乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト


















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18 独りファシズム
悪びれずに
「私、卒業することにした」

 決心を固めて今野を含む上層部に思いを伝えた夜、齋藤は電気を消した部屋の窓辺に座って男の番号を表示させた。
 深夜に電話をかけたと言うのに数コールのうちに応答した一個上のギタリストに、メンバーの誰よりも先に自分の想いを伝えた。それは誰に言われたわけではなく、自身で決めた事だ。

「そっか」

 予想通り、ギタリストから返ってきたのは素っ気ないものだった。齋藤自身もそれは分かっていたし、それ以上のお涙なんてものもまっぴらごめんである。

「最後に卒業ソング、作って欲しいな」

 断られる事などないと踏んでいたが、それでも齋藤は晃汰に彼女なりの“オネダリ“をしてみた。

「…嫌だと言ったら?」

「え!?」

 マサカの返しに、齋藤はたじろいだ。

「俺がゴネれば、飛鳥の卒業を止められるのか?」

「それは…」

 晃汰がここまで言うなんて、思ってもみなかった事だ。

「ジョークだよ」

 彼らしい冴えないジョークだ、齋藤は今日ばかりは大目に見て笑ってやることにした。

「今から行ってもいいか?梅と山下を連れて」

 独りだと思っていたギタリストは、両名と仕事から帰ってくる車中だったのだ。どうりで彼の声が雑音だらけだなと、齋藤は合点がいった。

「いいよ、来なよ。飛鳥ちゃんが美味しいお夜食作っといてあげるよ」



「だってさ」

 ステアリングスイッチを押して通話を終えた晃汰は、狭いスポーツクーペに乗り込む2人に声をかけた。彼女達はもう、込み上げてくるものを抑えるのに必死だった。乃木坂46というグループは誰が卒業しても涙腺が緩くなるが、この二人にとって齋藤飛鳥という存在はもっと違ったものだった。

「とりあえず、飛鳥んチ向かうからな」

 今の今まで気持ち良く首都高を疾走していたと言うのに、晃汰は小さく舌打ちをして適当な出口を探した。行きたくもない齋藤の家に向かう為に。

 首都高を降りてすぐ、齋藤の家に向かう道中でスーパーに入った。スーパーと言っても“お高め“なスーパーだけあって、輸入ワインやチーズといった普段の生活では揃えることの出来ない品物が並んでいる。万が一を考えてマシンに2人を置いてきた晃汰は、寂しさを紛らわせるかのように手当たり次第にカゴへと酒とツマミを入れる。

「待たせたな」

 両手にいっぱいの袋をトランクに押し込んで運転席に乗り込んだ晃汰は、ただ眼を潤ませて待っていた2人を見比べた。

「もっと遅くてもよかったのに」

 凍えるような震える声で、梅澤は晃汰を見る。

「…あぁ、待たせたな」

 狭い車室は後部座席にも手が届きやすい、ドライバーはハンカチを濡らす彼女達の頭を撫でてエンジンに火を入れた
 

Zodiac ( 2025/05/01(木) 18:35 )