D 新居
三十曲目 〜ロリ巨乳〜
 新調したフライパンをリズミカルに振ると赤緑のピーマンに豚肉、そしてタケノコが踊るように宙を舞う。今夜のメニューは青椒肉絲だと、晃汰はスーパーに入る前から決めていた。前の晩にYouTubeで青椒肉絲の調理風景を見てしまった為、もうその気でしかいられなくなってしまい、調味料などの糖質を制限してもある程度のクオリティにまで辿り着ける事が、晃汰を更に喜ばせた。現在、彼は更なる筋肉の増強と絞り込みの為、糖質を抑えた食事を心がけている。低糖質高タンパク質を目標に、昼は自作の茹で卵と鶏むね肉のハムを持参してくるほどの徹底ぶりで、体型維持と隣り合わせのメンバーでさえも彼の取り組みに若干引き気味である。

 そんな筋肉野郎が新居のキッチンで料理をしていると、ドアが開いて靴を脱ぐ音が玄関から聞こえてきた。基本的に在宅中はカギを閉めない晃汰の部屋に、メンバーが入ってくることなどザラにある。マンション内に部外者が入れないセキュリティと構造を誇る建物を完璧に信用した晃汰だから、成せる技だった。

「今日のご飯は何ですかぁ?」
 
 おっとりしたと言うべきか、アホっぽいと言うべきか迷うような声で、与田がリビングへと入ってきた。仕事を終えてそのまま来たらしく、手にはブランド物のバッグと差し入れで貰ったと思われる洋菓子の袋が提げられている。

「青椒肉絲だが、どれだけ居座ろうと貴様にはやらんぞ」

 何度か自分の食卓を邪魔されて以来、晃汰は食事時に訪れるメンバーの襲来を恐れている。在宅否かに限らず戸締りをすれば済む話だが、何処か晃汰はメンバーの侵入を楽しみにしている部分もあった。そんな事も手伝って、三・四期生は事ある毎に晃汰の部屋へと入り浸っている。

「いただきま〜す」

 満面の笑みで両手を合わせる与田の姿と、その反対側で疲れ切った表情をする晃汰。結局あれから与田と夕食をともにする事となったのだが、調理を手伝うと彼女が言って聞かなかった為に晃汰はアシストを頼んだが、失敗だった。元来、ドが付くほど天然な与田はその才能を見事に発揮した。調味料をこぼしたり卵を床に落としたりと、これでもかとドジを連発し、とうとう見かねた晃汰は、先生が園児をあやす様に5歳児をソファに落ち着けると、キッチンへと走りリカバリーを急いだ。

「これ、祐希が作ったサラダ!」

 作ったとは名ばかりで、カット野菜を皿に盛ってドレッシングを和えた簡単な物である。そんな単純なものだがこれを食べたいと言う人間は数知れず、晃汰は年下同僚の手料理を味わう。彼が進んで口にするのが嬉しかったらしく、与田はニッコリと笑顔になって食事を進める。

「よく食べんのな。そりゃそれだけ、出るとこ出るようになるわな」

 目まぐるしく箸を移動させ食事にありつくサマは、ガツガツという擬態語がとても似合う。2nd写真集でも惜し気もなく披露された身体を例にとり、晃汰は与田の食欲に圧倒された。

「色気はあるとよ」

 口周りを汚したロリ巨乳は、行儀悪く口に物を入れたままモゴモゴと喋る。申し訳程度に手で隠しているところが、彼女なりの配慮ではあった。はいはい、とやり過ごして晃汰は箸を置いた。

「もう食べないと?」

 食器を持ってキッチンに向かう晃汰の背中に、与田は問うた。

「これ以上食べちまうとカロリーオーバーなんだ。与田の為に多めに作ったから、後は全部お食べ」

 晃汰は食器を持ったまま彼女の方に振り返った。口元に食べカスをつけて上目遣いで見上げる与田は、5歳児という表現がピッタリだと彼は感じた。

 吸引力の変わらないただ一人のロリ巨乳が全て平らげると、待っていましたとばかりに空いた食器を流しに置いて晃汰は洗い物を始める。二人分だが大皿が殆どだった為、フライパンなどの調理器具を含めてもさほど時間は要さなかった。

