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真斗の母「ゆりあちゃんどう?この桃はね、山梨のおじいちゃんが送ってくれたものなの。お口に合うかしらね」
ゆりあ「うん、甘くて最高だね!真斗が上がってくる前に食べれるだけ食べょっと」
真斗の母「そうね。今なら、あの子の分も食べれるわね」
真斗がリビングへ向かう廊下を歩いていると、ふとリビングからそんなゆりあと真斗の母親の声が聞こえた。
真斗「くそっ、あの2人とも俺を呼ばないで2人で食べ切る気だな。それに全部丸聞こえだしよ」
真斗はリビングの2人にも聞こえるようにあえて、足音を大きく立てて、ドアも勢いよく開けた。
すると、ゆりあと真斗の母親が丁度、桃を口の中に押し込んでいる最中だった。
真斗「さっきから2人の会話はずーっと丸聞こえだけどな」
ゆりあ「うーふとね。こふぇは、悪気があったわけじゃなくて@#&#〆」
真斗の母「そうね、私だってそんな意地悪しひょうとしてたわけじゃないし#@&〆」
ゆりあと真斗の母親は必死に言い訳をしようとしているが、どちらも桃を口に詰め込み過ぎていて言葉はあやふやだった。
こんな状態の2人から悪気が無かったなどと言い訳されても、それが嘘なことぐらい小2の真斗でも分かった。
真斗「はーん、俺を差し置いて2人で完食しようとしてたわけだな」
普段は温厚な真斗の表情が一瞬だけ曇った。
ゆりあ「も〜、本当に悪気は無かったんだって、ただいっぱい食べたかっただけでさ。
はい。これでおあいこね、あーん」
すると次の瞬間、ゆりあは爪楊枝に刺された桃を真斗に食べさせた。
簡単にいわば、【あーん】をしたのである。
一度は不機嫌になった真斗の顔も、さっきにゆりあにされた行為がどうゆうものかということを理解した瞬間、一気に茹でダコのように赤らむ。
それもそのはずだろう。自分の意中の相手からこんな事をされれば世の男は誰でも骨抜きにされてもおかしくはない。
真斗「あっ…ありがとな。俺に構わずもっと食っていいからな」
ゆりあ「真斗、急にどうしたの?なんか変だけどさ。
まぁいいや、それじゃいただきます!」
真斗は顔を真っ赤にして、急に態度を真逆に変えたのだ。ゆりあからしてみたら、おかしく見えてもおかしくはないだろう。
そんな真斗をよそに、リビングの片隅では真斗の母親が腹を抱え、声を押し殺しながら笑っていた。
真斗「ふぁーあ、俺眠くなってきちまったし、寝るわ」
さすがの真斗でもこれはまずいと思ったのだろう。
真斗はそのシチュエーションに耐えらず、適当な作りあくびをして寝室へと向かった。
その後真斗は、ゆりあと2人で寝ることなど忘れ、1人で布団にうずくまって目を閉じたのだった。
一方でリビングでは、真斗の突然の異変を不思議に思うゆりあと、真斗の本当の気持ちを知っていて笑いを堪える真斗の母親が桃を頬張っていた。