08
ゆりあ「うわ〜、すっごく美味しそうなからあげ!じゃあおばちゃん、いただきます」
真斗の母「味は保証できないけどたくさん食べてね」
そんな真斗の母親の言葉には気にも止めず、ゆりあは手を合わせるなり夢中でからあげにかぶりついていた。
ゆりあにつられ、真斗も一つからあげをかじるが普段通り、不味くはないもののそんなに美味しいものでもなかった。
ゆりあ「うん、やっぱりからあげは揚げたてが一番美味しいや」
そんなに箸が進まない真斗の横でゆりあはパクパクとからあげを平らげていく。
やはりお惣菜と手作りではそんな差があるのだろうか。
真斗にはその違いがどうしてもわからない。
真斗の母「ほら、真斗。女の子のゆりあちゃんでもこんなにたくさん食べてるんだから。真斗ももっと食べなさいよ」
真斗「ああ、嫌いでもないけど相変わらず母さんのからあげはうまくないけどな…」
今日のからあげでも大半は綺麗に焼けているものだったが、その中にもちらほらと半焦げになったからあげも混ざっていた。
それに塩っ気もすこしだが、薄いところと濃いところがあって味にムラがあった。
ゆりあ「いや、真斗。せっかく…私しゃしのために作ってくれしゃ人に対してそひゃ…どうかと思うけど&#\@#…」
ゆりあは口に大量ほからあげを含みながら喋っているためあまり滑舌がはっきりしていなかったが言っていることははっきりと分かった。
真斗もそれを聞いて渋々からあげを口に運ぶ。
真斗の母「全く、全然美味しそうじゃないし。ゆりあちゃんみたいにたくさん食べてくれると嬉しいものよ。本当にこんな息子よりもゆりあちゃんみたいな娘が欲しかったわね」
真斗「いや、親がそれを言い始めたら終わりだろうが」
本当に息子に向かってこんな息子とは、親としてどうなのかと思う。
確かに最近になって真斗も親に少しずつではあるが昔よりは反抗しているような気もする。それでも少し酷い話だ。
ゆりあ「ふぅ、もうお腹いっぱいだよ。美味しくてもっと食べたいけど限界だわ…」
真斗がふと最近した親への反抗のことなどを考えいると、隣では早くもゆりあが苦しそうにお腹をさすっていた。
流石に、ここは男子と女子の違いだろう。あれだけ食欲があったとしても胃袋に入る量は真斗よりは確実にゆりあの方が小さかった。
真斗の母「もう、女の子なんだから無理したら駄目よ。お風呂入ってるし、もうその辺にしてお風呂に先に入ってきたら?」
ゆりあ「うーん、でもそうしたら、からあげはこれで食べられなくなっちゃうし…」
余程からあげに未練があるのか、ゆりあは先程からずっとからあげを名残おしそうに見つめている。
真斗の母「もう、こんなんでよければ幾らでも作ってあげるから安心して。よければ家にでも届けに行くよ」
ゆりあ「えっ、本当にしてくれるの?さすがおばちゃんだ、じゃあ指切りね」
ゆりあは急に目を輝かせて母親と指切りをすると、満足そうに風呂へ走っていった。
こんなものが美味しいならお惣菜のからあげばどれだけ美味いのだろう。
真斗は心の中でそう思った。
真斗「じゃあ、母さんごちそうさまでした」
真斗の母「いや、ちょっと待ちなさいよ。あんたはもっと食べなさい。あとからあげ4個!」
真斗「くそ、なんでこんな飯を食いまくらなきゃなんないんだ…」
風呂へルンルン気分で向かったゆりあとは対照的に真斗は重い箸で冷めたからあげを一人でつまんだのだった。