07
ゆりあ「あーあ、今日もママ帰ってこないのか…。でも、久しぶりにおばちゃんのご飯が食べれるし、ある意味楽しみかも」
真斗「おばちゃんって、そんなことおかんに言ったら俺、殺されるだろうな」
今から十数分前、ゆりあの母親からの電話は今日は仕事で家に帰れないという連絡だった。
ゆりあの母親からするとどうやら今日は真斗の家にゆりあが泊まれるようにお互いの親同士が話をつけていたらしい。
2人は並んで真斗の家を目指し、すっかり日が傾いた薄暗い道を歩く。
ゆりあ「おばちゃん、今日の晩御飯なに作ってくれるんだろう?」
真斗「さぁな?どんな料理でもそんなに美味くないような気もするけど」
正直に言ってしまうとこの言葉のように真斗は母親の作った料理をあまり美味いと思ったことがなかった。
昨日だって、味噌汁がしょっぱ過ぎで白米がなければ到底飲めないレベルであった。
味噌汁一つまともに作れないのだから決して真斗の母親は料理が得意とは言えないはずである。
ゆりあ「まぁ確かに美味しいかどうかは別にして、あの手作り感がいいんだよ。ウチなんかいつも冷めたお惣菜しかありつけないんだから」
真斗「えっ、毎日お惣菜ばっかりなのか?」
ゆりあ「そうだよ。いつも唐揚げかコロッケとかあと適当な袋に入ったサラダだけだし。真斗もママがどんだけ忙しいか知ってるてるでしょ?」
そう思えば、ゆりあの母親が家にいるところなどあまり見たことがなかった。
朝にゆりあを迎えに行く時でもいつも母親は既に仕事で家を空けていた。
そんな人が忙しさのあまりご飯が作れないというのはありがちな話なのかもしれない。
ゆりあ「やっぱり、手作りの料理は違うものなのよ。お惣菜にはない美味しさがあるし」
真斗「そうか、俺なら絶対にお惣菜の料理の方が美味しいと思うけどな」
ゆりあ「いや、それはあんたがいつもおばちゃんの手作り料理を食べてるからでしょ?そりゃ、真斗だって毎日お惣菜だったら絶対飽きると思うけど」
真斗「いや、でもそんなことないんじゃないかな?」
そう言いながも真斗はふと自分のことを振り返る。
果たして、自分の家の食卓にお惣菜が並ぶことなどあっただろうか。
確かに唐揚げやコロッケといった一品物はあったとしても、一食分全部がお惣菜だったことなど真斗は一回も経験していなかった。
そう考えれば、料理は下手くそだが真斗の母親は手を抜いたりすることはなかったのだ。
それは母親が真斗のことを思い貫いてきた信念のようなものがあるのかもしれない。
ゆりあ「さあ、やっと着いた!おばちゃ〜ん、お腹減ったよ!」
我が家に嬉しそうに入って行くゆりあを見ながら自分の親の偉大さに気付かされた真斗だった。