乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト
















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15 46時間テレビ
違和感
 BOØWYのライヴでは定番となっていた『Prologue』が会場に響き渡ると、当時を知っているファンは立ち上がった。ビートが刻まれるタイミングとシンクロした青いストレートライトが点滅し、やがてステージ全体をこれも青い照明が照らし出す。照明が一旦落ち着き再びステージを暗闇が支配した時、演者達が持ち場についた。

 一発目は乃木坂ファンならば誰もが知る名曲、『B・BLUE』のコーラスのみが繰り返される。そしてお馴染みのイントロ、メンバーもファンもすっかりバナナマンの二人にに洗脳されているから、この曲だけは乃木坂界隈の知名度が異常に高い。ギターソロになれば、当たり前のようにステージを所狭しと駆け回る。そしてソロを弾き終えると、ルート音だけを弾きながら持ち場に戻ってくる。BOØWYをコピーするギタリストは決まって、この動作をしたがる。

「ハロー幕張!!ヨウコソ宇宙一のロックンロールショウへ!!」

 一曲目を終え、晃汰の声が会場を支配する。それに応えるように、拍手と歓声が後を追う。

「こんばんわ、丸山晃汰です!」

 ソロ布袋では必ずと言って良いほど使われるMCを、彼はそのまま流用する。

「今夜は『好きなようにやって良いよ』って今野さんから言われて、俺のやりたい事ってなんだろう?と真剣に考えました。ふと思い返せば、音楽に夢中になったのもギターを始めたのも、はたまたギタリストになってしまったのも、画面の中で見たBOØWYが、布袋さんがステキだったから。そしていつしか、BOØWYに、布袋さんになりたいと夢見て、今までギターを弾いてきました」

 普段はあまり自分の事を声高らかに話さない晃汰があれほど自分の事を語っている、メンバー達は驚きながら食い入る様にギタリストの姿を見る。

「それが今夜、本当に僕の欲望のままに布袋さんを、BOØWYを演れる瞬間がきました。一時間ですけど、そんな僕のワガママに付き合っていただければと思います」

 するとギターを身体の横にずらし、晃汰は深々と頭を下げた。場内からは拍手が起こり、思わずメンバー達も手を叩いた。

 そこからのセットリストは、初期版のLAST GIGSの中から抽出したものだった。時間が限りなくあるならば、コンプリートをそのまま演りたかったが、無理な話である。晃汰は泣く泣く削りに削り、初心者にも分かりやすい王道なBOØWYを披露した。最も有名な『MARIONETTE』、ギターソロでのウィンドミル奏法がテッパンの『NO.NEW YORK』、そしてBOØWY編の最後を飾った『ONLY YOU』。晃汰は森保の横顔を思い浮かべながら、何度も『ONLY YOU』と叫んだ。

 ギターをメタルトップのゼマイティス に持ち替えてから間髪入れずに、これも有名な『BE MY BABY』のイントロが始まる。COMPLEX編は2011年に再結成された際の使用ギターを忠実に再現する。そこから『恋をとめないで』、『RAMBLING MAN』と攻め立てる。

「幕張、楽しんでくれていますか!?」

 衣装を着替えた晃汰は、再びステージのど真ん中に戻ってきた。

「BOØWY、COMPLEXと聴いていただきました。当時を知っている方も多いんじゃないかな?」

 客席からは半数ほどの声が返ってくる。

「その時の四人、若しくは二人には到底及ばないけれど少しでも、当時の雰囲気を再現できればと思いながらやってます」

 そして真後ろのドラムに向き、アイコンタクトをして再び前を向く。ギターは真っ黒のバンビーナキャスターに持ち替えられており、文字通りに『バンビーナ』のイントロをかき鳴らした。

 ステージで吼え、踊り、ギターをかき鳴らす晃汰は、乃木坂の横でギターを弾く晃汰とは全く別人のようにメンバーの眼には映っている。いつも秘めたるものを解放したような、何か足枷が外れたようにただ愚直に、自分の欲を満たそうとしているかのように見える。表現者としてもパフォーマーとしても自分達とは比べ物にならないポテンシャルを目の当たりにして、一部を除く乃木坂メンバー達はギタリストに完璧に堕ちてしまった。

『スリル』『POISON』とソロ曲を3曲披露したところで、晃汰は一旦ステージ袖にはけた。衣装をチェンジする為だ。

「梅…」

 ここぞとばかりに、秋元は暗がりの中で梅澤を探して声をかけた。晃汰の衣装チェンジは最低でも10分はかかる、それを知っているから秋元は梅澤をアリーナの外に連れ出した。

「晃汰さん、凄かったですね!」

 開口一番、上気した頬が物語るように梅澤は晃汰を評価した。

「うん、そうなんだけど…」

 秋元は眼を伏せた。

「私たちが足枷のようになってしまっている…ですか?」

 梅澤の指摘に、秋元は俯いたまま何度か頷く。

「私も思いました。何か、私たちが晃汰さんのストッパーになっちゃってるんじゃないかなって。私たちのライヴの時にあそこまで“狂った”晃汰さん、見たことないです」

 わかりやすく肩を落とすと梅澤は、ふぅっとため息を吐く。

「実力不足、なのかな…」

 答えはわかっているけれど、わざとらしく独り言を言ってみた。アイドルになりたくてアイドルになった人間と、ギタリストを愛してギタリストになった人間、その差は歴然だった。事実、晃汰が音楽的なニュアンスを担当するようになってから、メンバー達に対する要求が多く、そして高くなった。

「そんな事…!」

 無いとは梅澤も言い切れなかった。歌にもダンスにも、まだまだ不安は抱えている。いくら笑顔を振りまくのが仕事とは言え、疎かにしてはいけない要素だと認識している。ライヴの後、映像を見ながらノートを取る晃汰の姿を何度も見たことがある。そのノートを見せてもらったことが梅澤にはあったが、殆どを専門的な言葉が埋め尽くしていて良くは分からなかった。それでも、悪い方向に自身を捉えているのだという事だけは、皮肉にも彼女には見て取れた。

 会場が再び湧き始めた。どうやらギタリストが衣装を変えて再びステージに上がったらしい。

「行こうか、梅…」

「はい」

 力の入っていない秋元の背中を追うように、梅澤も終盤に迫ったアリーナへと向かった。

■筆者メッセージ
10周年ですね。噂によると生駒ちゃんとまりっかが駆けつけたとか。こうしてOGが関わってくれるのは、嬉しい限りですね。
Zodiac ( 2022/05/15(日) 17:50 )