2.期待の芽
「えいっ!…やぁっ!」
爽やかな声が響く。
ここは都内某所、独立組織「乃木坂46」のトレーニング施設。
ここ数日、そこに通いつめては汗を流し、健気に鍛練を積む若い女性がいた。
清宮レイ。
近々、本部へ配属されることが内定した捜査員の卵だ。
「はい、オッケー!すごくいいよ!」
トレーナーの衛藤美彩が声を上げた。
美彩自身も元は警察庁の捜査官の一人だったが、今は一線を退き、後進の育成のため、新米捜査官のトレーニングのサポート係をしている。
今、レイが行っているのは体術の実践トレーニングだが、美彩が見ても申し分のない動きだった。
スピードがあるし、ここ数日の追い込みで一撃ごとの拳、蹴りの重さも増している。
これなら体格がまるで違う大男が相手でも、素早く的確に有効打を繰り出して、いい線で渡り合える筈だ。
「オッケー!それじゃあ、一旦、休もうか」
と美彩は言ったが、レイは首を振り、
「美彩さん、もう1セットお願いします!」
と、ひたむきな眼差しを見せた。
最近、本部が手を焼いている事件については、レイも話は聞いている。
少女の頭では理解に苦しむ浮世離れした卑猥な事件だが、近々、自分もそこに配属される。
先輩たちの足手まといになるワケにはいかないし、自分の身は自分で守らなければいけないということで、今のうちから万事に備えてトレーニングを欠かさない。
その後も、レイは、シャドーにミット打ち、サンドバッグ蹴りに体幹トレーニングなど、自ら志願した追加メニューを汗だくになりながらこなした。
あまりの熱量に、美彩の方が、思わず、
「レイちゃん、ちょっと休みなさい。追い込みすぎると身体に良くないから」
と、たしなめたほどだ。
そんな期待のルーキーは、並々ならぬ闘志を秘め、日々、悪に立ち向かう準備をしていた。
トレーニング終了。
レイはもちろんのこと、それに付き合う美彩も汗だくになっていた。
美彩はタオルに顔を埋めながら、
「レイちゃんは、もう、いつでも出動できるよ。そんじょそこらのチンピラ相手には楽勝じゃないかしら?」
「そんな事ないです。先輩たちの力になるためにも、まだまだ強くならなきゃ…!」
レイは謙遜し、さらに高みを目指す。
「そうね。さらに強くありたいという気持ち、目標が高いのは素晴らしいと思うわ。でもね…」
美彩は急に声をひそめて、
「捜査員は強いだけじゃダメよ。捜査員も人間だもの、時には不覚をとってピンチに陥る時もある。そんな時こそ折れない忍耐力が必要なのよ」
「忍耐力━」
「そう。何なら、忍耐力を鍛えるトレーニング、今から試してあげようか?」
「そんなのあるんですか?」
「ええ。あるわよ」
「じゃあ、やりたいです」
レイは即答した。
美彩は満足そうに、
「オッケー。じゃあ、早速、準備をさせてもらうわね」
と言った。