第一章
04
ほのかに匂う甘くもあり爽やかな香り。
どちらかというとムスク系ではなく石鹸やベビーパウダーのような落ち着く香りと言ったほうがいいのだろうか。
ゆりあの髪は今や真斗の鼻にくっついてしまっていた。
その匂いが真斗の心を温めていく。

真斗「ふぅ、完璧に夢の中に入ってるなこれは。
でも気持ち良さそうだしもう少し寝かせておくか」

ゆりあ「うーん、久し…ぶりの、ぷぁふぇ…幸せ」

そして、寝言を言っているゆりあを気にしつつ、真斗はゆりあが起きないようにコーラに手を出した。
口の中では炭酸の気泡が爽やかに広がっていく感触がする。

その時ふと真斗は、昔によくゆりあと2人で近所の公園の自動販売機でビン入りコーラを飲んでいた頃のことを思い出した。

あれは小学校に上がったばかりの頃だった。
幼稚園の頃はゆりあに対する感情が分からない時期もあった。
でも、小学校低学年位の真斗は幼いながらも自分がゆりあが好きだという恋心に気付いていた。
だから、真斗とゆりあの家は離れていたものの、真斗は毎朝ゆりあを迎えに行ってから2人で学校に登校。
下校時刻になるとゆりあと一緒に下校し、必ずと言っていい程ゆりあの家の近くの公園で遊んでいた。

実はそのときの木崎家は父親が単身赴任で大阪に居て、母親もパートで遅くまで帰らない日が多かったのだ。
そんな日は必ず自分の家からお菓子を持って行って、公園でコーラを買い2人で遊びながらゆりあの母親が帰って来るのを待っていたものだ。

今考えてみるとこの頃だろうか。
ゆりあはその公園のジャングルジムの上でよく夕陽を眺めながら、
『私は絶対に有名なキラキラのアイドルになるの!』
と、熱く語っていた様な気がする。
確かあの時は真斗も、
『じゃあ、もしゆりあがアイドルになったら俺はゆりあをもっと輝かせて支えてやるよ!』
なんて返事をしていたことがあった。

それからおよそ十年後、ゆりあは本当にアイドルになる夢を叶え、真斗は本当にゆりあを支えてマネージャー界で生きている。
小学生の頃の自分達は、夢を叶えたあとの自分達の姿など想像もできなかっだろう。
何せ、当時は小学生の戯言でしかなかったのだから。

真斗「はぁ、あれからもうそんなに経ったのかな…」

真斗は時の流れの速さに思わずため息をつく。
そしてそれと同時に、真斗の頭には昔の思い出が次々とよぎっていく。

そして、真斗はふと目を閉じて、過去の思い出を振り返ろうとしていた。


■筆者メッセージ
次話からは真斗とゆりあの過去についての物語になります。

珠推しくん ( 2015/10/09(金) 00:30 )