三毛猫
06
一軒家に住む彼女は独り暮らしで、生活に不自由する様子は感じられなかった。家に上がるや否や、彼女は客人をもてなす行為を慣れたようにこなし、珈琲とクッキーなどが乗ったプレートを出してきた。
「随分歓迎的なんですね」
「だってわざわざ拾ったの届けてくれたんだよ?私その財布なかったら大変だったもん。」
そう言うと彼女はすこし悲しそうな顔をしながら
「でも昨日で終わらせるつもりだったから、お金なんて一銭も入ってないんだけどね」
と付け加えた。
「ごめんねなんか気分悪くしちゃって、でも気にしないで、もう大丈夫だから。」
「あの…」
僕は口を開いたことをすぐに後悔した、だがそれはもう手遅れ、この先のことを躊躇うことすらできなかった。
「優子さんはなんで死のうとしてたんですか…」
「そうだな…疲れちゃったんだと思う。」
大島優子は僕にも、かといって今見ているティーカップに焦点を当てているわけでもなく、昨日の自分を見ながら僕に返事をした。
「でもね、吉井君だっけ?」
そういうと急に顔つきが真剣になり
「あまり私に関わらないで、もうこれが最後、これからは私なんて忘れて生きていってね。」
そういうと彼女は席を立った。

そこからどのくらい彼女の家にいたかは覚えていない。だが僕はまだ幼くて、それでいてその言葉を理解しようともしていなかった。まるで自分の使命を知ってそれを遂行しなければならないとでも言うかのように、勝手に使命感に刈られていたのだ。大島優子という一人の女性を守らねばならないという使命感に。何から守るかもわからぬまま、少年の心には随分厄介な志が宿ったのだ。

今になればそれは大きな失敗だと言えるのだが。

愛生 ( 2014/06/25(水) 13:40 )