乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト














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13 同窓会
??曲目
 予定時間を少し過ぎて会は始まった。本来の同窓会ならば、輪の中心に成績優秀な奴やスポーツ万能な奴、学園祭で爆笑を取るような奴がいる訳だが、今夜の同窓会は一味違った。人だかりは齋藤を囲む大きな渦と、ギタリストを囲む“野郎“達の小さな輪で構成されていた。


 主役よりも目立つ事はしたくないと晃汰は当初、オーラを消して会場の端っこに陣取った。遠くに齋藤がいるのは目線で捉えているが、すぐに人だかりがそれを遮った。今夜の使命はエスコートであって護衛ではない、晃汰は下唇を突き出して額に息を吹きかけると、手に持っていたコーラのグラスに口をつけた。

「あの、晃汰さんですよね…?」

 視界の外から声が飛んできた。晃汰はゴクリとコーラを喉に通し、声のする方へ身体ごと向いた。

「晃汰さんのインスタ、いつも見てます。あの、晃汰さんのギターが好きです」

 黒縁眼鏡をかけた少しインテリっぽい青年が、緊張した面持ちで訴える。

「ありがとう。でも、あのスタイルは俺のオリジナル(個性)じゃないんだ」

 晃汰は苦笑いを浮かべながら青年の肩を叩いた。

 聞けば、彼は乃木坂にそこまでの興味は無いものの、回数こそ少ない中で乃木坂のライヴに足を運んでいた。勿論、同級生である齋藤が躍動しているのも眼に焼き付けているが、青年の視線は常にギタリストにあった。個性的なサウンドに個性的なステージング、そして個性的な衣装。高校生の頃にギターを触って以来、青年もいちギターキッズとして生きてきた。そんな中で同窓会専用のグループLINEに、とあるメッセージが投下された。乃木坂46の齋藤飛鳥と、そのギタリストである晃汰が来ると言うのだ。学生時代に齋藤とは同じクラスで同じ委員会だった。これはもしたして、青年は淡い期待を持ってこの同窓会に足を運んだ。

「じゃあ竜介は、いまは何処にも入ってないんだ?バンド、やればいいのに」

 竜介は青年の名前である。もうすっかりアイスブレイクに成功してしまった二人は、晃汰はコーラを、竜介はオレンジジュースを片手にギター談義に花を咲かせる。

「いやぁ、なかなか合う所がなくて…」

 竜介は後頭部に手をやって小首を傾げた。

「勿体ない、どんどんバンドやれよ」

 晃汰はコーラを飲み干すと、おかわりをもらおうと一歩前に出た。

「コーラで良いですか?」

 気を利かせた竜介は空いたグラスを受け取り、すぐにバーカウンターへと走った。

「随分仲良くなってるじゃん」

 カシスオレンジを持った齋藤が、群衆の間をすり抜けて晃汰に歩み寄った。質問責めにとっくに愛想を尽かしたのだ。

「あぁ、俺のギターが好きだってサ」

 変わってる奴だよ、と晃汰は付け加える。

「でも、内心は嬉しいんでしょ?」

 少し紅潮した頬の齋藤は、悪戯な笑顔を向ける。

「あぁ、だいぶな」

 そこへ竜介が二つのグラスを持って戻ってきた。

「あれ、知り合いだったの?」

 “乃木坂46の齋藤飛鳥“に初めて会う竜介は、とぼけながら二人に割って入った。

「久しぶり、新田」

「齋藤こそ。凄えテレビ出てるじゃん」

 その時、晃汰の頭の中で何かが引っかかった。竜介の左手のリングに、齋藤が彼のことを新田と呼んだこと。そしてロビーで出会った齋藤の親友の事を。

「竜介。もしかして君の奥さんて、この辺にいる?」

 少し眉を顰めて晃汰は訊いてみたが、答えは予想通りだった。竜介と明梨は同じ指輪をはめていたのだ。

「そうならそうと言ってくれればいいのに、水臭いな」

 今の今まで真実を知らなかった齋藤も、眼を白黒させながら明梨の肩を小突く。

「だって、大っぴらに言う事でもないかなぁって」

 明梨は手に持っていたオレンジジュースを齋藤の攻撃から守るように、身体を丸める。晃汰はこの時、夫妻ともにアルコールを飲んでいない事に気づく。竜介は運転があると考えれば妥当だが、明梨の方はもしかすると…そこまで考えを巡らせたが、プライベートな話を晃汰は避けた。

「結婚かぁ、良いねぇ」

 詮索していた事を誤魔化すように遠い目をした晃汰は、受け取ったばかりのコーラを一口グイッと喉に通した。我々はいつ結婚するのだろうかと、見たこともない森保のウェディングドレス姿を思い浮かべた。

「晃汰さん、彼女は…?」

 竜介が躊躇いがちに尋ねる。

「どうだろうねぇ」

 いくら同僚の同級生とは言え、素直に答えることはしない。晃汰はその場をはぐらかすと、食べ物の置かれたカートへと歩き出した。


 会も深まり、場は大いに盛り上がっている。あまり騒ぎの好きでは無い齋藤も、この日ばかりはと多少頬を引き攣らせながらその輪の中心にいた。晃汰はと言うと、やはり自分に興味のある何人かと会場の片隅でジュースを飲んでいる。

「つくばの本コースで突っ込んでさ、あん時は死ぬかと思ったよ」

 今度は車に興味のある連中が晃汰の周りを取り囲む。好きな事の話題だから、晃汰の口が休まるはずがない。

「ブレーキング、ミスったんですか?」

 同じく筑波サーキットを走ったことのある連中が、コース図を頭に思い浮かべる。

「いや、シルビアが寄ってきてさ。ヘアピンで咄嗟にカウンター当てたけど、無理だった」

 あの時の衝撃は今でも忘れられないよ、晃汰は懐かしむようにコーラを口に含んだ。

 やがて運営主催のビンゴ大会が始まった。晃汰もビンゴカードを渡されてはいたが、会費は齋藤が払ったし、外様の自分が景品に当たりでもした時の地獄絵図を考えて、その役は齋藤に委ねた。

「当選確率2倍だ、ディズニー当てろよ」

 この日の一等はディズニーリゾートのペアチケットだった。

「任せなさいよ」

 齋藤は無い胸を懸命に反らして、カードの真ん中を押し開けた。

「おぉ、気合入ってんネ」

 晃汰は再び、人だかりからコーラと共に離れた。齋藤がどんな表情で戻ってくるのか、楽しみで仕方がない。

■筆者メッセージ
やる気のある話だけ先に進めるクセ、どうにかしたい…
Zodiac ( 2021/09/06(月) 23:10 )