集結
桜井玲香の敗北は本部にショックを、そして鮫島の死亡は捜査官たちに衝撃を与えた。
救出された玲香はただちに病院へ搬送されたが、心身ともに傷を負い、復帰の見通しは立たない状況だ。
そして病院から戻った秋元真夏は、今野本部長から、すぐに応接室に来るように呼ばれた。
部屋に入ると、一人の女性を紹介された。
彼女の名は白石麻衣。
警察庁からインターポールへ派遣されているキャリア組で、今回の件を受け、特命捜査官として日本へ帰ってきたのだ。
玲香とは旧知の間柄で、同じく真夏とも数回の面識はあるが、だからといって再会を喜ぶ状況ではなく、白石は、開口一番、
「これまでの経緯を、全て、包み隠さず、詳しく教えて」
と言った。
その話は長時間に及んだ。
被害に遭った捜査官の名前を挙げ、その当時の状況を回想するのは、正直、心苦しかった。
ようやく直近の玲香の被害状況まで説明し終えた頃には、さすがの真夏も少し疲れてしまったが、それでも白石は冷静に、
「…となると、鮫島が死んでも、まだ悪の根が絶たれたというワケではないわね」
と言った。
確かに白石の言う通りだった。
今回の鮫島の死は、単なるトカゲの尻尾切りに過ぎない。
これまで鮫島の背後に見え隠れしていた花田組が取って代わって表に出てきたというだけだ。
まだ玲香がやられたショックが尾を引く真夏に対し、白石はとにかく冷静で、なおかつ行動も素早かった。
顔の広さを活かし、その日のうちに自分と、独立組織「乃木坂46」、そして同盟関係にあった警察庁の暴力団対策課を一堂に会して席を持ったのだ。
インターポール 特命捜査官・白石麻衣
性犯罪撲滅組織「乃木坂46」 室長代理・秋元真夏
警察庁暴力団対策課 代表・高山一実
それぞれの正義を胸に、三人の捜査官が集結した。
議長は今野が務めたが、主導権はほぼ白石にあった。
本来、万全を期するならば、ここに桜井玲香、中田花奈、そして警察庁の暴力団対策課からも西野七瀬、斉藤優里といった古参の面々が名を連ねる筈だが、彼女らは惜しくも戦線離脱してしまった。
三者で情報を開示し合い、それぞれ、今後の方針を述べていく。
真夏は、独立組織という立場から、玲香をはじめとする被害にあった捜査官たちの報復として、花田組との徹底抗戦を表明した。
「被害が相次ぐ状況で戦力不足なのは事実。でも、だからといって、ここまでやられて尻尾を巻いて引き下がるワケにはいかないわ」
と真夏は主張する。
一方、高山は、あくまでも職務の一環という意味で、花田組に捜査のメスを入れたいと言った。
「たとえ鮫島みたいな殺されて当然のような男でも、それが花田組の仕業となれば、私たちは捜査に乗り出さなければならない。鮫島殺害の容疑で組長の花田、以下、組員を調査し、立件したいと思ってる」
と高山は言った。
さらに白石は、二者とはまた違った角度からの主張を展開した。
「今、フィリピン国内に出回り、政府が問題視している違法ドラッグがある。通称『HMR』、媚薬…いわゆるセックスドラッグなんだけど、死んだ鮫島がこれを売人から大量に買い取ったという噂を耳にしたわ」
そのHMRという薬は、非合法ゆえに絶大な効果がある上、中毒性が高く、出回ると一気に蔓延する恐れがあるという。
おそらく鮫島は、これを日本に持ち込み、加工したものを、これまでの捜査官に対する快楽拷問に用いていたに違いない。
よって、白石は、それを押収したいと言ったが、肝心の鮫島は既に殺されてしまった。
となると、そのドラッグは、今、鮫島を始末した花田組の手にあると考えるべきだろう。
「そっちの線でも、花田組をマークせざるをえないと思う。つまり、私たち三人、それぞれが花田組を相手にする理由を持っているということ。標的が同じなら、協力し合うに越したことはないんじゃないかしら?」
と、白石は結論づけ、二人に共闘を呼び掛けた。
二人が同調したことで、インターポール、警察庁の暴力団対策課、そして性犯罪撲滅を掲げる独立組織の面々で混成される“連合軍”が発足した。
引き続き、今野を本部長とし、現場の指揮を執るのはインターポールの特命捜査官、白石麻衣。
秋元真夏、高山一実の二人が補佐に就き、それぞれの部下も、そのまま加入し、捜査官として活動する。
その旗揚げにあたり、花田組の解体および殲滅を目標に掲げた白石。
こうして、今宵ここに、新生「乃木坂46」が誕生したのである。
(つづく)