1.任務
東京都港区、赤坂に建つとあるビル。
この日、山下美月は、上司に呼ばれた。
手短に、
「新しい任務だ」
とだけ言われ、資料を渡された。
< ターゲット … 新宿の秘密クラブ『メリー・ジェーン』
今回の任務 … 顧客データの入手 >
と書かれている。
『メリー・ジェーン』というクラブは、最近、裏で未成年を交えた輪姦パーティーを開催し、高額な会費で参加者で集めているという良からぬ噂のあるところだ。
「得体の知れない連中だ。危険が伴うかもしれない。心配なら他の者に頼むが、どうする?」
と上司が聞くので、美月は首を振り、
「いえ、お任せください」
と力強く答えた。
……
そして、その日の夜、美月は闇に溶けやすい黒のレザースーツに身を包み、お目当ての秘密クラブに潜入した。
店の者は店内にいて、バックヤードはもぬけの殻だ。
(しめた!)
早速、忍び足で探索を開始する。
秘密のデータが入っているコンピュータがこの店内のどこかに隠されている筈だ。
(ここ、おかしい…)
ふと、壁に妙な切れ目を見つけた。
そこに手を当てて押し上げると壁の一部がスライドし、開閉ボタンが現れた。
まわりを警戒しながら「開」を押すと、目の前の壁が自動ドアのように開いた。
(あった!)
その真っ暗な隠し部屋の奥でパソコンのディスプレイの明かりだけが光っている。
素早くメモリースティックを差し込み、内部データを吸い上げる。
マウスを操作し、キーボードをぱちんと叩くと、例の秘密のパーティーの顧客名簿が出てきた。
有名な政治家や芸能人、野球選手の名前もある。
これらの著名人が、その如何わしいパーティーの常連客ということに失望する。
(まったく、これだから世の中の男は…)
美月は、呆れ半分、怒り半分の目で名簿を下へ下へと繰っていく。
(……!)
ふと、背後に視線を感じ、部屋の電気が点いた。
「何者だ!」
振り返ると、男が二人、こちらを睨みつけている。
美月はスーツの袖から携帯式の警棒を取り出し、素早い先制攻撃で左の男を殴りつけた。
「ぐわっ!」
男が悲鳴を上げて倒れた。
「き、貴様っ!」
慌てるもう一人も脇腹めがけて殴りつける。
「ぎゃあ!」
男が呻き声を上げてひっくり返る。
(ふぅ…)
思わず溜め息をついた。が、ゆっくりしている時間はない。
見回りが来たということは、これ以上の長居は危険だ。
美月はメモリースティックを抜き取ると、それを胸の谷間に隠し、昏倒する男たちを置いて部屋を後にした。
再び自動ドアを開く。が、開いた瞬間、そこに立っていた男の拳をモロに腹に食らった。
(くっ…!)
そして、次の瞬間、パチパチという音とともに焼けるような痛み、そして痺れが全身に走った。
(しまった…)
美月は、思わず、その場に倒れてしまった。
「ふふふ。どうだ?高圧スタンガンの威力は?」
男の声がかすかに聞こえる。が、意識が朦朧として遠い。
(か、身体が…動かな…い)
やがて美月は、そのまま意識を失った。
(つづく)