乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト
















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12 フィンガークロス
??曲目
「やっぱりナマは最高ですね、晃汰さん!」

「あぁ、仕事終わった後はナマに限るな」

「ナマって言いたいだけだろ!」

「よくそんなにビール飲めるね…」

 キンキンに冷えたジョッキを片手に、山下と晃汰は満面の笑みを浮かべる。テーブルを隔てた向こう側では文字通りに梅酒を頼んだ梅澤、ウイスキーを舐める齋藤がそれぞれ冷ややかな眼で二人を見る。

「よかったですね、こういうブース?お店みたいのがあって」

 山下が表現したように、居酒屋とまではいかないまでもお酒を楽しむことができる旅館内の店の中を見渡す。

「前もって下調べしてたんだろ、どうせ。誰かに酒をたかろうとしやがって」

 汚い言葉で捲る晃汰だったが、やはり一仕事終えた後のビールを仲間と飲むのは格別に感じている。その証拠に彼の頬は緩みっぱなしである。

 夕食が食べられなくなってしまうのを危惧して、四人は一皿の枝豆をツマミとして分かち合った。それでも、普段から仲の良い三人娘と殆どメンバーと同じ立ち位置にいるギタリストを混ぜてしまえば、盛り上がらない訳がない。

「私とか高山さん達の衣装、めちゃくちゃエロくないですか?着てて恥ずかしいんですけど…」

 一杯目の生ジョッキを早々と空にした山下が、二杯目のジョッキを持ちながら隣の晃汰に意見を述べる。

「あれはエロいわ。同僚をそういう眼で見てないけど、脚フェチの俺には堪らないよね」

 脳裏にメンバー達のヘルシーな美脚が蘇る。特に劇中で美脚軍団と呼ばれる三人は、清純をうたう乃木坂とは思えないほどにアグレッシヴな衣装を着用している。それが男性陣の眼を釘付けにしたのは言うまでもない。

「でも、まどかさんの方が良いんですよね?」

 ほろ酔い状態の梅澤が核心をつく。

「当たり前だろ、彼女以外に欲情なんてしねぇよ」

 そう言って晃汰は残っていたビールを飲み干した。

「最後に会ったのはいつですか?」

 山下が拍車をかける。

「半年前とかかなぁ。もうだいぶ会ってない気がする…元気でやってんのかな」

 遠い眼をする晃汰だったがつい昨晩も数時間あまり、電話をする程に今でも熱々だ。

 会計を済ませた晃汰に、先に店を出ていた三人はキチンと頭を下げた。照れ隠しに浴衣の襟を正して見せた晃汰は、先陣を切って宴会場へと歩き出した。



 宴会と言っても酒を酌み交わすものではなく、裏方全員も含めての夕食会だ。飲みニケーションという言葉が大嫌いな晃汰は、先ほどのような少人数での飲み会を好むが、大人数での酒は好きではない。故に今夜も同僚達と、酒よりも食事を味わいたかった。

「あの車たち、凄かったね」

 隣に座る生田がいつものように、テンション高めに尋ねてきた。

「えぇ、みんなレースとかで知り合った人達なんです。今回こういうMVを撮るから協力してくれないかなって、そこから話が始まって」

 今思い出しても、あれだけのマシンが並ぶ事はそうそうない。高速代とガソリン代、昼の弁当だけで快く引き受けてくれたオーナー達に、晃汰は感謝しかなかった。

 食事は豪華そのものだった。久しぶりの温泉に浸かったあとだから、ただでさえ豪勢な料理が何倍も美味しく連中は感じられた。

「はい晃汰、あ〜ん」

 逆隣の秋元からマグロの刺身を差し出され、彼氏彼女の要領で晃汰はそれを受け入れる。他人に甘えたい秋元となんだかんだ甘えられるのが嫌いではない晃汰の利害が一致し、二人はニヤニヤと締まらない笑顔を浮かべる。それを見ていた生田は大層機嫌が悪くなり、今度は晃汰が生田に餌付けをしなければならなくなった。

「めんどくせぇな、この年上たち…」

 二人に誘われるがまま、この席についた事を晃汰は心底後悔した。自由席なんだからもっと安全地帯を確保すべきだったと思っても後の祭りだ。ダル絡みが激しい両隣の生き物を、晃汰は変わる変わる世話してやった。

「ダルそうだね」

 通路を挟んだ背後から、星野の声が聞こえた。晃汰が振り返ると、いつもの通りニコニコと彼女は微笑んでいた。

「そう思うなら助けてくれや」

 晃汰はため息を吐くと同時に肩を落とす。

「嫌だよ。そういう役は晃汰にしかできないからね」

 そう言って星野は向き直ると、隣に座る久保と大園と再び食事を楽しみ始めた。

「なに晃汰逃げようとしてんの?まさか私たちから逃げられるとでも?」

 邪悪な眼をした生田が晃汰に肩を組んできた。深夜になると彼女のテンションがブチ上がるのは、関係者やファンの間ではあまりにも有名である。観念した晃汰はため息を一つ、空になった生田のグラスにジュースを注いだ。


Zodiac ( 2021/08/02(月) 06:42 )