02
二人は幼馴染だ。家からあまり出してもらえなかった少女を見つからないように連れ出していた少年。
子供の出来ることなんて限られていて、河原や公園や駄菓子屋。良くてゲームセンターというそんな所にしか連れて行けなかったが、子供が一人で行けるような所にも行った事のない少女にとって、連れっててもらえたということが楽しくて夢のような時間だったと語る。
まだ未熟だった少年は少女の父親に見つかっては死ぬほど殴られたり、自分の両親を呼ばれては謝らされるのを懲りることなく繰り返した。その度に少女は泣いて謝った。自分のせいで少年が傷つけられるのが辛くて、もう連れ出してくれなくていいと。
しかし、少年は『自分が連れ出したいだけだ』と意地を張った。だが初めこそは連れ出すなんてことは考えてなかった。
ただそれは、ある時を境にする前の話で、少年は少女を連れ出し続けるし、少女もそれを待っていた。
少年は体の弱い子だからだと、周りの大人たちは少女を連れ出す少年を強く非難した。
少年は一通り思い起こしたところで、思い起こすのを止める。
「昔とは違う自転車だけど、いつだってここが私の特等席だよ」
そんなときに聞こえた少女の呟きは、少年の胸を痛いほど締め付け、改めて決意を固めさせた。
「バーカ。ガキの頃と同じ自転車に乗ってられるかよ」
それを悟られないようにワザと悪態をつく。特等席の件には触れずに。
「そっか、そうだよね」
少女の寂しそうな声が少年の中で繰り返すように響く。自分たちが大きくなってしまったことへの感傷の声だったのだが、傷ついたように感じたからだ。
少年が謝ろうとした時、大きなサイレンの音が辺りに鳴り響いた。はっとした少年は自転車の漕ぐ足を速めた。
「ねえ」
少女の声も気にせず、無我夢中でペダルを漕いだ。
「今の消防車のサイレンだよー」
次の一言に危うく急ブレーキを掛けそうになるも、巧くブレーキを掛けつつ速度を落とした。
「勘違いしたんでしょ? パトカーの音と」
一気に現実に引き戻されるような、あくまで冷静な少女の声。
「勘違いなんかするかよ、体に悪いだろ。煙とか・・・色々と」
自分でも何を言っているのかよく分からないと、内心思った少年の言い訳。それでも、少女の笑顔を戻すのには大いに役立った。
「本当に、優しいね」
くすくすと笑う声。この瞬間がずっと続けばいいのにと少年は願った。先ほどとは違い、表情が厳しくなりつつ。
きっともう発見されているであろうモノと、その場からいなくなった少女。