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足を踏まれて1時間は経ったというのに真斗の足はまだ痛んでいた。
この様子では、ゆりあの言う通り青あざになりそうだ。
真斗はホテルの廊下を足を引きずりながら歩く。
ゆりあ「もう、男の子なんだからしっかりしな。そんなことでいちいちギャーキャ言うなんて情けないし女々しい男に見えるよ」
真斗「いや、お前が踏んでおいてそれはないだろ。結構痛いんだから」
恐らく踏まれたのがゆりあではなかったら、この場でキレていたはずだ。
人の足を踏みつけておいて、痛がる相手に向かって情けないないや女々しいと言って来るなんて喧嘩を売られているようなものだ。
だが、真斗はやられた相手がゆりあだと何故か許せてしまう。
むしろ、ゆりあを小馬鹿にした自分に罰が当たったとしても仕方ないという気さえしてくるほどだった。
真斗「いや、やっぱりおれが悪かったよ。もう少し口には気をつけるようにするよ」
どうせゆりあの返答は決まっている。
そうよ、よく分かってるじゃない。ゆりあの性格上、このように上から物を言われて終わるパターンだろうと真斗は心の中で思った。
ゆりあ「でも、ごめんね、私もちょっとやり過ぎたかも…。あとで、しっかり冷やすとか応急処置しといてね。これ以上、酷くなると大変だから…」
真斗「えっ、何で…?」
真斗は狐につままれたような気になり、思わず声をもらしてしまう。
あれだけ毒舌だった口は何処へ消えたのやら。
それに、可愛らしい瞳を使い、上目遣いで真斗を見つめるゆりあ。
まさしく、これを”ツンデレ”と言うのだ。
真斗は心の底からこの目の前にいるゆりあを抱き締めたくなった。
真斗「いや、なんのこれしき、全然大丈夫だよ。俺のことは気にするな」
真斗は自分の浮ついた心を抑えつけ、出来るだけスマートに対応した。
いつの間にか、あれだけ痛かった足もすっかり治ってしまったようだ。
ゆりあ「うん、真斗君って素敵!
って、調子こくなこの変態マネージャー!」
ゆりあはいきなり真斗のスネに蹴りを入れた。
真斗はその蹴りをまともに喰らい廊下に倒れる。
真斗「痛って!何んだよいきなり。それよりスネは反則だろ」
ゆりあ「馬鹿だね、ちょっとおちょくっただけで本気になるなんて。さては、ゆりあのことを狙ってるな。ああ、ストーカーは怖いよ」
ゆりあは真斗の手からカードキーを剥ぎ取ると、スキップしながら部屋へと向かった。
真斗「あっ、もう!明日は朝8時にはホテル出るからな。それまでに起きとけよ」
ゆりあ「うん、了解です♪じゃあ、おやすみなさい変態マネージャーさん」
そして、また足の痛みがぶり返してきた。それに欲しくもないスネの痛みとのとのおまけつきで。
真斗は陽気にスキップするゆりあを見てふとため息をつくのだった。