ひ、ひどい…!ねぇ!誰か…!」
 泣きべそをかくような声を上げる美月。
「お願い!触って!…ねぇ!…ねぇっ!!」
 大音量のヘッドホンのせいで、周囲の状況や反応すら分からない。
 誰に向けての言葉かも分からないまま、美月は叫び続けた。


 結局、拷問はここで終わってしまった。
 ただただ美月の性感を極限まで高め、官能の扉を開けさせておいて、それ以上は何もせずにお預け、しかも拘束したまま放置という無責任きわまりない地獄の拷問。
 おかげで美月の身体には強力媚薬の疼きだけが残り、まるでセックスレスで欲求不満の人妻のような、性欲が爆発寸前の状態にされてしまった。
 もしも、今、手が自由なら、その指を美月は迷うことなく股の間へ滑り込ませるだろう。
 今の美月を形容するならば、破裂しかけの風船か、もしくは導火線に火がついたダイナマイト。
「だ、誰か…た、助けて…!」
 うわ言を繰り返す美月。
 助けて…と言いつつも、決して救助を待っているのではない。
 ただ、溜まりに溜まった性感が爆発するためのキッカケが欲しいだけだ。
 荒い吐息を漏らし続ける美月。
(お、お願い…!もう誰でもいいから…早く来て…私をイカせて…!)
 真っ暗な視界の中で、美月は、キッカケを与えてくれる人間の登場を悶々としながら待ち続けた。

鰹のたたき(塩) ( 2020/02/15(土) 21:41 )