第二章
02
都内といっても、どちらかといえば少し渋谷や新宿などの派手ておしゃれというわけでもない閑静な住宅街。
彼の店は杉並区にあった。平日の朝の住宅街はスーツを着たサラリーマンや学生達が多く見られる。
真斗は芸能界で生きる自分とは違う次元で生きている人たちを見ながら比較的、ゆっくりと車を走らす。

真斗「でも、俺ってこの世界で働いてなかったら、サラリーマンにでもなってたのかな?それともニートのごろつきか?でも、どう考えても俺がこの厳しい世界で成功することはないだろうな」

真斗はスーツで着飾った人たちを見て、自分がもし一般社会で生きたらどうなるかと言うことをぼんやりと考えた。

今頃、マネージャーをしていなければ大学に進学していたはずだ。
真斗は自分でいうのもなんだが、周りに比べると成績も学年上位にいることが多かった。それに高校は中学の時に野球部に所属していたことから、強豪校ではなかったものの地元では名の知れた高校に部活推薦枠で入れてもらった。
真斗は言うなら、学年で1人はいる文武両道に長けた、優等生だったのかもしれない。

真斗「そう考えたら、俺って国公立狙えたのかもな。でも、俺は社会人になったら落ちこぼれになる東大なのにニートですってタイプだろうなぁ」

だが、真斗は実力がものを言うこの社会で優等生が成功することなど少ないことはよく分かっていた。
なぜなら優等生は挫折を知らないからだ。

優等生と言うレッテルを貼られた人間は勉強はできるが、苦労を知らない者が多い。勉強などやれば誰でも出来るようになる。
しかし、成績が良くなくても幼少期に苦労を重ねたり、人生の荒波に揉まれたことのある人間は将来に出世することが多いのだ。

真斗「でも、あん時はただ野球が上手くなりたいとか、成績でトップを狙ってたわけでもなくて、ゆりあにふさわしい人間になりたかったんだよな。
アイドルで活躍してるゆりあといつ結婚しても良いようにって感じでな」

真斗は自分でも自分の単純さを笑った。
好きな女に振り向いて貰うために、ただそれだけの為にあれだけ頑張るなんて。まるで飼い主にエサをねだる飼い犬のような行為ではないか。
真斗はそんな自分が哀れに思えた。

閑静な住宅街の坂の曲がり、角の小さな穴場のようなバー。
真斗はいつの間にか”あいつ”の店の前にいた。

真斗「うわっ、しまったな。ここの店駐車場なかったんだった。
まぁ、隣のコンビニでも止めとくか」

真斗は隣にあるコンビニに車を止めて店内に入る。

真斗「ういーす。久ぶりに来たぜ賢兄。元気にしてたか?」

?「おお、誰かと思えば国民的アイドルのマネージャーじゃねえか。
俺の店でロケでもしてくれんのか?」

真斗「いや、しねぇから。それに名前で呼んでくれよな」

この時真斗と話している相手の名前は中井賢太(なかいけんた)。

彼は真斗の3歳年上で、真斗が幼い頃から連んで遊んでいた幼馴染みのような間がらである。
歳は3歳も離れているが幼い頃から、ゆりあと真斗は彼のことを兄のように慕っていた。

賢太「あれ?こいつなんて名前だったんだっけか?」

真斗「いや、そこ忘れんなよな。さりげなく心にグサッとくるわ」

賢太「嘘だよ、嘘。弟同然の真斗の名前を忘れるわけないだろうが!」

賢太と真斗が再会するのはこれが四年ぶりのことになる。

真斗「賢兄〜!腹減ったしなんか作ってくれよ」

賢太「いきなり来といてなんだよ。
まぁ良いや、ちょっと待ってろ。適当に作ってやっからよ」

真斗は久しぶりの賢太との再会に心を踊らせながらカウンターで調理する賢太を見ていた。


■筆者メッセージ
今も日本シリーズを見ていますが3回で0ー0。
今日こそ勝てよヤクルト!

とにかく、どんな形でもいいから先制点を取ってほしいものです。
珠推しくん ( 2015/10/29(木) 19:07 )