乃木坂抗争 ― 辱しめられた女たちの記録 ―





























































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第二部 第五章・遠藤さくらの場合
1.不信感
 遠藤さくらは、日に日に、不信感を抱いていた。
 相手は清宮レイ、同じ練習生の仲間であり、また、同期でもあった。
 普段から生真面目な性格で、実際、トレーニングでも決して手を抜かない人間の筈なのだが、それが最近、どうも様子がおかしい。
 練習中なのに上の空の時もあるし、何かを堪えて苦しんでいるようにも見える。
 心配して声をかけても、
「大丈夫…!」
 と言うだけで、それが何日か続いていた。
 当初は体調が悪いのを隠して無理をしているのかと思った。
 負けず嫌いな性格だから自分や周りの同期に弱味を見せたくなくて強がっているのかと思った。
(それならそれで、ある意味、安心だけど━)
 だが、どうも違うようだ。
 トレーニングが終了しても、すぐに帰らず、いつも仲間には先に帰るように促して一人だけ居残っては、衛藤トレーナーと“何か”をしているらしい。
 居残りで個別トレーニングを受けるのは結構だが、
(それなら全体練習でもシャキっとすればいいのに…)
 と、さくらは思う。
 そんな不信感を、さくらは、日に日に募らせていた。


 この日も、レイはあまり練習に身が入っていなかった。
 そのくせ、やけに息が上がって、顔も赤い。
 そしてまた、練習終わりにみんなで更衣室で着替えていると、
「みんな、先に帰っていいよ」
 と言って、どこかへ消えていく。
 しばらくすると、掛橋沙耶香が寄ってきて、
「最近のレイちゃん、何かおかしくない?」
「分かる。何か変だよね」
 と、さくらが応じれば、隣にいた筒井あやめも、
「具合でも悪いのかな?」
「でも、聞いても教えてくれないの」
 さくらは、他の同期も不思議に感じていたのを知れて安心した反面、
(やっぱり変だ。何か隠してる…!)
 と確信した。
 これまで普段から仲良しだったのに、突然、何を隠す必要があるのか。
 三人は身支度を済ませ、ジムから帰路についた。…が、少し歩いたところで、さくらは、少し考えてから、
「…ごめん。今日、用事があったの忘れてた。先に帰ってて」
 と切り出し、二人と別れた。
 もちろん用事なんてない。
 二人の後ろ姿が見えなくなると、さくらは、来た道を引き返した。
(レイちゃんの身に何が起こっているのか、確かめなきゃ…!)
 それが同期の絆だと、さくらは思っていたし、この時は、まだ、後に自分の身に降りかかる災難など予感もしていなかった。


鰹のたたき(塩) ( 2019/12/30(月) 14:09 )