「えっと、5歳児の保護者は、と…」

 食器洗いを終えてリビングに戻ってくると、やはり口周りにソースを付けたままの与田が、幸せそうな顔をして床で寝ていた。晃汰としてはそのままでも問題はなかったのだが、彼女が目を覚ました時にもしもの事があった時を考え、与田と仲の良いメンバーに返送させようと目論む。とは言え、一人一人にメッセージを送っても時間の無駄な為に、例によって寮住まいのLINEグループにメッセージを投げた。

『与田の帰宅を完遂させた者には金一封を贈呈します』

 LINEの効果はバツグンだった。既読数が一気に増えたかと思えば、外の廊下を駆けてくる足音が聞こえ始めた。

「山下、参上です!」

 戦隊ヒーローかとツッコミを入れたくなる様なポーズをキメて、セーラームーンが晃汰の部屋に駆けつけた。そのままの勢いで、他人の家で寝腐るコイツを、月に代わってお仕置きしてほしいものだと晃汰は頭の中だけで考えた。

「早くコイツを持って帰ってくれ。後は煮るなり焼くなり好きにして良いよ」

 めんどくささがこもった掌を弾く様なジェスチャーで晃汰は訴えると、今度は軍人かとツッコミたくなる様な敬礼を山下は披露し、そのまま背中にロリ巨乳を背負い、両手には与田が持ってきた荷物を持って部屋を出て行った。

 ようやく静かになった自室で、晃汰はソファに腰を下ろしてオットマンに足を投げ出す。実家にいる時から一人でいる時間が長かったから、いざ独り暮らしになっても孤独を感じることはなかった。だが先ほどの与田の件もそうだが、誰かと食事を共にすることは嫌いではなかった。事実、自分で作る料理もメンバーと食べると、より美味しく彼には感じられた。そんな晃汰ではあったが、今は孤独を満喫しようと冷蔵庫に向かった。パーティの時に残ったグレープスミノフが冷えており、グラスも同時に持ってリビングへと戻って楽しむ。鼻に抜けるぶどうの香りがなんとも言えず、初めて飲んで以降すっかり晃汰は気に入ってしまったのだ。

 やがてビンも空になり夜も深まると、晃汰はバスルームへと向かった。髭は数日前に剃ったばかりだから髪、顔、身体の順に洗う。男のバスタイムなど、女子の半分以下である。ドライヤーで髪をガサツに乾かした後、簡易なスキンケアを施してリビングへと戻った。すると、ゆるい半袖に短パンといった出で立ちで、化粧まで落とした与田がソファにちょこんと正座をして待ち構えていた。

「お前さんの帰る場所はここじゃないぞ」

 一瞬だけ与田と眼を合わせたが、晃汰はすぐに逸らしてキッチンへと消えた。ロリっ気全開の彼女が薄手の部屋着で正座をするものだから、晃汰は不覚にも照れてしまったのだ。

「ご飯一緒に食べたから、今日は一緒におりたいけん」

 俯いてモジモジと話す与田の頬は真っ赤だった。それだけの羞恥心を乗り越えて言ってきてるものだから、晃汰も追い返すに追い返せなくなってしまった。

「悪いけど、同じ部屋では寝ないからな。俺の部屋で、内側から鍵かけて寝なさい」

 与田の意志を汲み取るが、やはり線引きを晃汰はきちんとしたかった。幸い、自身の寝室には貴重品保管の名目で鍵がついている。キーを与田に渡すと、背中を押す様にして彼女を寝室に押し込んだ。

 翌朝、ソファで朝を迎えた晃汰はカーテン全開の窓から差し込んでくる日差しで眼を覚ます。無理な体勢のまま寝た為に、身体の至る所が固まってしまった。痛みで眉間にシワを寄せながら眼を開けると、上下反対の与田の顔面が晃汰の眼に入った。

「おはようございます」

 満面の笑みで晃汰を見下ろす依田は、昨夜のすっぴんのままだ。引っ越してまだ一週間も過ぎていないというのに、晃汰は既に次の物件を選びたくなってしまった。

「おはよう、ロリ巨乳さま」

Zodiac ( 2020/07/20(月) 18:15 )