03
「一体何が起きてんだよ…」
目の前で起きた光景を睦月は信じることができない。恐ろしい力をした怪物が、いとも簡単に吹き飛ばされたのだから。
「さっきの言葉はほんと?」
目の前のことにポカンとしている睦月だが、不意に後ろから聞こえた声で我へと返る。振り向いた先にいたのは、一人の女子生徒。質問の意味がわからない、という顔をしている睦月にもう一度言葉をぶつけてきた。
「人を助けたいって言葉はほんとなの?誰でも助けるの?」
「お、おう。何か変か?」
睦月の返事に、女子生徒は大きな笑いをあげた。何がおかしいのかわからない睦月は、なんだかバカにされているような気がしていた。
「超変だって。でも、面白い…。だから、コレあげる。」
女子生徒が取り出したのは、先ほど怪物が使っていたスイッチに形状がそっくりなものが四つ填まっている、何かの装置のようなものだった。
いきなりあげると言われても、何かわからないものを渡されたのだから、睦月は困惑していた。受け取るか、受け取らないか、悩んでいると女子生徒はボソッと呟いた。
「それを使えば、あの怪物を倒せるよ?」
これには睦月の表情も一変する。この言葉に確証などなかったが、今はこれに賭けるしかないと思い、目の前の装置を掴んだ。
「それを腰の高さ辺りにつける。それから、四つの赤いスイッチを入れるとカウントダウンが始まるから、それに合わせてレバーを押し込む。そうすると、ヒーローに変身できるよ」
ますます信じがたい言葉だったが、どうにでもなれと思い、睦月は言われた通りにやってみる。すると、白い光がその体を包み込み、本当にヒーローのような姿になっていた。
「マジかよ…夢じゃ…ないよな?」
「前、来てるよ?」
変身した姿が信じられない睦月は、自分の体をまじまじと見ていたが、女子生徒の言葉でハッと前を向く。すると、そこには拳が飛んできていた。躱すことのできる距離ではないため、この力を信じて攻撃をガードすることにした。
先ほどは軽く当たっただけでかなりの痛みだった怪物の攻撃が、今は耐えられる程度の痛みになっていた。自分は本当に強くなっている、ヒーローになったのだ。あの怪物と戦えることがわかった今、睦月には恐れなどなかった。奈和が与えられた恐怖に対する怒りを胸に、睦月は怪物へと立ち向かった。