27話
屋上に僕は1人でフェンスにもたれ、腰を掛けている。今日は雲一つない晴天だ。下からは部活に励む生徒たちの声が聞こえてくる。昼休みは騒がしい屋上も、放課後の今は僕以外の人影はない。
あれから数日が経った今も白石先輩が去り際に残した言葉が頭から離れない。彼女は成瀬と飛鳥の何を知っているのだろうか。もう1度会って、直接話を聞こうと考えた。だが、学校では話しかけることは難しかった。
休み時間は彼女の周りにはほとんどと言って良いほど、ファンクラブの奴らに囲まれ、1人でいることはほとんどない。また、ファンクラブの奴らから体育祭の一件以降敵対心を向けられている。だからこそ、彼女に学校で容易に近づくことができなかった。
ここ数日、毎日のように神社の横のあの場所へ足を運んではいるが、彼女があの場所にやってくることはなかった。
一体成瀬にはどんな秘密があるのだろう。なぜ関わらないほうがよいのだろうか。だが、現在成瀬と飛鳥の間で何か問題が発生しているのは確かだろう。だがどのような問題が起きているか推測するのは僕には不可能だった。
僕はこの先どうするのが正解なのだろうかと考えていると、屋上の扉が開く音がした。扉の方角に目をやると、小坂が立っていた。
「海崎先輩、こんな時間になんで屋上にいるんですか?」
小坂は僕がいる方へ歩みを進めながら尋ねてきた。
「少し考え事がしたくて、小坂はなんでここに?」
「図書室にいたら、窓から海崎先輩が屋上にいるのが見えて来ちゃいました」
「そうなんだ」
小坂は僕の隣に腰を下ろす。
「だめ、でしたか…?」
悲しそうな表情をする小坂。そんな彼女を見て、だめだったなんて言えるはずもなかった。
「いや、そんなことないよ」
「そうですか、よかった…」
先程の表情とは打って変わって明るい表情に彼女は変化した。少しの沈黙が発生する。
「あの…先輩なにかありましたか」
「ううん、なんで?」
「いつもの先輩よりも元気がない気がしたので」
「そっか、心配してくれてありがとうな」
「いえ…」
小坂の右手が僕の左手を包む。
「小坂!?」
僕は突然のことに驚いた。
「小坂どうしたの?」
僕が小坂の方を見ると、彼女は僕と目を合わせようとせず、俯いていた。だが彼女の顔が真っ赤に染まっているのは分かった。
「やっぱり海崎先輩が元気ないような気がして。少しでも元気になって欲しくて…」
「それで手を?」
小坂は小さく頷く。恥ずかしそうにしながらも、僕の手を強く握りしめてくれていた。
彼女が勇気を出してこんな僕のことを元気づけようとしてくれていることを嬉しく感じ、それとともに彼女のことが愛おしく感じた。
「小坂・・・」
今思えばこれが引き金になったのかもしれない。僕は彼女の目を見つめ、彼女もそれに答えるように僕の目を見つめる。僕は彼女の肩に手をかけ、彼女は目を閉じる。夕陽が沈みかけ、空は真っ赤に染まる屋上で、僕は小坂と口づけをかわした。このとき、僕は成瀬のこと、飛鳥のこと、悩んでたことすべてを忘れ、ただ幸せの中にいた