08
真斗「おっ、ひょっとしたらあの車、修二先輩の車かもしれないな」
白のステップワゴンが太陽の光に反射してこちらに向かってくる。
昔に修二郎があの車を運転しているのを真斗は見たことがあった。
恐らくあれから車を変えたとは聞いていないので修二郎の車で間違いはないだろう。
ゆりあ「中村マネージャーか、久しぶりだな。私はSKEから移籍して以来、仕事で一緒になるのは初めてかも」
真斗「ああ、ゆりあはそうだろうな。俺だってSKEからチームBに配属されてからはあんまり顔合わしてないし」
修二郎はもともとSKEが結成された当初からマネージャーを務め続けているベテランであった。
真斗がその昔、SKEでマネージャーの見習いとして働いていた時、修二郎が真斗の指導係だった。
実はゆりあも真斗がマネージャーに付くまでは修二郎にスケジュール管理などを全て任せていた。
そのこともあってかゆりあも修二郎のことはよく知っていた。
そして現在、修二郎に鍛えられた真斗はチームBのナンバー2マネージャーに、ゆりあはチームBのキャプテンに就任。
一方で修二郎は二人より前にSKEのチーフマネージャーにまで出世していた。
真斗「でも、なんやかんやで修二先輩には二人ともお世話になってるよな」
ゆりあ「確かにね。真斗は下っ端のとき中村マネージャーに散々怒られてたもんね」
その昔、当時高校を卒業したばかりの真斗はマネージャーとしてヘマばかしていた。
メンバーのスケジュールも確認出来なければ、番組の打ち合わせさえも出来なかった。
そんな時はいつも控え室のトイレで真斗は修二郎に怒鳴られていたものだ。
真斗「うるせぇよ…。とにかくほら修二先輩に挨拶しに行くぞ」
真斗は分が悪くなってしまったのを誤魔化すためにそそくさと車のを出る。
真斗も男である。好きな女の子に自分の失敗を指摘されるのは屈辱的に感じてしまったのかもしれない。
真斗「修二先輩、おはようございます!どこ行くんですか?」
修二「おはよう真斗。なんかお前に会うのは久しぶりだな。今から小便行くけど来るか?」
修二郎はどうやら収録を前にトイレを済まそうとしていたらしい。
このあとはマネージャーで番組打ち合わせがあるのでトイレなど行っている暇はない。
特に尿意の無い真斗であったが、そのまま修二郎についていくことにした。
修二郎「でも真斗、ゆりあと一緒にAKB行ってチームBのサブチーフになったんだって?それにゆりあもキャプテンだろ。みんなでっかくなったんだなぁ」
修二郎はふと感慨深げに真斗に話しかける。
それもそうだろう、あと何もできなかったクソガキが今やサブチーフである。そう言われたところで不思議なことではなかった。
真斗「そうっすね、これも全ての修二先輩の熱血指導のお陰ですよ。今はなんとか仕事をやりこなしてる感じですけどね」
修二「はぁ、相変わらず真斗は人を立てるのが上手いな。それが出世した一番の理由だったりしてな」
こうした、たわいもない真斗と修二郎の会話は無人のトイレに響いていたのだった。