Chapter1-Inevitably-
01
「はぁ…はぁ…」


落とし物をしたその人を追いかけ3号館までやってきた
意外に足並みは早く上り坂だったこともあって少し息が上がっていた


「すいません!!!」


自分でも少しびっくりするくらいの声量が出た
たぶん周りの人もびっくりしたんだろう、何人かの人がこっちを見た
そしてそんな中、その人もこっちを見た


「え、私?」


腰上まで伸びた長い黒髪と薄い水色のフレアスカートが振り向いたときにふわっとなびく
振り向いた彼女は、驚くほど色白で吸い込まれそうなほどの大きな瞳をしていた


「これ…落としましたよ」


思わず声が上ずりそうになる
彼女のフレアスカートと同色のハンカチを渡す手が震える


「わざわざありがとう!」


彼女はハンカチを受け取るとクルリと向きを変えた
そしてさっきみたいにすたすたと歩いていく
自分はそんな姿を呆然と見守っていた


「あっ!」


少し行ったところで彼女は声をあげた
そして振り向いて…


「名前!」


「えっ!?」


名前?自分の名前?


「キミの名前、なんていうの?」


「…早瀬翔」


そう返すと彼女はニカッと笑った
よいしょっと言いながらトートバッグを肩にかけなおす


「私、白石。白石麻衣」


白石、ホワイトストーン
なぜか英語に変換してしまったけどそれが彼女の名前らしい


「キミ、優しいね。このハンカチ大事なものなんだ。ありがとう」


じゃあ落とすなよ!と心でツッコミを入れたのはここだけの話
そんな勝手な心を知ってか知らずか、白石さんはふるふると手を振って講義室の方へ歩いて行った


くるっと周りを見回してみる
さっきまで歩いていた人影はまばら、授業開始が近いことを暗示していた


「白石…麻衣…」


彼女の名前を反すうしてみる
3号館で授業を受けるってことは経済学部か…


「やべっ!」


どこからともなく部屋の扉を閉める音が聞こえた
右手にはめる腕時計を確認すると開始時刻が過ぎていた

白石さんのハンカチにペースを乱されながら今日も1日が始まる
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master ( 2016/01/17(日) 16:25 )