Fugitive
05
 聡志は友香をより強く抱き締める。

「聡志くんだけだったよ。私の味方は」

 友香はそう言うも、聡志は内心後悔していた。どうしてもっと、本当の意味で助けることが出来なかったのかと。

「今だってほら、こうやって連れ出してくれてる」

 どうして連れ出すということしか出来なかったのかと、聡志は自分に問い質す。自分が友香の父親を殺せば良かったのにと。


 パトカーのサイレンの音が近くなってきていた。

「友香、行くぞ!」

 聡志が手を引き立つも、友香は動こうとしなかった。

「でもね。もう・・・いいの」

 友香が微笑む。

「逃げなきゃいけない存在はもういないよ。聡志くんの自転車の後ろに乗って、ただの散歩とかしてみたかっただけだから」

 パトカーは明確に二人を追っている訳ではなく、ただのパトロールとかかもしれない。友香が父親を殺してしまった今、初めてのただの散歩だった。そのことを思い出そうとするまでは。

「なぁ、二人乗りって法律で禁止されてるんだっけ? それを注意しに来ただけかもな」

 聡志は散歩を終わらせたくないと思った。奥の方からこみ上げてくる涙を堪えて友香の隣へまた座った。

「そうだよね! じゃ今度は私が自転車漕ぐから、聡志くんは走ってよ」

 そう言ったところであふれ出た涙を友香は拭い、悪戯な笑みを浮かべる。

「自転車、乗れたっけ?」

「うーん・・・無理かも? でも走るのも嫌!」

 お互いの顔を見合わせ笑い合う。

「心配するな。もし見つかっても逃げればいいんだ。俺の後ろは友香の特等席なんだろ?」

 言い終えた後の聡志は顔から耳まで真っ赤になっていた。

「聡志くん、照れてるの? 可愛い」

「うるせーよ。そんなこと言ってるともう乗せてやんねーからな」

 そう言いつつ聡志は友先生を強く抱き寄せた。幸せそうな満たされた表情を浮かべ、友香は静かに目を閉じる。



鶉親方 ( 2017/08/31(木) 00:28 )