B 黄昏
十四曲目 〜Virgin Beat〜
 高級旅館には似つかわしくない水音が、客室のひとつに溢れる。時々に甘美な吐息が混じり、荒い二つの呼吸が交錯する。

「本当は、メンバーを食べてたんじゃないの?」

 髪と呼吸を乱した白石は、唾液でベットリと汚れた唇を動かした。

「それは、君がよく知ってるんじゃないのかな」

 晃汰は勝気な眼を白石に向けた。答えがNOな事ぐらい、聞いた本人が一番わかっていた。メンバーとの浮いた話が一切ないそのエセギタリストに、白石は自分の全てを彼に預けた。

 不思議な事に記憶を一部分だけ無くしていると言うのに、晃汰は女性を悦ばせる術を失ってはいなかった。いつ誰とまでは闇の中に葬られているが、まだオトコとして存在価値がある事に晃汰はひとまずの安心をした。
 それは白石にも同じような事が言えた。乃木坂に加入してから今において、男とベッドに入ったことなどなかった。乃木坂の象徴として白石は、純潔を必死に守り通した。そんな彼女でも、家に戻れば一人の女性である。ドラマのキスシーンを見て唇が寂しくなったり、ベッドシーンを眺めては人肌を恋しがった。それでも寄ってくる虫を徹底的に排除した。全ては乃木坂の為に。

「自分自身のルールを決めて、そのルールを破るのが自分だなんて、皮肉だよね」

 永いキスを終えて抱き合うなか、白石は自嘲した。9年間守り通してきたものを自身で壊そうという罪悪感にも似た感情が、彼女をそういった心境へと誘った。

「今ならまだ引き返せるよ」

 晃汰は密着させていた身体を引き離した。

「イヤ。他の人に抱かれるなら、“乃木坂として”あなたに抱かれたい」

 再び白石は、目の前の歳下に抱きついた。普段からすれ違いざまに香った匂いが、今は自分の鼻先にある。そして呼吸を身体全身で感じる。乃木坂のエースを抱いているという優越感と、メンバーを初めて女として扱ってしまった罪悪感を抱えて晃汰はゆっくりと眼を閉じた。

 白石の身体は、写真集で惜し気もなく披露されたソレ以上だった。手に取った殆どの人間がその触り心地を想像し、一枚の布のその先を思い描いただろう。それがいま、自分の目の前にある。一糸纏わぬ産まれたままの姿で、白石は恍惚の表情を浮かべる。

「乃木坂に入って初めて、裸見られちゃった」

 恥ずかしそうに話す白石だったが、頬を赤くしたり顔を隠したりする事はなかった。むしろ、もっと自分を見てくれと言わんばかりに、自分を見下ろす晃汰の目を真っ直ぐに見つめた。

「最初で最後だね」

 晃汰は優しく白石の首にキスをした。9年のブランクを感じさせない甘美な声が彼女から溢れ、微かに身体が震える。その反応に味をしめた晃汰は、さらに胸への攻撃を加えた。マシュマロのように弾力のある白石の胸は、大きすぎず小さすぎずの絶妙なサイズ感だった。

「大きくなったと思わない?」

 執拗に胸を責めてくる晃汰に、白石は問うた。

「いや、前のサイズ知らないし」

 実は一冊目の写真集で重量は把握できていたが、そこは敢えて晃汰は嘘を貫いた。その事がバレぬよう、立派に天を向いた乳首に吸い付いた。先ほどよりも大きなリアクションで、白石は応えた。10年近く感じることのなかった快感に、白石は浸った。

 上半身の快感にこれ以上耐えられないと判断した白石は、強引に晃汰の右手を自身の股へと持っていった。既にそこはショーツの色を変えるほど濡れており、晃汰の指を、そしてその先を待ちわびている。

「痛かったら言ってね」

 まるで初めての時のように、晃汰は白石に言葉をかけた。そんな丁寧な言動に強がった彼女だったが、本音は相当に嬉しかった。かなりの久しぶりで多少の緊張があり、きちんと女になれるか不安だった。しかしその不安も、晃汰の繊細な気遣いと指遣いでいとも簡単に払拭させられた。白石は今夜、乃木坂に入って初めて“女性“になれるのだと胸を膨らませた。
 
