第三章
06
修二郎「おーい、ゆりあ!入るぞ」

修二郎と真斗はゆりあの控えるメイクに入っていった。
ドアを開けると、ゆりあはもうメイクや衣装に着替えることも済ませ、ダンスの振り付けを確認していた。

修二郎「いつもにも増して、やる気充分って感じだな。
ゆりあが本番前に振り確認なんて明日は雨か?」

ゆりあ「あっ、中村マネージャーお疲れ様です。でも、結構振り練習してると思いますけど」

よくよく考えてみると、修二郎の言う通りであった。
ゆりあも振り付けを練習していない訳でもなかったが、特に力を入れ練習し始めたのはここ最近の話だった。
真斗には見慣れた景色でも、SKE時代のゆりあしか知らない修二郎にとっては、その姿は新鮮に見えたのかもしれない。

修二郎「まぁ、良い心がけだよ。するとのしないのでは雲泥の差があるからな」

真斗「本当に修二先輩の言う通りだぞ。それに、また選抜メンバーの中に入ったんだから、新曲の練習もしとかないと」

ゆりあだって人間なのだから繰り返し振り付けを練習しなければいつかは忘れてしまう。
AKBが人気アイドルグループに成長した現在、AKBの楽曲は姉妹グループを合わせると千曲を超える。
その上、選抜に選ばれたメンバーは新曲の振り付けも加えて練習をする必要があった。
これは、人気メンバーに登りつめた人間の嬉しい苦労かもしれないが、その練習量をこなすのは簡単なことではない。

修二郎「そうか、あの新曲でお前も選抜に選ばれたんだな、おめでとう。って言ってもお前からしたら嬉しい反面、大変なことの方が多いよな」

修二郎も選抜に選ばれることでメンバーに掛かる体力面での影響やプレッシャーなどの気持ちの負荷の大きさは充分理解していた。

その昔、SKEが結成される前、修二郎はマネージャーの見習いとしてAKBに所属していた。
その時に修二郎は、目の前で過呼吸になりながらうずくまるメンバーを何人も見ていた。
かの、AKBの礎を築き上げた前田敦子や大島優子とて、何度も舞台裏で倒れている。
修二郎の脳裏には、その光景を見た衝撃が常にあった。

ゆりあ「まぁ、今回の曲は比較的、簡単そうなんでなんとかなりそうです。それより今日の方がちゃんと踊れるか心配ですよ」

真斗「大丈夫だよ。今までお前はSKEで成長してきたんだから、家に帰ってきたと思えばいいだろう?」

まさしく、この劇場はゆりあをトップアイドルへと育て上げてくれた。
ゆりあは日々この劇場でダンスレッスンを繰り返し、公演も行ってきたのだ。

修二郎「そうだぞ。今日はMCも確認しなくていい。お前の好きなこと、思ったことを口にして来い」

修二郎はゆりあの肩をひと叩きして、背中を押した。
それに答えるかのようにゆりあも首を縦に振り、メイク室を後にした。

真斗がふと頭上を見上げると、時計はゆりあの出番の5分前を指していた。




■筆者メッセージ
今日もMステを見てましたがジャスティン ビーバーが出てましたね。

確かにかっこいいとは思うんですけど、どうも好きになれない自分がいます。

珠推しくん ( 2015/12/05(土) 00:51 )