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ゆりあ「へぇ、珠理奈ちゃんてここのCMやってたんだ。すごいじゃん」
珠理奈が連れてきたこの店は、どうやら珠理奈がCMをしている店だった。
そのためか、店内の壁には珠理奈のポスターが貼られており、出入り口にもサイン色紙が飾られていた。
おまけにメニューにも珠理奈のオススメのラーメンに”あの松井珠理奈も唸る当店の自信作”と書かれている。
珠理奈「ただのCMなんだからすごいこともないよ。でも、ここのラーメンは本当に美味しいから」
店員が丼を運んでくると、テーブルはたちまち豚骨スープの香りに包まれた。
確かに自信作とうたっているだけあって、手の凝りようが見て取れる。
ゆりあ「うん、久しぶりにこんなガッツリ系の食べたけどやっばりうまい!」
ゆりあは運ばれてきたラーメンに一目散にかぶりついていた。
よほど腹が減っていたのか食べるスピードもいつもより早い。
珠理奈「うわっ、すごい食欲だね。この食べっぷりには男の子の真斗を超えるんじゃない?」
真斗「さすがに本気出したら勝つだろうけど…。でも、ちょっとぐらい考えろよお前はアイドルなんだから。お前は大場美奈か?」
実際に、SKEにも大食いキャラを定着させている大場美奈というメンバーもいる。
でも、真斗としてはゆりあには可愛らしいキャラのアイドルでいて欲しかった。
真斗も大食いキャラを否定する訳ではないが、どうも本来のアイドルの姿とはかけ離れているような気がしていた。
確かに食の細いメンバーよりは、ある程度しっかり食事を摂るメンバーの方が体力もついているし健康的だ。
しかし、幾ら理屈を並べたとて、食べ過ぎることはよくないことである。
アスリートならともかくゆりあはアイドルに徹しなければならないのだ。
ゆりあ「やだ、みなるんと一緒にしないでよ。私もぽっちゃりなことは認めるけどデブじゃないんだから!」
真斗「ぐはっ、痛った!何すんだよ」
ゆりあは返事と一緒にテーブルの下で真斗の靴を踏んだ。
ゆりあはヒールこそ履いていなかったものの、ブーツを履いているため相当のダメージを真斗は受けた。
珠理奈「どうしたの、いきなり?」
ゆりあ「真斗の口が悪いからちょっと意地悪しただけ。さっ、ラーメンが冷めるから早く食べよっと」
ゆりあは痛がる真斗をよそに再び何食わぬ顔でラーメンをすすり始めた。
その横で真斗は靴を脱いで足を一生懸命に摩る。
様子を見た限り少し赤くなっているくらいで重症ではなさそうだ。
真斗「お前、いきなり足踏みつけるって酷いな。ちょっとおちょくっただけなのに…」
ゆりあ「ガールズには言っていい冗談とそうじゃないことがあるのよ。男ならそれぐらい分かりな」
珠理奈「えっ、まさかさっき足踏まれたの?めっちゃ痛かったんじゃないの」
珠理奈は思わず口を抑える。
ブーツでもそこそこの力で踏まれればその痛みは尋常ではないのだ。
それは誰にたって容易に想像できる。
ゆりあ「大丈夫だよ。本気ではないし、ちょっと青たんができるぐらいがちょっといいのよ」
ゆりあは済ました顔で水をグッと飲み干した。
そしてまた残りのラーメンを食べ進める。
珠理奈「うわっ、ゆりあって怖いね。真斗もこれからはうかつにからかうのは禁物ね」
珠理奈は笑いながら痛そうな真斗の足をさすった。