冒険
06
このままだと完全にはぐれちゃう、そう思った俺はまだ見えている優子さんの後ろ姿に向かって走り始めた。人混みの中でうまく進めないが、必死に前へと進む。
「優子さん!」
やっと追いつきその手を掴んだとき、一瞬跳ねたように体を震えさせた彼女がこっちを向く。
「優子さん、さっき言いましたよね。彼女にできないなんて事はないって、それはこれからの関係次第ってことですよね。だったら、だったらもう関わらないなんておかしいですよ、そんなこと言わないでください。」
やっと掴んだ手は細く小さく、少しのことで折れてしまうのではないかと言うほど繊細で美しかった。
「出会いかたなんてどうだっていいじゃないですか、僕は今の関係が大事なんです、優子さんとの今が大切なんです。だから、これからも一緒にいてください。」
「でも私とは関わらない方がいいの、絶対に言える。」
「好きなんです。」
静かに、それでも何かに打ち付けるようにその一言を発した。
「優子さんの事が好きなんです、だから関わっていたいんです。」
「…陸君はね、好きって感情を思い違ってるよ。私との出会いに運命みたいなのを感じてるなら、それはもう忘れなよ。傷つくだけ。」
「忘れられませんよ、傷ついてもいい、どうなってもいい、でも優子さんとはこれからも、優子とはこれからも関わっていたい!」
精一杯の気持ちを彼女にぶつけた
「さっき君づけしたでしょ、ダメですよ決めたことなんだから。」
きょとんとした顔から、ようやく彼女は笑顔を見せてくれた。
「そうだね、私から言ったのにね。ごめん陸、私あなたの事ちょっと過小評価してたみたい。驚いちゃった。」
そう言って彼女は僕の手を引く
「告白にしてはちょっと酷かったけどね。」
そう言うと彼女は笑いながら歩きだした、それがさっきまでのとは違い、誰かと歩くペースであることはすぐにわかった。
「でも付き合うのは無理かなー、それに前までと同じだよ。覚悟して私に関わってね、もう言わないから。」
「はい。」

あっけなくフラれて、それでも彼女と関われることに安心感を抱いていたこのときは、この言葉の意味なんて考えもしなかった。

愛生 ( 2014/07/26(土) 17:14 )