乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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第二部 第七章・生田絵梨花と久保史緒里の場合
2.屈辱のストリップ
 久保史緒里が目を覚ました時、そこは薄暗い部屋の一室だった。
 両手を吊られて身動きが取れない。
 まだ少し頭痛がするが、目が覚めたことで記憶の方は少しずつ冴えてくる。
 確か今日は慕っている先輩の生田の帰国を迎えに行くため、東京駅から成田空港へ向かう特急列車に乗ったのだ。
(それで、一度、ケータイを持ってデッキに出たところまでは覚えている━)
 その先は曖昧だが、そこだけすっぽりと記憶が抜け落ち、さらに目が覚めたら両手を拘束されている現状から“眠らされ、敵の手に落ちた”ということは嫌でも理解できた。
(もしや、東京駅に向かうところから既に尾行されていた━?)
 だとすると、密室の列車内で、不用意に一人でデッキに出たところなど、襲ってくれと言ってるようなものだ。
 歯噛みをしながら、何とか両手を縛る縄を解こうとするが、結び目が硬くて上手くいかない。
 一人で苦戦しているところに、ふいに、大勢の足音が聞こえた。
 扉が開いて現れたのは、いかにも人相が悪い花田組の連中と思われる男たち。
 その後ろにはサソリの刺青の男、鮫島と、いつのまにかすっかりけばけばしくなった衛藤美彩。
 そして、最後に、もう一人…。
(…!!)
「生田さんっ…!」
 史緒里は思わず声を上げた。
 口を閉ざして入ってきた生田は、史緒里の姿を見つけて少しだけ安堵の表情を浮かべるも、両手を拘束されているのに気づいて、また表情を戻した。
 下衆な男たちは、ニヤニヤしながら史緒里の元に寄っていって、
「目が覚めたようだな?気分はどうだ?」
「大好きな先輩が心配して来てくれたぞ?よかったなぁ?」
「久々の再会は嬉しいか?ハッハッハ!」
(くっ…コイツら…!)
 自分と生田の師弟関係が既に連中に知られていることに気づき、悔しそうな表情を見せる久保。
 衛藤は、その久保の顎を掴み、
「残念ねぇ。ドジの後輩のせいで生田先輩は、帰国早々、何の抵抗もできずに私たちのアジトに連行されちゃって…これじゃ、はるばるドイツから何しに帰ってきたんだか━」
「くっ…!」
「アンタを盾にしたら、おとなしくついてきてくれたわ。後輩思いの先輩に感謝したらどう?」
「いいかげんにしてくださいっ!」
 史緒里は、顎を掴む衛藤の手を、顔を振るって払いのけ、
「衛藤さん、あなたって人は…!」
 と、睨みつけた。
 しかし、衛藤は悪びれるどころか笑って、
「あらあら、前までは私にも『衛藤さ〜ん』なんて言って愛想を振り撒いてすり寄ってきてたくせに、今じゃ、そんな目をするのね。切り替えの早さはたいしたものだわ」
「何を言ってるんですか!あなたは、その人たちが何をしているか、どんな人間か分かって加担しているんですか!?」
「……」
「玲香さんを逆恨みして裏切り、正義に背いて巨悪に手を貸す。…あなたみたいな人は、私たち『乃木坂46』の恥です!目を覚ましてください!」
 それまでの余裕の態度が一変、核心をつく史緒里の言葉に、みるみる強張っていく衛藤の表情。
「…言ったわね?この小娘っ!」
 衛藤は、史緒里の髪を鷲掴みにして捻り上げた。
 悲鳴を上げる史緒里に対し、衛藤は鬼の形相になって、
「黙って聞いてりゃ…ガキのくせにあまり調子に乗ってんじゃないわよ?次、私に向かって今みたいな生意気なことを言ったら、そのツラ、ズタズタに切り裂いて二度と人前に出られないようにしてやるわ!」
 その語気、表情に、思わず恐怖する史緒里。
