4話
本日最後の授業である六限目の授業は睡魔に負けてしまい爆睡してしまった。目を覚ますと授業は終わっており、教室には齋藤と二人だけになっていた。隣の席の齋藤を見ると帰る支度をしていた。
無言のまま時間が過ぎ、齋藤は帰宅するため席を立った。齋藤と気まずい関係を明日以降も続けたくなかったので、呼び止めた。
「あのさ、齋藤。ちょっといい?」
すると五限目と同様に鋭い目を向けてきた。しかし、ここで怖気づいては先ほど同じ結果になってしまうので、話を続けた。
「おれ齋藤になんかしたかな?自分では心当たりがなくて。理由も分からず、明日以降も無視され続けるのは、ちょっときついから、理由教えてくれないかな?」
齋藤は小さくため息をついた。
「…う…」
齋藤の声はあまりに小さく聞き取れなかった。
「ごめん。もう1回言ってもらってもいい?」
「湊のバカ野郎!」
「え!?」
「なんで私のこと、齋藤って呼ぶの?昔は飛鳥って呼んでくれたのに」
齋藤の答えに一瞬思考が停止した。
「そんなことで怒ってたの?高校は入ってすぐくらいからもう一年くらいずっとそうやって呼んでたけど、べつになんも言わなかったじゃん」
「最初から嫌だったけど、もう我慢できなくなった。なんで齋藤て呼ぶの?」
「もう高校生だし、女子の名前で呼ぶの恥ずかしいし、それに成瀬君にも悪いし…」
「あっそ。私は湊が私のこと飛鳥って呼んでくれないと無視し続けるから」
「なんでそんなことに拘るんだよ。てかこの前、池と話してなかったか、男に下の名前で呼ばれるの嫌だって」
「湊はべつにいいの」
「なんでだよ」
「湊は大事な幼馴染だから…」
齋藤は恥ずかしそうに顔を少し赤くしながら俯いていた。齋藤の言葉は素直に嬉しかった。
「わかったよ。これからはちゃんと名前で呼ぶよ…」
「今呼んでみてよ」
「なんでだよ、嫌だよ、恥ずかしい」
「あっそ、じゃあいいよもうこれからずっと無視するから」
頬を膨らませ怒る齋藤。これは今名前で呼ぶしか許してもらえる道はないのだろう。大きく一度深呼吸をしてから名前を呼んだ。
「飛鳥」
飛鳥は名前を呼ぶと笑顔になり、嬉しそうにしているように見えた。
「もう一回!」
「なんでたよ」
「いいじゃんもう一回!」
「飛鳥」
飛鳥は嬉しそうにしている。
「やっぱり湊からは飛鳥って呼んでもらうほうが良いね」
飛鳥はとびっきり笑顔でこちらを見てきた。その笑顔に見とれてしまう自分がいた。
「あっ!もうこんな時間。響を待たせてるんだった。じゃあね湊!」
そう言って齋藤は、手を振りながらご機嫌な様子で教室を出ていった。自分の椅子に座り窓の方を向きながら、机に突っ伏した。
「あの笑顔はずるいよ。あいつのこと諦めれなくなるじゃねぇーか」
小さな声でつぶやいた。
この物語は、完璧男子を彼氏を持つ幼馴染、齋藤 飛鳥に恋する海崎 湊の物語である。