 自分以外の指が入ってくる感覚に、それだけで白石は背筋に電気が走るようだった。それも同僚の年下で、彼女がこの世の男性で最も好意を寄せる人物のものだった。男にしては長い指がある所まで挿入されると、晃汰はクイっと曲げた。

「んっ!」

 それまでの上半身への責めとは違う声が、白石から溢れ出た。それが痛みからではないことを彼女の表情から汲み取り、晃汰はゆっくりと指を曲げては伸ばした。

「どこでそんなテクニック習ったの」

 既に余裕がない白石は、息も絶え絶えだった。けれども晃汰は白石のその先が見たくなった。中指を引き抜くと、白石にその隣の薬指を舐めさせた。まるで恋人のソレを舐めるかなように、白石は妖艶な上目遣いで頬をすぼめた。

「もっと喘いでいいぜ」

 耳元で囁きながら、晃汰は再び白石のナカへ二本の指を挿入した。先ほどよりも広がった肉壁は、簡単に指を受け入れた。自身の指を包み込む肉の圧迫感に、止めどなく溢れる愛液とが混ざり合い、晃汰のモノは限界に達しようとしていた。だがそれよりも、まずは白石を絶頂に導いてやりたかった。自分という存在を彼女に刻み付け、この夜が忘れられない一夜になってほしいという普段の晃汰からは想像がつかないほど、わがままな感情だった。

 白石は晃汰の二本の指によって、何回も頭の中が真っ白になった。予め敷いた茶色のバスタオルを黒くなるほど濡らし、上下フロアの他客に聞かれてしまうのではないかと言うぐらいの嬌声を発した白石は、肩で息をしながら余韻に浸った。

「なぁ麻衣ちゃん、もう我慢できない」

 日本を代表するアイドルがあられもない姿で嬌声をあげる。しかも、それが自分によるものであれば尚のこと、膨れ上がる合体欲が収まるはずがない。しかしそこで晃汰は平常心に戻った。そう、望まない事態を避ける為の隔たりが無いことを。
 当初晃汰はこの旅行で、白石を抱く気などさらさら無かった。それ故、避妊具の準備など毛頭無かったのだ。そしてゴム無くしてねじ込むほど、晃汰はそんなに馬鹿じゃない。

「麻衣ちゃん、ごめん…」

 白石も一つになることを願っていただろう、晃汰は期待を裏切ってしまったことに素直に訳を話して謝罪した。寧ろこの方が、一線を超えてしまうより良いのではないかと、ちらっと晃汰は思った。だが、神様仏様白石様は、ここでも運命に悪戯をした。

「ちゃんと持ってきたよ」

 サイドテーブルに置かれた自身のポーチから、アイドルが絶対に持つことのない正方形の包みを白石は取り出した。彼女は旅行を決めた時から、この瞬間を望んでいたのだ。
 やられた。続行できる喜びと一線を超えてしまう恐怖が交錯した笑みを、晃汰は浮かべてしまった。それでも彼女が望むならば、意を決してゴムを装着しようとするが、抑されたモノは萎んでしまっていた。

「今度はわたしの番」

 それに感づき、白石はその白くて細長い指で晃汰のイチモツを愛撫し始めた。目を合わせながら刺激を続けるものだから、晃汰は準備万端を通り越して果ててしまいそうになった。

「ストップストップ!!」

 危なかった。もう少し判断が遅ければ、吐き出された白濁液が白石の端正な顔を汚していただろう。晃汰はその光景を想像しただけで、ピクッとモノが反応してしまった。そんな元気な分身にゴムを被せると、もう既にM字開脚で待っている白石に膝歩きで近づいた。

「本当にいいの?俺なんかで…」

 晃汰にとって、ここでNOと言ってもらいたい気持ちも多少はあった。バレるバレないではなく、ここで交わってしまえばお互いに取り返しのつかない領域にまで達してしまう気がしていた。それでも白石は首を縦に振る。これ以上彼女の想いを無下にはできないと判断し、晃汰は白石の白い身体に覆いかぶさった。

 

■筆者メッセージ
また間隔空いてしまいました(・・;)
Zodiac ( 2020/04/27(月) 06:57 )