第一章
13
ゆりあ「真斗ぉ〜、起きろ地震だぁー!」

真斗はゆりあの声の大きさに思わず身体をビクつかせて飛び起きる。

真斗が寝ぼけまなこな目を擦り、身体を起こすと、そこはさっきまでいたカラオケボックスのソファーだった。真斗は幼少期の夢から現実の世界へと戻ってきたのだ。
しかし、さっきと明らかに違うのはゆりあは真斗の隣ではなく向かい側の席でお菓子をつまんで食べていた。
真斗はふと腕時計を見るが時刻は0時を回り、もう1時に差し掛かろうとしているところだった。

真斗「ふぁーあ、お前さっきまで俺が歌ってた横で寝てたんじゃなかったのかよ?」

ゆりあ「確かにさっきまでは寝てたけど、真斗がいきなり私の膝に倒れてきたから飛び起きたのよ。それに頭の刈り上げてる後頭部を脚にすりすりするから毛が刺さって痛かったんだから」

まさか、幼少期の夢の世界にいる間に現実世界ではゆりあの脚の上で寝ていたとは。
真斗は考えただけで頭に体内の血液が登っていくのが分かった。

真斗「あっ、そりゃ悪かったよ…。それよりも頭以外は大丈夫か?俺って…結構寝相悪いからさ」

ここでゆりあの脚を枕に寝られたことが嬉しい真斗だったが唯一、寝相だけが心配の種であった。
真斗は自分で言っているように相当、寝相が悪かったのだ。

普通に寝ているだけなら大丈夫だろうがもし万が一、ゆりあのショートパンツに手を掛けたり、胸を触ってしまったりしていれば大惨事である。
真斗は良からぬことが起きていないように願いながら恐る恐るゆりあに確かめる。

ゆりあ「ああ、それなら問題なかったよ。寝相が悪いのは昔から知ってたし、早めに真斗をソファーに寝かせてゆりあは避難したから」

真斗「ふん、そうか。まぁそれが一番正解だろうな」

真斗はゆりあの脚でずっと寝ていられなかった事を少し悔やみながら、ひとまずなにも起こらなかったことを喜んだ。

ゆりあ「”ただ”ね、私が退いた後は、ソファーにヨダレ垂らして口開けて寝てたけど。それに極めつきは、『キスしたーい!』とか『愛されてーよ!』みたいなわけわかんないこと言ったぐらいだね」

真斗「う、嘘だろ?俺ってそんなこと言ってたのか?」

ゆりあ「いや、本当だからね、真斗に嘘なんかついてどうするのよ。どんな女の夢を見てたかは知らないけど?」

真斗は安心したのも束の間、一気に頭に集まった体内の血液が退いていくのがわかった。

なんと言っても、真斗がキスしたいとか愛されたいと言っていた相手は他の誰でもないゆりあなのだから。
恐らくゆりあの反応上、それが自分のことだとは気付いていないようだが危機一髪で助かったようなものだ。一歩間違えば大惨事は免れない。

人の潜在意識の中は到底自分ではコントロールすることができない。
それは夢でも寝言でも同様であるといえるだろう。
人は誰しも他人や表向きの自らに嘘をつくことが出来たとしても、本来の自分には嘘を貫き通すことができない。
だからこそ、酒で失敗する人間や口が滑って失敗する人間が実在するのだ。

真斗はそれを改めて痛感したのだった。


■筆者メッセージ
話は少し切りが悪いですがここで第一章は終了となります。

今章では真斗君とゆりあちゃんだけでしたが次章からは新キャラも登場しますのでお楽しみに。
珠推しくん ( 2015/10/27(火) 00:30 )