 それに対し、次は生田が、
「やめなさい!」
 と声を張り上げ、
「美彩。…寝返ったのは貴方の勝手。でも、それ以上、その娘に手をあげるつもりなら、次は私がただじゃ済まさない。それだけは絶対に許さないということを、今、あなたに言っておくわ」
 と、鬼気迫る表情を見せた。
 そのまま睨み合い、膠着状態の二人。
 その一連をずっと静観していた鮫島はうんざりという表情で、
「やめろやめろ。女の喧嘩なんて見るに堪えん。そういうのは俺のいないところで勝手にやってくれ」
 と言って一蹴すると、生田の前に歩みを進め、
「ククク…久しぶりだな、生田。一年前、桜井や若月に隠れてコツコツやってたようなヤツが、いつのまにか転属して海外組とは、えらく出世したじゃないか」
「……」
 返事もせず、冷ややかな目で鮫島を睨みつける生田。
 鮫島は苦笑して、
「そのゴミを見るような目が気に食わんな。あの妹分の小娘を痛めつければ、その目をやめてくれるか?」
「…美彩にも言った通り、もし、あの娘に危害を加えたら、私はアンタたちを絶対に許さない。刺し違えてでも殺してやるわ。それでも構わないなら好きにしなさい」
「ほぅ」
 鮫島は、数秒じっと生田の目を見つめて、
「…なるほど。本気の目をしている。あながち、ただの脅し文句ではなさそうだ」
 と、一歩引いて、一瞬、史緒里の方を見てからまた向き直り、
「それなら、こういうのはどうだ?これから、この小娘の処遇を巡って、俺とお前でゲームをしようじゃないか。それで、もし、お前が勝てば、あの小娘には指一本、触れない。お前と二人、無傷で帰すことを約束しよう」
(…!)
「…どうだ?本来なら二人まとめて犯してやるところだが、それじゃあ、半日以上のフライトと割に合わないから特別だ。悪い話じゃないだろう?」
 悪趣味な男の怪しげな提案。
 もちろん、生田とて、それを鵜呑みにするほどバカではないし、鮫島という男が、そんな情けをかけるようなヤワな男ではないことも知っている。
(必ず、何か罠や盲点がある筈━)
 だが、突っぱねたところで、このままでは史緒里を無事に助け出す方法が見つからない。
 仮に今から一人で大立ち回りを演じても、史緒里の首筋に刃物を突きつけられた時点で敗北だ。
 そして、その史緒里は、今、鮫島と衛藤の背後にいて自分から遠い上、両手を吊られている。
 よしんば敵の虚を突いたとしても、あの距離に手が届くかどうか。
 わずかな時間であの拘束を外してやれるかどうか。
(…無理だ)
 いくらシミュレーションをしても、この状況、この位置関係で無傷の救出は不可能だった。
(となると、やはり、この提案を飲むしかない━)
「…分かったわ」
「生田さん、ダメですっ!きっと何か企んでいるに決まってます!だから…んぐっ!」
「ガキは黙ってなさい」
 忠告の叫びをかき消すように衛藤の手が史緒里の口を覆う。
 生田は、再び衛藤に目を向け、
「丁重に扱いなさい。その娘は、私が必ず助け出すんだから」
 と釘をさした。
 鮫島は、生田のその言葉に、わざとらしく拍手をして、
「美しい師弟愛だ。思わず貰い泣きしそうだよ。ククク…」
 と笑った。
 この男を信用したワケではない。
 ただ、誘いに乗ること、それが脱出に望みを繋ぐ唯一の選択だった。



 鮫島は煙草に火をつけ、吸いながら、
「では、準備を始めよう。まずは下着姿になってもらおうか」
(……!)
 生田は、一瞬、戸惑った表情を見せ、
「じ、自分で…?」
「何だ?俺に脱がせてほしいのか?」
「だ、誰がアンタなんかに…!」
「だったら、早く脱ぐんだ」
 突然の屈辱的な指示に躊躇する生田。
「チッ…」
 鮫島は舌打ちをすると、黙って、くわえ煙草の赤く火のついた先を史緒里の頬に近づけた。
(…!!)
