乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト


















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G Jealousyを眠らせて
五十曲目 〜新婚さんいらっしゃい〜
 乃木坂の名前が売れ、乃木坂の歌がテレビやレディオから流れる事は大変嬉しい事であった。画面からはメンバーの笑顔が溢れ、スピーカーからは彼女たちの声が心地よく響く。だが一人だけ、晃汰はなんとも言えない虚しさや歯痒さで腑が煮え繰り返りそうになっていた。

 それは作曲者である小室哲哉の名前を過剰に煽るマスメディア、そして他でもないメンバー達に向けられた物だった。果たして自分が作った楽曲が、過去にこれほどまでの脚光を浴びたか、メンバー達が作曲者の名前を意識してまでブログを書き、インタビューに答えただろうか。晃汰はそんな現象に人知れず、嫉妬(Jealousy)を胸に抱いていた。


「そんなこんなで、私の所に転がり込んで来た訳ね?」

 エプロン姿がサマになっている衛藤…源田夫人がシンクに向かうなか、晃汰は面識のある源田家のワンコ達と戯れる。

「違うでしょ?悩み相談したら呼び出したの貴方よ?」

 ソファに座る晃汰は顔だけをキッチンの衛t…源田夫人に向けるも、その左頬や首筋をワンコ達が激しく舐め回す。

「けっこう美彩って、そう言う所あるからなぁ」

 一人がけのソファに座るライオンズの正遊撃手・源田壮亮がもう一匹のワンコを膝の上に乗せながら、晃汰と美彩の後ろ姿を見比べる。月曜日の今日は試合がなく、所沢で軽く汗を流した彼は、妻の元同僚を歓迎する為に早めに帰って来た。

「やっぱりそうですか?なんか元同僚として、すいませんでした」

 ウケを狙って意味もなく晃汰は壮亮に頭を下げたが、それが予想よりも壮亮にはウケたみたいで、彼は腹を抱えて笑った。

 久しぶりの夫のオフに元同僚が来ていると言うこともあり、美彩はいつも以上に豪勢な食事をテーブルに並べた。野球選手の妻として、仕事がない日は常に二桁近い品目の料理を出す。そしてそれは全てにおいて低糖質高カロリー、高タンパクのものである。

「ちゃんとプロ野球選手の奥さんできてるみたいで、ひと安心です」

 初めて美彩の手料理を口に運び、料理上手の前評判以上に美味しかった為、晃汰は上手いことも言えなかった。

「でしょ?これでもちゃんと勉強してるんだから」

 そう言って美彩は付箋と折り目だらけの料理本を、何冊も出した。芸能人をしながらプロ野球選手の妻というのは壮絶な苦労がある、晃汰はいま目の前でそれを痛感させられた。

「本当に、美彩の作るご飯は美味しいよ」

 既に口いっぱいに料理を頬張った壮亮は、子どものような笑顔を向ける。それに美彩は照れて頬を赤くする。

「何を見せられてるんだワシは」

 そう言って晃汰は徐に、グラスに注がれた缶ビールをグイッと飲み干す。

 二人が付き合い始めてから、晃汰は壮亮と知り合った。初めの何回かは美彩を交えての会食だったが、回も重ねるにつれ壮亮が晃汰に直接連絡を取るようになった。大の阪神ファンである晃汰は当初、誘って来てくれる壮亮に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、それも時間が解決した。今ではゲームの後に呼ばれた席で、戦評を長々と語る晃汰の横顔が壮亮の普通となっていた。

「そりゃあ、ヘソ曲げちゃうよね」

 晃汰の供述を聞いた壮亮は、苦い笑顔を浮かべながら赤ワインを飲み干す。後から来た者に追い越されるような感覚は、世界が違えど壮亮にも似たような過去があった。

「なんか今までの自分って、なんだったんだろうな?って…ここまで彼女達に尽くしてきたつもりなのに、コレは無いなと」

 同じようにグラスを傾ける晃汰の口元は緩んでいるが、眼の奥は笑っていなかった。その様子を美彩は女のカンで察した。

「けどさ、小室さんがこの先ずっと曲作るわけじゃないんでしょ?元はと言えば晃汰が怪我するからこう言う事になってるんだし」

 珍しく酒よりも話を進める美彩が、机に頬杖をついた姿勢で晃汰の眼を見る。軽く痛いところを突かれてしまうと彼は、視線を逸らして曖昧な返事をした。

「でも、それにしたって晃汰にしたら面白くないよな」

 割って入った壮亮が晃汰に助け舟を出す。

「そうですよ、面白く無いですよ」

 顔が性格を表すとはこの事だわ。晃汰は弱肉強食のプロ野球界で食われてしまうのではと、心配になるくらい優しい顔の壮亮に感謝をした。


「お邪魔しました」

 八時を目安に、晃汰は頃合いを見計らって席を立った。残っているワインと話し足りない思い出話をエサに二人はギタリストを留めようとするが、晃汰はどうしても新婚さんの家に長居する事に気が引けた。

「今度は試合に招待するから」

 社交辞令のような壮亮のセリフだったが、誠実な彼はその言葉の次の日には必ず、ホーム試合での特等席を用意してメッセージを晃汰に入れている。それは一度や二度だけではない。こう言う所に美彩は惹かれたんだな、晃汰は決まって楽しい酒の席を思い出しながら、彼女が"源田"になったのは必然なのだとその度に感じていた。

■筆者メッセージ
やっぱりまいやん派が圧倒的に多いですね。結構天邪鬼なので、全然違うメンバーとくっつけちゃったり、もりぽとこのまま…?笑
Zodiac ( 2020/12/01(火) 18:24 )