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テレビの生中継は何の問題も無く、ほんの10数分で終了した。
テレビ中継とは言えども今回の仕事はたかが人気のパン屋さんの紹介である。パンを試食してその店のこだわりなどを聞き出すのにはそれくらいの時間が妥当だと言うのも頷ける。
ゆりあ「ふぅ、一つ目の仕事はクリアか…。二つ目はラジオか、時間はギリって感じ?」
真斗「いや、次のラジオ収録は2時半スタートだからあと一時間ある。まぁドタバタはしないで済みそうだな」
収録が終わったのは丁度1時半過ぎ。収録現場にはここから20分で着く。
いつもの忙しさに比べると比較的、時間に余裕はあった。
真斗「じゃあ、今から15分後に出発するから、ゆりあは台本でも読んでろ。漢字はひらがなに直しといたから」
ゆりあ「分かってるよ。また真斗は”漢字も読めないなんて”、って私を馬鹿にしようとしてるんでしょ?」
真斗「俺、そんなこと一言も言ってないぞ。とりあえず俺は修二先輩に挨拶してくるから」
そう言って真斗はゆりあを車で待たせ、修二郎の車に向かった。
ついでに、真斗は途中の自販機でコーヒーを買った。
今日もカンペのことなどで修二郎には助けられた。しかも真斗は修二郎の弟子のようなものである。
コーヒーぐらいは奢るべきだろう。
真斗「修二先輩!コーヒーでも一緒にどうっすか?」
修二郎「おう、ありがとうな真斗。ここにでも座れよ」
この時、修二郎は花壇のブロックの上で携帯をいじっていた。修二郎は真斗に隣に来るようにと、ブロックを叩いて合図する。
真斗は修二郎に誘われた通り、修二郎の隣のブロックに腰掛け、コーヒーを渡す。
修二郎「おい、これってカフェオレじゃねえのか?俺はブラック派なんだけどな…」
真斗「あっ、しまった!ついつい、いつもの癖で買ってしまって…。買い替えきたほうがいいっすか?」
修二郎がブラック好きなのは真斗自身が前から知っていた。
でも、真斗はうっかりブラックを買ったつもりがカフェオレを買ってきてしまったのだ。
修二郎「いやいや、そんなの悪いだろ。せっかく買ってきてくれたんだ。別に嫌いではないし、大丈夫だぞ」
真斗「いや、ほんとすいません」
真斗は修二郎にぺこりと頭を下げると黒くない黄土色のカフェオレを傾ける。
修二郎もそれに合わせて一口、カフェオレを口にした。
修二郎「ふぁ、やっぱり甘いな。これを真斗はゆりあにいつも飲ましてるのか。この強めの甘みがお前のゆりあに対する気持ちっていうことか」
真斗は今の修二郎の言葉に耳を疑った。
確かに真斗はいつもゆりあにカフェオレを買ってやっている。
その時はいつも修二郎と同じブラック派の真斗もゆりあに合わせ、カフェオレを飲んでいる。
それをなぜ修二郎が知っているのだろうか。
それに最後の
”強めの甘みが気持ちを表している”
これは完璧に真斗がゆりあに好意を抱いているという事をいっているのだ。
真斗の背筋が一気に凍る。
真斗「あ、あの…それってどうゆう意味で…言ってるんですか?」
青ざめた真斗とは対照的に修二郎は少し笑いながらカフェオレを一気に飲み干した。