「早くしないと、この小娘の白い肌に消えない火傷の痕がつくぞ?俺は気が短いんだ。モタモタしてると…」
「わ、分かったわよ。脱げばいいんでしょ…!」
 生田は慌てて取り繕い、意を決して、シャツのボタンを一つずつ外していった。
 その様を不安そうに見つめていた史緒里だが、生田の肌が露出すると、つい目を背けてしまう。
 それに対し、衛藤は、史緒里の顎を上げさせ、
「先輩が、あなたのためにストリップをしてるのよ。目を反らすなんて薄情な真似はやめなさい」
 と言った。
「おら、早く脱げよ!」
「後輩に見られてるぞ!」
「恥ずかしいか?どうなんだ、おい!」
 取り巻きの男たちの冷やかしの声が飛ぶ。
 屈辱的な言葉、そして仕打ちだった。
 それにも唇を噛みながら耐え、生田は、悪魔たちの輪の中で、自ら下着姿を披露した。
「色っぽい下着つけやがって!」
「ほら、こっちを向いてポーズをとってみせろ!」
「彼氏の前でもそんな風に脱ぐのか?ハッハッハ!」
 男たちの野次が止まない。
 そんな見てられない光景に、衛藤の手を押し返してまで顔を背ける史緒里。
 それでも生田は気丈に、
「脱いだわよ…。こ、これでいいんでしょ…?」
 と鮫島を睨んだ。
 鮫島は満足そうに、
「オーケーだ。じゃあ、そこにまっすぐ立っていろ」
 と指示した。
 そして、鮫島から目の合図を受けた衛藤が、部屋の隅にあった麻縄を手にとり、慣れた手つきで生田の身体を縛り始める。
 後ろ手にされて、身体の自由を奪われていく生田。
 衛藤の気の強そうな顔立ちや真っ赤な口紅、革のパンツ、ヒールの高いブーツなど、いろいろな条件が相まって、縄を巧みに操るその姿はまるでSMの女王様のようだ。
「生田さん…」
 不安そうな目で見る後輩に、生田は縛りつけられながらも、
「大丈夫…」
 とだけ言った。
 そして仕上げに衛藤が縄の先を天井のフックに引っ掛ければ、縄で雁字搦めにされ、下着姿で片足立ちにさせられた生田の完成だ。
 そして、その真っ正面で不安そうに見つめる史緒里。
 胸の膨らみを強調するように縄を張り巡らされ、ぎっちり絞られたせいで、生田のバストラインが強調され、それが妙なエロチシズムを生む。
 まるで蜘蛛の巣に絡め捕わられた獲物のような状態の生田に、鮫島は、小さなスポイトを見せつけて、
「さぁ、口を開けてもらおうか」
「な、何をするつもり…?」
 警戒色を強める生田。
「こいつを少し飲んでもらうだけだ。大丈夫、死にはしない」
 鮫島は無責任な言い草で生田の口をこじ開け、舌の上にスポイトで、ピッ、ピッと滴を垂らし、次は口を塞いで閉じさせた。
「んっ!んーっ!」
 口の中に広がる甘ったるい味。
 口内に溜まる唾液が、その滴と混ざり合い、喉へ流し込んでいく。
 そこでようやく、口を塞ぐ手が退けられた。
「ごほっ、げほっ…!な、何を飲ませたの…!」
「なぁに、たいしたことはない。少し身体が敏感になる程度だ」
 と、鮫島が言うと同時に、配下の男たちが四人、いわゆる“電マ”という器具を手にしながら、生田の四肢の横に張りついた。
 顔色を変える生田。
 なんとなく、その器具の用途や威力は察する。
 そして、その眼前に突きつけられるストップウォッチ。
「では、ルールを説明しよう。今から10分間、こいつらがお前の身体を責める。もし、10分間のうちに5回、気をやったらお前の負けだ。…どうだ?簡単だろう?」
「じゅっ、10分で5回…?」
 咄嗟に頭を回転させる生田。
 10分で5回、すなわち2分に1回のペースで気をやると生田の敗北となる。
 さっき飲まされた妙なクスリの効き目が分からないから、何とも言えない。…が、
(でも、それぐらいなら何とか━)
 とも思った。
 とりわけ敏感な体質でもないし、こんな状況で感じる筈がない、気を張っていれば耐えられる、という楽観的な余裕もあった。
 生田は、少し間を置いてから、
「…分かった」
「生田さんっ!?」
 目の前で、怪訝そうな顔を見せる史緒里。
 生田が何か言いかけるのをかき消すように、鮫島が、
「それじゃあ、始めよう。タイマー、スタートだ!」
 と言った。

鰹のたたき(塩) ( 2020/01/16(木) 06:56 )