乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト













小説トップ
12 フィンガークロス
??曲目
 結局、あの会議の場で晃汰の企画は承認された。美少女達に車を掛け合わせると何が生まれるのか、狂気的発想力を持つ晃汰の腕加減を首脳陣は期待しての事だった。無論、反対した者はない。

 決議が通ってからの晃汰の動きは、いつにも増して早さに磨きがかかっていた。
 まず、自身のツテを伝って企画書に載せた通りのマシンを片っ端から当たる。見た目や仕様などはどうでもよかったが、限定○○台といったレア車においては、ドンズバである必要があった。だが、それにおいても日数を要さずに手配する事ができた。足繁くサーキットやショップに足を運んでおいて良かった、晃汰は手配が済んだ車両に丸を付けながら思った。

 プロデュースを担うと言っても限界がある。衣装やダンスなど晃汰の能力を以ってしても補えきれない部分は、チーム乃木坂が誇るプロ達に要請する。プロデュース頭である晃汰は仁義を通す為、そんな各方面のプロ達に頭を下げて回った。今回も最高のパフォーマンスをと、チーム乃木坂の若きエースの呼びかけに呼応するかのように皆、右手を差し出すのだった。

 しかし当然、プロデュースを全般的に行うのだから仕事量は倍増する。楽曲作りは元より今回の方向性を明確にした上でのビジュアル制作やMVのストーリーや構成の打ち合わせなど、普段は秋元が取り仕切っている分野を自らの手で晃汰が決めていく。


「思ったより大変だな、この仕事」

 一度やると決めた事を諦めることはないが、明らかに今までの仕事よりも量が多い。

「容易くホイホイ受けるから」

 飲み物を持ってきてやった竜恩寺が、ため息で前髪を揺らす晃汰を茶化した。
 真夜中のミーティングルームには、彼ら以外誰もいない。いつにも増して大役を担う晃汰の事を誰よりも気にかけている竜恩寺は、酒を酌み交わす事よりもこう言った何気ない時間を大切にする。

「んな事言ったって、やりたいモンはやりたいだろうよ」

 ニヤッと笑う晃汰は、竜恩寺に差し入れてもらったエナジードリンクの缶をあけた。炭酸が強い部類のものを容易く一気飲みし、空っぽの缶をテーブルに置いた。

「まだ忙しくなるぞ。その時は…宜しくな」

「今だって、充分忙しいだろ」

 竜恩寺は立ち上がり、晃汰の拳と自身の拳を合わせて部屋を出た。瞬時に読み取った口調や顔色、目線の運びで晃汰の健康状態、心理状態を竜恩寺は把握していた。好きな事に対して愚直なまでに貪欲で、自分の限界を知らずに強制停止するまで走り続ける時の眼を、晃汰はしていた。

「いつになっても馬鹿だなぁ」

 誰もいない廊下で、竜恩寺はひとり呟いた。



 数日後、選抜メンバーを集めて初めてのミーティングが開かれた。Host(主催者)は勿論晃汰だ。

「今回は、車です」

 自分を見つめてくるメンバーの顔を見渡す晃汰は、力強く訴えた。毎回のようにシングルの内容を聞かされていなかった面々は、晃汰のその暑苦しさも相まって息を呑み込む。

「舞台は海岸沿いのダイナー、そこは全国各地からスピード自慢のマシンが集まってくる言わば溜まり場です」

 上層部にプレゼンした時と同じように、今回の内容を晃汰は説明していく。背後に映し出されるプロジェクターの画面を使いながら、身振り手振りで自身の思いの丈をメンバーに伝える。
 ただ、ここでも晃汰の悪い癖が出る。肝心のストーリーや設定はほどほどに、登場するマシンの説明に時間を割きすぎた。欠伸の回数が増える中、ギタリストではなく違う道を歩んだ方がいいのではないか、晃汰の有り余る情熱を心配そうに見守った。

「話は長くなりましたが…」

 立ち上がってツッコミを入れたくなる程にギタリストの演説は長かった。これがクルマバカか…と、連中は今回のPVが無事に撮り終わればそれで良いとさえ思い始めていた。


「話長いですよ、みんな飽きてましたよ」

 椅子にもたれてミルクティーを啜る晃汰に、梅澤が近づく。ミーティングが終わったというのに、周囲にはまだ殆どのメンバーが居座っている。

「途中から自分でも分かってたよ。けど、中途半端に伝えるよりは全部言っちまった方がいいかなって」

 晃汰は梅澤を見上げる。

「ほんと、長かったぁ。けど、晃汰が本当にクルマ好きなんだなって事は伝わったよ」

 最近アイメイクを変えたばかりの高山は、美脚をスラリと伸ばした体勢で長机の端に少しの体重をかけた。

「好きじゃなきゃ、あそこまで延々喋らないですよ」
 
 前髪をかきあげると同時に晃汰は席を立った。資料と空いたミルクティーの缶を持っているから、もうここには戻ってこないつもりだろう。周囲に集まってきた面々も、彼が腰を上げるのをきっかけに散っていった。

 デスクに戻った晃汰は、バッテリーが満タンになったスマホを手に取った。最近は晩まで充電がもくことがなく、新型への買い替えを検討しているところである。ふと、通知を見るために画面を叩くと、森保からの不在電話が表示されていた。その電話を説明するかのように、すぐにLINEが送られてきていることも、通知が物語っている。
 彼女から電話がある場合は大抵夜が多い。「声が聞きたくなった」と甘い言葉を添えて、少し鼻にかかった柔らかい声が晃汰は好きだった。

「どうした?」

 何か良くないことでも起きたかと、晃汰は自分の声が少し震えてることに気づく。

「ちょっと話しておきたい事があって…」

 森保の言葉で、もうコトが決まってしまっているのだと晃汰は察した。

「今夜行くよ、待ってて」

 晃汰はスマホを耳から離すと、赤いボタンを押した。それからと言うもの、晃汰は仕事が手につかなくなった。考えられるありったけの最悪のシナリオを思い描く。真っ先に頭に浮かんだのは妊娠だった。だがそれは、行為に及んではいるものの毎度の二人の“隔たり“と、生理不順を正す為に森保が飲んでいるピルのおかげで、直ぐに候補から消し去った。後は…と考えれば考えるほどどうにかなってしまいそうだったから、晃汰は飛行機を予約してからはその事を頭の中から消し去った。

「遠距離は辛いな…」

 屋上でコーヒーを啜りながら晃汰は呟いた。これほど就業時間が永く感じられたのは初めてかもしれない。晃汰はやけに遅く動く腕時計の針を睨みつけた。

■筆者メッセージ
またまた久しぶりになってしまいました。もりぽの卒業をどうリンクさせて行こうかが、かなり難しいんです。そしてそれは今後も…
Zodiac ( 2021/06/04(金) 07:05 )